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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.476

実録犯罪やタブーが大好きな韓国映画の醍醐味! 男のフェロモン祭『タクシー運転手』『犯罪都市』

韓国映画界にこの人あり。じゃがいも顔と称されたソン・ガンホだが、『タクシー運転手』でも後半になると無茶苦茶かっこよく見えてくる。

 おもろい映画をつくることに貪欲な韓国映画界が大好物にしているジャンルがある。それは実録犯罪ものと社会的タブーを題材にしたサスペンス作品だ。国内マーケットが限られている韓国は、日本よりも映画の企画を通すことがずっと難しい。それゆえに普段は映画に興味を持たない層を劇場へと足を運ばせ、観客の心にグサッと突き刺さるインパクトのあるテーマ性が欠かせない。朝鮮半島の南北分断を扱った『シュリ』(99)や『シルミド』(03)、迷宮入りした連続殺人事件の謎に迫った『殺人の追憶』(03)など、政治タブーや実話ネタを栄養にして、韓国映画は大きく成長を遂げてきた。GWシーズンに公開される『タクシー運転手 約束は海を越えて』と『犯罪都市』は、どちらも実話ベースであり、タブー要素を含んだ韓国映画ならではの醍醐味が味わえる注目作となっている。

 韓国の国民的人気俳優ソン・ガンホが主演した『タクシー運転手 約束は海を越えて』は、韓国で1,200万人以上を動員した大ヒット作だ。この作品で描かれるのは、1980年5月に起きた「光州事件」。長年にわたって軍事独裁政権を築くことになる陸軍少将・全斗煥がクーデターによって韓国大統領の座を手に入れたことに反対して、光州市の大学生や市民は民主化を訴える抗議デモを行なった。全斗煥政権はこれを暴動と見なし、韓国軍が出動。9日間に及んだ騒乱で、200名を越える死者を出している。韓国の現代史におけるトラウマ的な大事件だった。光州市のある全羅道と全斗煥ほか歴代大統領の出身地である慶尚道との地域対立など複雑な歴史背景も絡んでいることからタブー視されがちな光州事件を、平凡なタクシー運転手の視点を通して、平易かつエモーショナルな娯楽作に仕立てている。

 小学校に通うひとり娘とソウルで暮らしているマンソプ(ソン・ガンホ)は気のいいタクシー運転手だ。街でデモに参加している大学生を見かけると「国家に逆らうなんて、とんでもない奴らだ」と苦虫を噛み潰していた。そんなとき、マンソプはドイツ人の記者ピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せて、光州市まで往復するという仕事を請け負う。当時は戒厳令が敷かれ、通行時間が規制されていた。うまく往復できれば10万ウォンと聞き、家賃の支払いに困っていたマンソプは大喜びで飛びつく。このときのマンソプは、光州でどんな悲惨な光景を目撃するか夢想することができなかった。

 光州へ向かう道路はすでに軍部によって検問が置かれていたが、そこはマンソプの口八丁手八丁ぶりでスルーすることに成功。約束どおり、ピーターを光州に無事に送り届けるも、街はゴーストタウン状態となっていた。街は機能しておらず、道を歩く人影も少ない。老女に頼まれたマンソプが病院に向かうと、血を流した学生たちが溢れ返っていた。まるで野戦病院のようだった。

ソウルから光州へと向かうタクシー運転手のマンソプ(ソン・ガンホ)たち。『殺人の追憶』と同じく全斗煥独裁政権時代の暗部を描いている。

 それまで学生たちの政治運動をバカにしていたマンソプだが、街でカメラを回し始めたピーターに付いていくと、衝撃の場面に出くわす。デモに参加している学生だけでなく、丸腰の市民にまで軍隊は一斉射撃を加えていた。催涙弾と銃弾が飛び交い、逃げ惑う市民たちの中には私服警官が交じり、警棒で殴りつけている。抵抗する人間は、すべて北朝鮮側の工作員と見なされた。軍隊経験のあるマンソプには信じられない光景だった。国家の平和のために尽力していると信じて疑うことのなかった軍や政府が、一般市民たちを粛正する地獄絵図に、マンソプは言葉を失ってしまう。

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