日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 実録犯罪やタブー好きな韓国映画2選
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.476

実録犯罪やタブーが大好きな韓国映画の醍醐味! 男のフェロモン祭『タクシー運転手』『犯罪都市』

 ピーターからお金を受け取り、幼い娘が留守番をしている我が家に早く帰ることだけを考えていたマンソプの心の中で何かが大きく崩れていく。自分は娘との平和な家庭を守ることしか頭になかったが、この街では名もない学生や市民たちが社会の民主化を求めて、体を張って闘っている。光州で起きた悲劇は報道管制によって、市外には伝わっていない状態だった。ピーターを国外へ脱出させ、光州事件の真相を世界中へ伝えよう。カタコト英語でしかコミュニケーションできないピーターとの最初の約束を果たすため、マンソプは行きよりも遥かに軍の監視が厳しくなった帰路を強行突破することになる。

 光州事件を地元市民の立場から描いた『光州5・18』(07)でも、主人公はタクシー運転手だった。実際に光州事件ではタクシー運転手やバスの運転手たちが活躍したことが伝えられている。軍隊による学生への弾圧ぶりがあまりにも陰惨だったため、見かねたタクシー運転手が怪我を負った学生を乗せようとすると、タクシー運転手やその場に居合わせた市民たちまで容赦ない暴行に遭い、そのため騒ぎが光州市全域へと広がっていった。駆けつけた他のタクシー運転手やバス運転手たちがタクシーやバスでバリケードを築き、完全武装した軍隊を相手に抵抗を続けた。同業者である光州のタクシー運転手テスル(ユ・ヘジン)の情の深さやジャーナリストとしての使命感に燃えるピーターたちに感化され、平凡な男マンソプが持ち前の愛嬌とプロのドライバーとしての技量を武器に国家権力を相手に闘う姿は鼻の奥をツーンとさせるものがある。

『犯罪都市』に主演した男気俳優マ・ドンソク。必殺技は丸太のように太い腕を使って、相手の首を万力のように締め上げるスリーパーホールドだ。

 旬男マ・ドンソク主演の『犯罪都市』も極太系の実録サスペンス映画だ。こちらは北朝鮮と国境を接する中国東北部(旧満州)に暮らす少数民族“中国朝鮮族”というマイノリティーをモチーフにしたポリスアクションもの。韓国映画ファンの間では『哀しき獣』(10)で取り上げられて以降、要注目キーワードとなっていた“中国朝鮮族”だが、『犯罪都市』では組織犯罪に手を染める中国朝鮮族と凶悪事件を専門に扱う刑事たちとの死闘を描いている。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)でゾンビの群れを素手でなぎ倒したマッチョ俳優マ・ドンソクが、今回もその腕っぷしの強さをぞんぶんに発揮している。

 日本では少数民族がらみの問題を映画化しようとすると圧力団体が動き始めるため、クレームが来ることを苦慮して配給会社や劇場側は腰が引けてしまう。その点、韓国映画界はビジネスとして充分に採算が取れると踏めれば、GOサインが出る。実際にソウルのチャイナタウンで起きた実録犯罪事件というリアリティーとマ・ドンソクのパンチの破壊力とが相乗効果で観客をノックアウトする。ナイフや斧を持った凶悪犯たちに平然と立ち向かうドンソクの厚い胸に、女性ならずとも一度は抱かれたいと思うのではないだろうか。

 韓国映画では、警察は腐敗した権力構造の象徴として描かれることが多い。『犯罪都市』の主人公である衿川警察に勤めるマ・ソクト(マ・ドンソク)も違法尋問は平気でやるし、上司を欺くために口から出まかせも吐き、品行方正な公務員には程遠い暴力刑事だ。でもその一方、両親のいない少年のことを気に掛け、入院した部下のために見舞金を集めるなど、思いやりに溢れたひとりの生身の人間であることに気づかされる。

 古くから列強国の思惑に左右され続け、今なお同じ民族が南北に分断されたまま暮らすことを余儀なくされていることから、韓国人の多くは国家体制や現状の社会に対して常に懐疑心を抱いている。国家や社会が信じられないのなら、信頼できる人間を自分たちで見つけるしかない。日本でもてはやされる痩身のイケメン俳優とは真逆なポジションにある、ソン・ガンホやマ・ドンソクといった男ぐさい骨太な俳優たちが韓国で深く愛されている理由が、両作を観るとすごくよく分かる。
(文=長野辰次)

『タクシー運転手 約束は海を越えて』
監督/チャン・フン 脚本/オム・ユナ
出演/ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル
配給/クロックワークス 4月21日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー
(c)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.
http://klockworx-asia.com/taxi-driver/

『犯罪都市』
監督・脚本/カン・ユンソン 武術監督/ホ・ミョンヘン
出演/マ・ドンソク、ユン・ゲサン、チョ・ジェユン、チェ・グィファ、チン・ソンギュ、パク・ジファン、ホ・ソンテ
配給/ファインフィルムズ 4月28日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー
(c)2017 KIWI MEDIA GROUP & VANTAGE E&M. ALL RIGHTS RESERVED 
http://www.finefilms.co.jp/outlaws/

 

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

 

最終更新:2018/04/20 19:12
12
ページ上部へ戻る
トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真