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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.270

フェイクドキュメンタリーの金字塔が初DVD化! 一線を越えた“映画愛”の結末『ありふれた事件』

arifuretajiken01.jpgHDリマスター版として初DVD化された『ありふれた事件』。殺人鬼ベン(ブノワ・ポールヴールド)の凶行がドキュメンタリータッチで描かれる。

 ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(50)、ティム・バートン監督の『エド・ウッド』(94)、デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(01)、今敏監督の『千年女優』(02)、アミール・ナデリ監督の『Cut』(12)など、“映画”そのものをテーマにした映画は少なくない。映画監督たちの映画への溢れんばかりの情熱が観る者を魅了するわけだが、そこには映画人ならではの“狂気”も同時に描かれている。日本では1994年に劇場公開されたベルギー映画『ありふれた事件』(92)にも、そんな映画人たちの一線を越えてしまった野心と狂気がモノクロ映像の中にくっきりと映し出される。劇場公開から20年の歳月を経て、映画マニアたちに愛され続けてきたカルト映画『ありふれた事件』が初DVD化されることになった。

 フェイクドキュメンタリーとして作られた『ありふれた事件』の表向きの主人公は“連続殺人鬼ベン”ことブノワ・バタール(ブノワ・ボールヴールド)だが、本当の意味での主人公はベンを密着取材している監督のレミー(レミー・ベルヴォー)、カメラマンのアンドレ(アンドレ・ボンゼル)ら撮影クルーたちだと言っていい。レミーらは斬新な自主映画を作りたくて堪らない。連続殺人鬼の日常を追ったドキュメンタリー映画を撮り上げることで、寝ぼけた映画界に殴り込みを掛けてやろうと企んでいる。園子温監督の『地獄でなぜ悪い』(13)のファックボンバーズように、まだ誰も撮ったことのない衝撃作を撮りたくて悶え苦しんでいるビンボーな若者たちの物語だ。「このドキュメンタリー映画が公開されれば、映画界の歴史を塗り替えることができる」という熱い想いを抱き、ベンが殺人を次々と犯していく様子をカメラで追っていく。

 レミーたちが被写体として追うベンは、ホラー映画にありがちな快楽殺人鬼ではない。食べていくための生業として、強盗殺人を重ねている。いちばんのターゲットは郵便局員だ。月はじめの郵便局員のカバンには、街中の高齢者たちに届ける年金が入った現金書留がたんまりとある。しかも、年金生活している高齢者たちの住所まで手に入って一挙両得だ、とベンはにんまり笑顔を見せる。ひとり暮らしの高齢者が暮らすマンションを訪ねたベンは、同行取材する撮影クルーをうまくダシに使う。「どうも! お年寄りの方たちに“孤独”に関する意識調査を行なっています。ちょっとインタビューいいですか?」と言葉巧みに部屋に上がり込み、高齢者たちの余命とタンス預金をいただいてしまう。

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