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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.306

これからボクの彼女(前田敦子)が枕営業します 男女の性欲と本音が交叉する『さよなら歌舞伎町』

sayonarakabukicho01.jpg愛情の濃さとセックスの濃さは比例するのか? 染谷将太と前田敦子が共演したR15指定の恋愛群像劇『さよなら歌舞伎町』。

 前田敦子が“枕営業”を持ち掛けられるミュージシャンの卵を演じていることで注目されている『さよなら歌舞伎町』。ラブホから出てきた前田敦子の口から「好きでやったわけじゃないよ。マクラだからいいじゃん。デビューできるし……」なんてビッチな台詞が飛び出す。寺島しのぶを演技派へと覚醒させた『ヴァイブレータ』(03)など数多くの官能映画を手掛けてきたベテラン脚本家・荒井晴彦と廣木隆一監督がタッグを組んだ群像劇である本作。新宿・歌舞伎町にある一軒のラブホテルに秘密を抱えた男女が次々と現われ、溜っていた性欲と本音を吐き出し、そして去っていく。歌舞伎町のありふれたそんな日常風景が、ラブホ店長役の染谷将太の目線で描かれていく。

 すげぇ~気持ちよかった! そう思って、同じ相手と同じ場所、同じ体位でもう一度セックスしても、同じような快感が得られるとは限らない。セックスとは一期一会のライブセッションだ。お互いのコンディションやモチベーションが微妙に異なれば、男性器の勃起度も女性器のウェット加減も変わってくる。それゆえ、そこで生まれる感情も毎回違ったものになる。生涯忘れられない会心のコラボレーションがあれば、逆にトラウマ級の悲惨な体験も存在する。その日、歌舞伎町にある平凡なラブホテル「ATLAS」では、いつもと同じように多くの男女がセックスに励んでいた。そして、その中の幾つかのセックスは、当事者たちにとって人生の重要なターニングポイントとなる。雇われ店長・徹(染谷将太)にとっても、大事な女性のセックス現場に接近遭遇することになる。

 徹は同棲中の恋人・沙耶(前田敦子)や田舎で暮らす家族には一流ホテルに勤めていると話しているが、実は歌舞伎町のラブホが彼の勤務先だ。一流ホテルもラブホも同じサービス業、一流ホテルマンになるための修業期間だと自分に言い聞かせながら働いている。その日は午後からAVの撮影が入っていた。今さらAVの撮影にいちいちコーフンしないが、メイク中のAV嬢の顔を見て徹は驚いた。地元で専門学校に通っているはずの妹・美優(樋井明日香)ではないか。えっ、どーゆーこと? ラブホの店長という立場を忘れて妹を問い詰める徹。「お兄ちゃんこそ、なんでここにいるの?」と美優もびっくりだ。妹から事情を聞いた徹は、何も言えなくなってしまう。震災の影響で実家の経済状態は、東京で暮らす徹が考えていた以上にドン底だった。両親に負担は掛けられないと、美優は自分で学費を稼ぐためにAVに出演するようになったのだ。「AVなんか辞めろ。お金は俺がどうにかする」とは今の徹には言えなかった。美優が「保育士になる」という夢を忘れていないことがせめてもの救いだった。

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