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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.403

迷宮入りした怪事件をメソッド演技で解明する!? 芸能界の闇と舞台がリンクする『貌斬り KAOKIRI』

kaokiri_01.jpg骨太な作風で知られる細野辰興監督の最新作『貌斬り KAOKIRI』。人気スターの移籍問題の度に騒がれる“芸能界の闇”が描かれる。

 天才漫画家・楳図かずお先生を取材する機会があり、興味深い話を聞いた。子どもの頃に「宇宙の果てはどうなっているの?」「人間は死んだらどうなるの?」という素朴な疑問を周囲の大人に投げ掛けたものの、誰も答えてくれなかったそうだ。それならば、自分が描く漫画の世界で自分自身が科学者や神様となってその答えを導き出してやろう。そう考えた楳図少年が大人になって完成させた作品が『14歳』だった。『14歳』のラスト、楳図先生と我々読者は共に宇宙の果てに辿り着き、生命の神秘に触れることになる。想像力を駆使したフィクションの世界を通して、現実世界の謎に迫る―。『シャブ極道』(96)や『竜二Forever』(02)で知られる細野辰興監督の新作『貌斬り KAOKIRI ~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』を観ながら、あらためてフィクション世界の深遠さに気づかされた。

『シャブ極道』では役所広司がシャブ中毒のヤクザに迫真の演技でなりきり、『竜二Forever』では自分の命と引き換えに主演映画『竜二』(83)を残す俳優・金子正次の太く短い青春を高橋克典が全身全霊で演じてみせた。細野監督は骨太な題材をもとに、俳優たちのポテンシャルをぐいぐいと引き出す名演出家だ。そんな細野監督の『私の叔父さん』(12)以来4年ぶりとなる新作『貌斬り』もまた、タブー知らずの挑発的な作品となっている。日本映画全盛期に二枚目俳優として大活躍した長谷川一夫が松竹から東宝に移籍する際に暴漢に襲われ、カミソリで顔に大きな傷をつけられたスキャンダラスな事件の真相を探るものだ。芸能界の闇を感じさせるこの迷宮化した怪事件を、細野監督はフィクションの力を使って究明しようとする。

『貌斬り』の舞台となるのは、高円寺にある小さな劇場「明石スタジオ」。ここでは舞台『スタニスラフスキー探偵団』の公演が行なわれている。この公演は映画監督(草野康太)や映画プロデューサー(山田キヌヲ)たちが新作映画の脚本の打ち合わせをしている様子を描いたバックステージもの。劇中劇という形で、新しいドラマが生まれる瞬間を追っている。映画監督たちは長谷川一夫の顔斬り事件を題材にした野心作を撮ろうと考えているが、消えない傷を負ったまま芸能活動を続けた長谷川一夫は事件の真相を生涯口にすることがなく、実行犯に襲撃を命じた黒幕の正体は闇に包まれたままだった。真犯人は誰か、犯行の動機は何だったのか? その手掛かりを探すために、映画監督は助監督たちと一緒に会議室でロールプレイを始める。このロールプレイが、思いがけず人間の心の闇を引きずり出してしまう。

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