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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.315

世界の終わりに咲いた、世界でたったひとつの花 モキュメンタリーの終着点『コワすぎ! 最終章』

kowasugi0402.jpg『コワすぎ!』取材クルーのカメラマン田代(白石晃士)。異世界へと姿を消してしまった工藤と市川を救出するために孤軍奮闘する。

 巨人との遭遇の一件以来、工藤ディレクターとアシスタント市川は姿を消したまま。ずっと取材を共にしてきたカメラマン田代は、2人がまだ異世界で生きていることを信じている。そして、東京の上空には巨大な人影がぽっかりと浮かぶ。劇場版のラストシーンに続く形で最終章が始まる。東京上空に浮かぶ巨大な人影を人々は巨人と呼んでいるが、これは工藤ディレクターたちが「タタリ村」で目撃した鬼神兵と関係していることは間違いない。一連の巨人騒ぎを収録したドキュメンタリー映画『コワすぎ! 劇場版』は大ヒットしたが、ひとりぼっちになった田代は歓びを分かち合う仲間がいない。孤独を噛み締めながら田代は劇場版の売上げで、自分が使っているハンディカメラから世界中に配信できる「T-stream」を開発。深夜に田代がさっそく生中継を始めると、カメラの前に忽然と謎の男(宇野祥平)が現われる。正体不明のこの男は、こっちの世界とあっちの世界との境界が曖昧になっていることを告げる。さらに工藤と市川はあっちの世界で生きており、その救出に手を貸すという。

 カメラを手にした田代は謎の男の指示に従って、工藤と市川をこの世に甦らせるための試練に臨むことになる。「古事記」の黄泉がえり伝説を思わせる展開だ。夜明け前の真っ暗な東京をさすらう田代と謎の男。東京上空に浮かぶ巨人はますます巨大化し、この世とあの世との境界線が崩壊寸前なことを知らせている。暗闇では黒いゴミ袋で作られた等身大の人形たちが蠢いている。このゴミ袋人形は、『ハウルの動く城』(04)に出てきたブヨブヨのゴム人間みたいで気持ち悪い。街ではサイレン音が低く鳴り響く。この世界がゆっくりと崩れていく様子を、田代のカメラはリアルタイムで中継していく。

 世界はこんなふうに終わっていくのかもしれない。3.11後の眠れない日々が続いたあの恐怖感を、白石監督は低予算作品の中で再現してみせる。未曾有の事態をテレビの中継画面は映し出す一方、その合間には間の抜けた公共CMが流れ続けたあの奇妙な数週間。フィクションであるはずの『コワすぎ!』だが、作品の中に漂う不穏さ、確かな情報がない中で決断を強いられる主人公の戸惑いがひどくリアルに感じられる。『コワすぎ!』シリーズに出演した人々の多くは、その姿を消してしまったともいう。どこまでがリアルで、どこからがフィクションなのか、その境界線はとても曖昧だ。

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