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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.463

知らなかったでは済まない人種差別の深すぎる闇! 警官が丸腰の市民を虐殺した史実『デトロイト』

43名の死者を出したデトロイト暴動。白人警官による黒人差別が、暴動の引き金となった。

 スプリームス、ジャクソン5、スティーヴィー・ワンダーら人気アーティストを擁したモータウン・サウンドは、広く多くの人に愛され続けている。自動車の街(モーター・タウン)デトロイトが発祥の地であり、白人向けのポップスと黒人音楽であるソウルミュージックを融合させたモータウンは、自動車産業で栄えたデトロイトを象徴する文化だった。だが、1972年にはモータウンはLAへとレーベルを移し、80年代には日本車ブームの煽りを受け、デトロイトは次第に活気を失っていく。クリント・イーストウッド監督が『グラン・トリノ』(08)で描いたような荒廃した街へと変わってしまう。米国を代表する大都市だったデトロイトは、どのようなきっかけで坂道を下り始めたのか? キャスリン・ビグロー監督の最新作『デトロイト』は、その元凶となった“デトロイト暴動”の真相をリアルに描き出している。

 1967年に起きたデトロイト暴動は死者43名、負傷者1,100人以上に及んだ大規模暴動だった。この事件の引き金は、92年に起きたロス暴動と同じく“人種差別”をめぐる軋轢だった。自動車産業の発展は南部を離れた黒人層などの安い労働力の流入を招き、そのことを嫌った白人層が街を出たため、都市中心部の空洞化、スラム化が進んでいた。白人警官たちは街に新たに住み始めた黒人たちを蔑視し、ことあるごとに警察犬をけしかけ、警棒で殴りつけた。ベトナム戦争から帰還した黒人兵を慰労するパーティーの場で、両者の遺恨が爆発する。警察の横暴な取り締りに対し、黒人たちは投石や白人が経営する店への放火で応じた。たちまち街は戦場さながらの大混乱に陥り、ミシガン州兵が出動する騒ぎに発展していく。

 大晦日の『絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時』(日本テレビ系)でダウンタウン浜田が扮していたのは、『ビバリーヒルズ・コップ』(84)に主演していた頃のエディ・マーフィーだった。『ビバリーヒルズ~』でのエディ・マーフィーは、デトロイト市警所属の不良あがりのはみだし刑事という役どころ。デトロイト暴動のさなか、このデトロイト市警が犯した大問題が「アルジェ・モーテル事件」である。デトロイト市警の白人警官たちは、アルジェ・モーテルに泊まっていた無抵抗の黒人男性たちを次々と射殺している。モーテルにいた黒人男性客のひとりが、道路で待機していた州兵に向かって悪戯心でおもちゃの拳銃を鳴らしたため、「スナイパーが潜んでいる」と勘違いした白人警官たちが雪崩れ込み、モーテルに偶然居合わせた客たちは恐怖のドン底を味わう。

デトロイト市警の警官クラウス(ウィル・ポールター)は「銃がどこにあるか言わないと、1人ずつ射殺する」と脅し続けた。

 キャスリン・ビグロー監督は、イラク戦争を舞台にした『ハート・ロッカー』(08)ではいつ作動するかわからない爆破装置の解除にあたる米軍爆弾処理班の命懸けの作業を、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)ではビン・ラディン一家が米軍特殊部隊によって殺戮される様子を、息が詰まるほどの超リアリズム演出で再現してみせた。本作でもアルジェ・モーテルで起きた白人警官たちによる尋問という名の虐待行為を、40分間にわたって延々と描く。実際に事件現場に居合わせたサバイバーたちの証言をもとに、“薮の中”を照らし出してみせる。

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