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司法はいったい誰の味方? 被害者の個人情報を加害者に開示してしまう裁判所の愚行

nry01.jpgブログ作成者が使っていたIPを管理する企業に
接続業者から届いた同意を確認する通知文書。
請求者名に野村総研代理人の名前があるのがわかる。

 本サイトでもたびたび報じてきた、いわゆる「野村総研強制わいせつ事件」(記事参照)。日本を代表するシンクタンク企業、野村総合研究所(以下、野村総研)の元上海支社副社長のY田氏が、取引先の女性社員に強引に性行為を迫るなどのわいせつ行為を働き、被害者女性の友人有志らがこれをブログなどで告発したところ、野村総研側は「ブログの内容はデマで名誉棄損」として、被害者女性本人を相手取り、1,000万円の損害賠償訴訟を昨年5月に提訴。ところが、女性本人はブログ作成に一切関わっていないため、今回の提訴が「素人女性の恫喝を目的とした典型的なブラック企業の手口」(ブラック企業アナリストの新田龍氏)として一部から批判を呼んでいる。

 よりによって被害者女性を被告に立てて訴訟を始めてしまった野村総研だが、その裁判が提訴から9カ月経過した今も一向に進展していないのは前回報じた通り(記事参照)。行き詰った野村総研側の弁護士が、今度はブログ作成者のIPアドレス開示を求める裁判を別途起こし、これを認める判決が先ごろ出てしまったことから、問題が「企業幹部の性犯罪」から「個人情報の開示」へと飛び火する騒ぎとなっている。

 一般に、ネット上の個人情報の開示については、いわゆる「プロバイダ責任制限法」に基づき、記載内容が事実誤認で関係者の権利が侵害されたことが明らかな場合などに原則的に限られている。開示までの流れはおおむね以下の通りだ。

 まず、情報請求者がブログ作成者の情報開示を求める場合、ブログサービスを提供している会社(例:Yahoo!JAPANや楽天、Amebaなど)にIPアドレスの開示を請求する。多くの場合はこれが拒否されるため、請求者はサービス提供会社を被告に立てて開示請求の訴訟を起こし(現状は、まずは仮処分の申し立てを行うのが一般的)、権利侵害が明らかであることが立証できれば、裁判所はサービス提供会社に対してIPの開示命令を出す。

 IPを開示してもらった請求者は、次にこのIPを解析して接続業者(プロバイダ)を独力で探し出す。接続業者にたどりつけたら、「このIPの人物の住所・氏名を教えなさい」とする通知を送付。これを受けた接続業者は、ブログ作成者本人に「こういう通知が届いていますが同意しますか」と通知する。たいていはブログ作成者がこれを拒否するので、次に請求者は接続業者を被告に立てて、前回と同様に開示請求訴訟を起こす。裁判所が「権利侵害が明らかである」ことを認めれば、個人情報は開示されることになる。ちなみに今回の場合は、接続業者からブログ作成者が使っていたIPを管理する企業に同意を確認する通知が届いた段階だという。

 以上は簡単な流れだが、肝心なのは、プロバイダ責任制限法で開示を認めている基準は、記載内容が事実誤認であるなどして、権利侵害が明らかな場合に限られるという点だ。仮に、野村総研のY田氏が、身に覚えのない性犯罪行為をデタラメに書かれたのであれば、権利を侵害されたとしてIP開示は当然だろう。今回のブログはその点でどうなのだろうか。作成に携わった一人は「全て事実」と断言する。

「あそこに書かれているのは、野村総研に対して照会確認までしている事実や、すでに裁判やニュースで公になっている情報を転用したものです。今回、裁判所がIP開示を認めたということは、書かれている内容が事実誤認で野村総研の名誉を棄損していると認めてしまったことになります。裁判所は性犯罪被害者より、加害者である大企業の味方なのでしょう。そもそも、今回の個人情報の特定も目的が見えません。なぜなら、我々は最初から連絡先住所も明記した上で野村総研に通知書や照会確認書を送っていますし、反論があるならそこへ対して訴えるようにも通知しているんです。それもしないでおいて何をしたいのか。要するに、個人への嫌がらせをしたいだけなのでしょうね」

 それにしても、裁判所はなぜあっけなく開示を認めてしまったのか。今回の訴訟を見続けている司法関係者も、この裁判所の判断を「ありえない」と否定的だ。

「IP開示を認めたということは、ブログが野村総研の名誉を棄損していると裁判所が判断したことになるわけですが、本筋の裁判でまだ結論も出ていないどころか、裁判長に”注意”まで受けるほど野村総研側が追い詰められている段階なのに、ここで開示を認めてしまうのは一般的な感覚から見てもおかしい話です。ましてや、今回のように企業幹部の性犯罪が告発されているような場合は、個人情報の開示には慎重になるべきです」

 ここでいう、野村総研が裁判長から受けた”注意”とは何なのか。先の傍聴人が公判の模様を説明する。

「野村総研はブログの内容が事実誤認だとして訴訟を起こしたのだから、さっさと『ここがデマだから立証しろ!』と攻撃すべきなのに、その指摘を全くしない。理由は明らかで、ブログの内容が全部本当だからでしょう。被告側が証拠をそろえているのを勘づいているので、『立証せよ!』なんていって本当に立証されたら困るわけです。かといって今さら裁判を取り下げることもできない。完全に手詰まりの中で、前回公判では、野村総研の代理人の森・濱田松本法律事務所の高谷知佐子弁護士が、見かねた裁判長から『このままでは裁判は継続できませんよ』と、異例の注意まで受けています。つまり、ブログの中身はそれほど信憑性が高いということです」

 そうした中で野村総研側が苦し紛れに起こしたIPの開示訴訟を、”もう一つの”裁判はあっけなく認めてしまったわけである。開示基準はいったいどこにあるのか。プロバイダ責任制限法に詳しい別の弁護士は、同法のあいまいさを問題視する。

「『権利侵害が明らかな場合に開示は認められる』といいますが、何をもって権利侵害というのかという基準がすごくあいまいなんです。ひどいストーカー被害を何年も受けている女性の開示請求を認めないこともあるのに、今回みたいに性犯罪行為を繰り返す側に、あっけなく開示してしまう場合もある。しかもそういうパターンが増えています。裁判所でも法の運用が固まっていないんですよ。特に最近はネット掲示板やSNSなどの書き込み被害が多いので、一部の裁判官たちの間でネットへのイメージが悪化していて、開示のハードルが下がっている。結局は裁判官の個人的な心証で決まってしまう場合が多いんです」

 たしかに、デマや誹謗中傷で特定の個人を貶める行為がネット上に氾濫していることは大きな問題だが、今回のように裁判官の個人的な心証で簡単にIPが開示されてしまうのであれば、社会的立場の弱い個人が巨悪を告発する道が閉ざされることにもなりかねない。根拠となる法律の解釈が極めてあいまいである現状について、行政はどう考えるのか。プロバイダ責任制限法の監督官庁である総務省に聞くと、なぜか終始半笑いの答えが返ってきた。

「そうですねぇ(笑)、情報開示については裁判所のご判断ですので……(笑)。法解釈のあいまいさが指摘されていると言われましても、うーん、まぁ、さようでございますか、としかお答えのしようがないといいますか(笑)」(消費者行政課)

 司法も行政も、守るべき対象と基準を見誤っているのではなかろうか。
(文=浮島さとし)

セクハラの誕生: 日本上陸から現在まで

本格上陸から30年だそうで。

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最終更新:2013/09/09 13:07
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