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嵐・相葉雅紀主演『貴族探偵』多重の叙述トリックを処理したフジテレビの“原作改変”がスゴすぎる!?

嵐・相葉雅紀主演『貴族探偵』多重の叙述トリックを処理したフジテレビの原作改変がスゴすぎる!?の画像1フジテレビ系『貴族探偵』番組サイトより

 今期の月9『貴族探偵』(フジテレビ系)も、すっかり安心して楽しめるようになってきました。これだけ面白いミステリードラマが毎週供給される幸せを感じながら、第4話を振り返っていきたいと思います。

 原典は麻耶雄嵩さんによる小説『貴族探偵対女探偵』(集英社文庫)に収録されている「幣もとりあへず」という短編。これぞ本格推理小説! と言いたくなるような、叙述トリックに特化した作品です。

 第3話までは、とりあえず読者のみなさんにもこのドラマを見てほしいと思ってあらすじをほとんど記してきませんでしたが、今回は特徴的な原作ということもあり、このフジテレビによるドラマ化で何が行われているのか、少し考えてみたいと思います。

 まず、原作の叙述トリックですが、これは完全に小説でしか成立しない類のものです。事実関係としては、風呂場の隅の小屋に全裸死体が転がっているわけですが、読者はこれを「女性の死体」と思い込む形でミスリードされます。

 麻耶さんは、地の文と登場人物の自己紹介セリフを巧妙に使い分けながら、読者に対して「赤川和美」と名乗った女性が殺されたように見せかけます。これが第1のトリック。そして、女探偵が推理を始めると、読者に対して「実は死体は男性でした」という種明かしがなされ、この時点で読者は「えー、死体は女じゃないの!?」という驚きとともに、ページを巻き戻して読み直すことになります。

 さらに、最初から死体を男性だと知っていた女探偵も、誤認をしていることが明らかになります。「赤川和美」を名乗った女性(読者は殺されたと思っているが、女探偵は生きていることを知っている)と、「田名部優」を名乗った男性(読者は生きていると思っているが、女探偵は殺されたことを知っている)が、実はそれぞれの名前を入れ替えていたのです。これが第2のトリック。女探偵はこの入れ替えに気付くことができず、愚かにも貴族探偵を犯人と断定し、貴族探偵の使用人にあっさり正しい推理を披露されて「ぐぬぬ」となる。そういう話です。

 こうして簡単に文字で説明しても、よくわからないでしょう。実際、普通に読んでもよくわからないんです。読み返して、読み返して、「あーほんとだ、騙されてる!」と読者が自分自身で納得して、初めて満足感が得られるタイプの作品です。筋金入りのミステリーマニアの方々でしたら、一読して絶頂快感を得られるのかもしれませんが、私には難しかったです。

 こうした叙述トリック作品の特徴は、読者との関係性によってのみ成り立つというところにあります。作家が騙しているのはあくまで読者であり、登場人物は、作家と共謀関係であるのが一般的なのです。しかしこの「幣もとりあへず」では、まず「作家と読者」の間で第1の欺きがあり、「事件と女探偵」の間で第2の欺きがあるという、多重の叙述トリックが行われているわけです。それを、女探偵と貴族探偵がそれぞれ推理するという多重推理の構造です。多重アンド多重です。まあ、ホントにマニア向けだなと思います。普通の、例えば星新一とか読んで育った私たちは、ここまで求めてないよ!

 で、ドラマはどうしたか。この多重トリックをそのまま採用することを、さっぱりと諦めてしまいました。

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