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背景に格差社会への鬱憤も……36人死亡の上海外灘雑踏事故から浮かび上がる、中国の矛盾

511AokjPguL.jpg『上海36人圧死事件はなぜ起きたのか』(文藝春秋)

 2014年12月31日、上海臨海部の観光名所「外灘(バンド)」で悲劇的な事故が起こった。この日、カウントダウンイベントを楽しむために、30万人以上の若者たちが押し寄せた。中でも、対岸となる浦東地区のビル群が一望できる、高さ3.5メートルの展望エリアに人の流れは集中。この付近では身動きも取れない状態が続き、23時35分、幅6メートル、17段の階段で将棋倒しになる転倒事故が発生した。カウントダウンの華やいだ雰囲気は、一転して36人が死亡する大惨事へと姿を変えた。

 この事故の背景を、経済事情や所得格差、そして行政、メディアなど多方面から分析したのが、ジャーナリスト加藤隆則氏による『上海36人圧死事件はなぜ起きたのか』(文藝春秋)だ。悲劇的な事故の背景を読み解いていくと、そこには中国が抱えるさまざまな矛盾が浮かび上がってきた。

 中国において、「年越し」は旧正月である春節を意味する。ほとんどの中国人は、新暦の元旦に対して特別な日という実感を持つことはなかったが、1990年代以降、改革開放が本格化し、西洋文化が社会に浸透することで、若者を中心に「カウントダウンイベント」に対する興味が芽生えてくる。中でも3年連続で行われてきた外灘のカウントダウン映像ショーは、ニューヨーク・タイムズスクエアやパリ・エッフェル塔に匹敵するような世界的なカウントダウンイベントを目指して、上海市でも積極的なPRを行ってきた。

 しかし、事故当日、カウントダウンイベントは外灘ではなく、別の場所で行われていた。

 安全上の理由から、500メートルあまり離れた「外灘源」での開催に変更されていたカウントダウンイベント。しかも、例年とは異なり、入場者数も数千人に限定し、チケットを入手しなければ入れない閉鎖スペースでの実施となっていたのだ。この変更は11月の段階で決定されていたものの、告知がなされたのは12月23日になってから。さらに、翌々日には地元紙がSNSの公式アカウントに「カウントダウンイベントを中止するかは決まっていない」と投稿するなど、情報は錯綜する。また、入場券は、主催者や上海市、そしてメディア関係者など一部の人々に割り当てられただけで、一般人がイベントに参加することはそもそも不可能だったのだ。もしも、正確な情報が伝わっていれば、未曾有の大惨事は防ぐことができただろう。

 では、なぜ情報は伝わらなかったのか? 加藤氏の分析によれば、「観光振興やブランド力アップのため、上海市がこれまで力を注いできた外灘カウントダウンの国際戦略を頓挫させるわけにはいかない」「入場券が特定範囲にしか配布されない不公平・不公正を隠蔽するため、奥歯に物が挟まった言い方しかできなかった」という行政側の事情が浮かび上がってくる。

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