深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.353

地縁血縁とは異なる新しい家族の形。ロッキーのもとに集う“荒ぶる魂”たちの物語『クリード』

creed02フィラデルフィアでボクシング修業に打ち込むアドニス(マイケル・B・ジョーダン)。親の七光りを嫌い、「クリード」の名前は封印する。

 男子にとって父親は越えるべき大きな山である。大きな山を越えようと日々琢磨することで、男子は大人の男へと成長を遂げていく。でも、アドニスが生まれる前にアポロはあの世に逝ってしまった。越えるべき山が生まれたときからすでにない。これは辛い試練だ。見えない山を求めて、果てしなく坂道を登り続けなくてはいけない。そんなアドニスの空っぽな心の中には、空虚さを埋めるかのように“荒ぶる魂”が宿っている。いくら好条件の職場で働いていても、住み心地のよい自宅があっても、アドニスは自分の中の荒ぶる魂を抑えることができない。会社を辞め、自己流トレーニングを積んできたボクシングの世界に身を投じることをメアリー・アンに告げる。肉親以上の愛情を注いでくれた育ての親は勘当すると言い渡すが、それでもアドニスの決意は変わらなかった。

 LAの自宅を出たアドニスは、フィラデルフィアのあるイタリア料理店を訪ねる。「エイドリアンズ」というその店のオーナーは、年老いたロッキー・バルボア(シルベスター・スタローン)だった。ロッキーに初めて逢ったアドニスは、『ロッキー3』の最後にロッキーとアポロが誰もいないジムのリングで行なった決着戦の勝敗を尋ねる。2人だけの秘密を知っている若者が現われたことにロッキーは目を丸くする。若者がアポロの息子で、アポロの正妻が彼を育てたことを知り、ロッキーはさらに驚く。アドニスにとって、父とトランクス一丁で拳を交じえたロッキーは誰よりも信頼できる存在だった。ボクシングを教えてほしいと懇願するが、『ロッキー5/最後のドラマ』(90)で新人育成に一度失敗しているロッキーは固辞する。それでも、ミッキーのジムで孤独に汗を流すアドニスを見ているうちに、ロッキーは放っておけなくなる。自分の若かった頃にそっくりだからだ。ロッキーもアポロやミッキーが声を掛けてくれなかったら、どれだけ暗い人生が待っていたか分からない。また、ロッキーには息子ロバートがいるが、「ロッキーの息子」と呼ばれることを嫌って街から出ていった。父を知ら
ないアドニスとひとりぼっちで暮らすロッキーは、やがて“荒ぶる魂”で結ばれた師弟関係となっていく。

 さらにもうひとりの“荒ぶる魂”の持ち主が現われる。アドニスが引っ越した先のアパートには、夜中まで大音量で音楽を流している迷惑な住人がいた。朝が早いアドニスが注意しようとドアを叩くと、若い女性ビアンカ(テッサ・トンプソン)が顔を出す。ビアンカは売り出し中の歌手だった。アドニスは大音量の文句を言うつもりが、意に反して彼女を食事に誘ってしまう。見た目のゴージャスさとは裏腹な彼女の意外な素顔を、アドニスは食事をしながら知ることになる。ビアンカは進行性の聴覚障害を抱え、それでも歌手としての成功を目指していた。障害の進行と夢の実現との熾烈なレースを闘うタフな女性だった。いつか完全に聴覚がなくなるかもしれない。その日に備えてビアンカは手話を学んでいる。アドニスの前で、ビアンカは口にはできないお下品な四文字熟語を手話で表現してみせる。××野郎。自分の障害を笑い飛ばすビアンカは最高にチャーミングだった。2人が恋に陥るのに時間はさほど掛からなかった。やがて、ロッキー、アドニス、ビアンカは、肌の色も生い立ちも異なるけれども、本当の家族のような関係となっていく。“荒ぶる魂”でつながった新しいファミリーの誕生だった。

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