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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.291

変態だっていいじゃないの、だって人間だもの。怒濤のセックス大河ドラマ『ニンフォマニアック』

nymphomaniac02.jpg高校生になったジョー(ステイシー・マーティン)は、親友Bと列車内で何人の男とエッチできるかを競い合う。このゲームで男の扱い方をほぼマスター。

 Vol.2で結婚&出産を経験するジョーは、新人ステイシー・マーティンからシャルロット・ゲンズブールへバトンタッチ。ステイシーの鮮烈なスレンダーボディが、唐突にゲンズブールの疲れ果てた熟女ヌードに変わることに戸惑いを覚える。愛のないセックスを繰り返していると、肉体も人格も別人のように変貌してしまうのだろうか。ぜひ「an・an」のセックス特集班に解明してほしい。家庭を持ち、母親になったことで、ジョーの二股三股は当たり前、一時は8人と分刻みで付き合っていた性生活も落ち着くかと思えば、さらにアブノーマルなプレイへと向かう。まだ幼い子どもを放ったらかして、SMサロンを主宰するセックスセラピスト・K(ジェイミー・ベル)のサディスティックさにハマってしまう。ジョーは家庭よりも快楽追求を選んでしまった。歯止めを失った彼女は、生きながら性の無間地獄へと堕ちていく。

 家庭を失い、ますます過激なセックスにのめり込んでいくジョー。道端にいた黒人の巨根ブラザーズをホテルに呼び出し、3Pにも挑戦する。ジョーの暴走は、勤務先でも大問題となっていた。誰とでも寝るジョーがいることで、職場が混乱して会社として機能しなくなってしまったのだ。上司からの命令で、ジョーはセックス依存症の治療を受けることに。自分の性欲を制御できるように努力するジョーだったが、セックス依存症患者たちが集まる互助会に参加していく中で、ジョーの我慢袋が爆発する。「私はセックス依存症じゃない。私は色情狂なだけよ!」と啖呵を切るジョー。自分自身にとても正直なジョーは限りなくかっこよく、そして限りなく痛々しい。

 映画には多かれ少なかれ監督個人の変態性が作品の中に滲み出るものであり、そういった作品が「作家性がよく表れている」と高く評価される傾向にある。さしずめラース・フォン・トリアー監督は、変態映画の王道をぶっちぎりで暴走する孤独なトップランナーだ。前作『メランコリア』(11)では、鬱状態の主人公を演じたキルスティン・ダンストが全裸でオナニーするシーンが強烈だった。キルスティン・ダンストは地球が滅亡する瞬間に、かつてないエクスタシーを感じていた。シャルロット・ゲンズブールが主演した『アンチクライスト』(09)ではセックスと罪悪感との関係を掘り下げていった。このテーマは『ニンフォマニアック』vol.2でも引き続き取り上げられる。過激な内容から難解なイメージを抱かれがちなトリアー監督作だが、『ニンフォマニアック』はとても分かりやすい娯楽作品に仕上がっている。トリアー監督に言わせれば、自分の体の中に湧き上がる欲望をうまく押し隠せる人間こそが、立派な社会人だということらしい。でも欲望を完全に切り離してみせる聖者よりも、自分の欲望にのたうち回るジョーのほうがとても人間らしいではないか。

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