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『あまちゃん』『その街のこども』の井上剛監督インタビュー

井上監督が語る『あまちゃん』とトンネルの向う側 音楽ロードムービー『LIVE!LOVE!SING!』が劇場公開

livelovesing-movie01福島で被災した朝海(石井杏奈)たちは各地に散り散りになって生活を送っていた。高校の卒業を控え、小学校の同窓生たちと母校を再訪する旅に向かう。

 2013年に放映されたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』からは能年玲奈、橋本愛、福士蒼汰、有村架純ら新世代のスターたちが次々と飛び出していった。そしてドラマ、歌、笑いといったエンターテイメントが社会に大きな影響を与えることを改めて実証してみせた。東日本大震災と福島第一原発事故によって、長らく自粛モードにあった日本社会に明るさをもたらしたメモリアルな作品だった。その『あまちゃん』をチーフ演出として世に送り出したのが、井上剛ディレクター。阪神淡路大震災を扱った『その街のこども 劇場版』(11)も高い評価を受けている。監督第2作となる『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』は『あまちゃん』の舞台となった東北地方、そして『その街のこども』の舞台・神戸を繋ぐ音楽ロードムービーだ。『あまちゃん』のヒロイン・天野アキの運命にも大きく関わった3.11のその後を井上ディレクターはどう描いたのか? 『あまちゃん』ブームを振り返りつつ、本作を通して震災後の社会について語ってもらった。

──本作は2015年3月に一度オンエアされたドラマですが、映画館という密閉された空間で観ることで、様々な感情を反芻することになる。震災から5年近く経ったけれど、この国は変わったのか? 自分は何をやっていたのか? 無人化してしまった被災地の風景を見つめながら、いろんな想いが渦巻きます。

井上 そんなふうに感じていただけて、うれしいです。一度放送したものに26分追加して、100分に再編集したものですが、観る人によって、いろんな風景をスクリーンの中に見つけてもらえればなと思っているんです。

──井上ディレクターにとって、代表作である『あまちゃん』と『その街のこども』を繋いだ作品となっていますね。

井上 自分が作った作品なので、繋がっていると言えば繋がっていますが、どちらも自分で企画した作品ではないんです。「こういう企画あるけど、どう?」と打診されて、引き受けたわけです。受けたのは自分ですけど、進んで被災地をテーマにした作品を撮りたがる人はあまりいないんじゃないですか。2010年に阪神淡路大震災15年特集ドラマとして『その街のこども』を作り、そして東日本大震災が起きた。2011年3月は僕がチーフを務めていた『てっぱん』が放映中で、クライマックス部分の放映が1週間休止になり、とても印象に残っています。『あまちゃん』の音楽も担当した大友良英さんが福島出身だったので、気になって福島まで訪ねたりもしました。その年の夏には『あまちゃん』の企画が持ち上がって、宮城出身の脚本家・宮藤官九郎さんと「明るいドラマをやりたいよね」って話をしていましたね。まぁ、それで今の世の中を描くのなら、震災をなかったことにできないよねみたいなことをプロデューサーも交えて話し、『あまちゃん』は内容がまとまっていった感じです。『あまちゃん』を撮ったので東北地方には愛着がありましたし、『その街のこども』を撮った神戸にもまた行けるので、本作の企画も受けたんです。

livelovesing-inoue01「人と人との間には溝があって当たり前。そんな溝や理不尽さを抱えながら、僕たちは社会と向き合うことになる」と井上剛ディレクター。

──『あまちゃん』は日本中に明るい笑いを届け、社会現象にもなりましたが、井上ディレクターはあの大ブームをどのように感じていたんですか?

井上 今もまだ、うまく客観視できていません。撮っている間に「騒がれているらしいぞ」とは耳にしていたんですが、目の前の撮影に追われて喜んでいる余裕がまったくなかった(笑)。全然、ブームになった実感がないんです。宮藤さんも脚本を書き終わって、かなり時間が経ってから『あまちゃん』人気は火が点いたので、あまり実感ないみたいですね。何だったんでしょうね(笑)。正直にやったのがウケたのかな。

──ドラマはフィクションなわけですが、正直さがウケたとは……?

井上 通常のドラマだと田舎は美しい故郷として語られるわけですが、『あまちゃん』では田舎のイケてなさをそのまま素直に描いたんです。でも、イケてないことを『あまっちゃん』は「残念な」という言葉で表現したことで、どこか愛らしく伝わったんじゃないですか。田舎は賛美すべき場所ではなく、残念な場所だと。正直に描いたことでドラマとして表現の幅が広がった。役者のみなさんもそこに乗って、さらに正直なお芝居をした。小泉今日子さん演じた天野春子は若い頃はアイドルを目指していたという現実とリンクするような設定になっていたので、観るほうも感情移入しやすかったんでしょう。何よりも天野アキ役の能年玲奈さんはまさに透明度がそのまま魅力だった。最初は演技力がなかったけれど、逆に視聴者のみなさんは「俺たちが応援しなきゃ!」という気になったと思うんです。

──『あまちゃん』がオンエアされた2013年は、天野アキという純朴なアイドルを日本中が応援していたと。

井上 そうだと思います。ちょっとイケてないけど、アキのことを応援せずにはいられなかったんでしょうね。それにもちろん、みなさん被災した東北のことが心配だったと思うんです。東北まで励ましに行きたいけど、なかなか気軽には足を運べない。『あまちゃん』の放映が終わってから、『あまちゃん』ツアーと称して東北を旅行する人が増えたのはうれしいかったですね。ドラマの中でやっていた町おこしが、現実のものになったんだなと。

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