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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.328

児童虐待、学級崩壊、独居老人にどう対処する? 『きみはいい子』の教師が考えた風変わりな宿題

kimihaiiko01.jpg小学校の教師・岡野(高良健吾)は児童らが直面する家庭の問題に有効な手だてを思いつけない。孤立した子を見守ることが唯一できることだった。

 「先生は怒るのに、もう疲れました。そこで難しい宿題を出すことにします」。小学校の教師である岡野は、授業中に好き勝手にしゃべり、動き回る子どもたちを前にそう宣言する。自分が担当するクラスが学級崩壊してしまい、マジメな生徒まで不登校になってしまった。教師としての自信を失った岡野にとって、この宿題はクラスを再生させるための最後の切り札だった。岡野の出した宿題の内容を知り、子どもたちは口ぐちに「ヘンタ~イ! ヘンタ~イ!」と騒ぎ立てる。学級崩壊、幼児虐待、独居老人……シビアな社会問題を扱った中脇初枝の連作小説集『きみはいい子』が映画化された。池脇千鶴の熱演を引き出した『そこのみにて光輝く』(14)の呉美保監督と脚本家の高田亮が再びタッグを組み、原作が取り上げた難問の数々に向き合っている。

 2010年に大阪のマンションで起きた2人の幼い姉弟の餓死事件がきっかけで、小説『きみはいい子』は書き下ろされた。同じひとつの町で起きた出来事が、5つの短編小説として描かれている。映画版では原作の5つのエピソードから「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」「こんにちは、さようなら」の3つを選び出し、ひとつの物語にまとめ上げた。それぞれのエピソードが少しずつ重なり合い、登場人物たちが意外なところで繋がり合うことで、ひとつの町が成り立っていることを浮かび上がらせている。

 肉親による幼児虐待を描いた「べっぴんさん」のエピソードは、尾野真千子が一児の母・雅美を演じる。雅美は3歳になる娘・あやねとマンションで暮らし、夫は単身赴任中でめったに帰ってこない。雅美は日々の不安や苛立ちを、娘にぶつけてしまう。ある日、同じマンションに住むママ友・陽子(池脇千鶴)のベビーカーをあやねが倒しそうになった。部屋に帰って、母子2人きりになると、雅美は娘の襟首をつかみ、床に放り投げ、ビンタの嵐を見舞う。尾野の演技が迫真なだけに、異様に恐ろしい。『愛を乞う人』(98)の原田美枝子とタメを張る怖さだ。アザができるほど娘のあやねを折檻した雅美は、その直後に自己嫌悪に陥り、トイレに篭って泣く。雅美も子どもの頃に母親から折檻されて育った。母親のことを憎んでいたのに、自分が母親になったら同じことを繰り返してしまう。雅美の泣き声を聞いたあやねが、トイレのドア越しに「ママ、ママ」と呼び掛けてくる。小さな彼女は母親が自分を置いてどこかに消えてしまうのではないかと不安で堪らないのだ。いい母親になろうと思えば思うほど、雅美はより追い詰められていく。

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