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「新潮45」をめぐる騒動──もしも図書館から抹殺されれば、それは人類最後の日

「新潮45」2018年10月号(新潮社)

 LGBTをめぐる寄稿が批判され、休刊を決めた新潮社の月刊誌「新潮45」。

 批判に晒されたことで「いったいどういう寄稿が掲載されているのだ」と興味を持つ人は多く、書店では瞬く間に完売することとなった。

 この騒動の中で新たに危惧されているのは、同誌が図書館で閲覧できなくなるのではないかという問題だ。現在、SNSを見たところ、図書館での閲覧をめぐって「閲覧禁止にしろ」と求める組織立った動きはない。

 ただ、今後そうした動きが出てくるとしたら、また大きな問題となるだろう。それに備えて思い出しておきたいのは、2013年の『はだしのゲン』をめぐる騒動である。

 これは島根県松江市の教育委員会が、市民からの「間違った歴史認識を植え付ける」として撤去を求める陳情を受けたことに端を発したもの。この陳情自体は不採択になったのだが、市の教育委員会が「旧日本軍がアジアの人々の首を切ったり女性への性的な乱暴シーンが小中学生には過激」であるとして、校長会で市内の全小中学校に対して、教師の許可なく閲覧できない閉架措置を要請し全校が応じたものである。

 これには、図書館関係者のみならずさまざまな立場から批判が寄せられ、騒動になった。

 引き金となった「間違った歴史認識を植え付ける」という批判に対しては、実にその通りというほかない。『はだしのゲン』では、妊婦の腹を切り裂くといった残虐行為や「三光作戦」を日本軍が行ったとする、歴史的な間違いが描かれている。作者の中沢啓治氏自身、そうした残虐行為を事実だと思っていたのではなく、掲載誌が途中から共産党系雑誌、次いで日教組の機関紙になったために読者に対するサービス精神で描いたことは、当時を知る関係者の証言からも明らかになっている。

 この原稿を書くにあたって、過去の記事を再読したら、筆者は我ながらいいことを書いている。

 * * *

平和教育に役立つ「良書」だからと閲覧制限を批判する人は、閲覧制限の支持者と同一の存在である。

 * * *

 図書館とは、特定の思想に寄らず利用者のために存在するもの。だから、できる限りあまねく資料を収集する。それが、いかに批判されるものであってもである。

 こうした図書館の態度は、世の中には意見の違う人がいること。そして、どんな意見であっても、とりあえずは耳を傾けなければならないことを教えてくれる。

 だが、一連の「LGBTへの差別だ」とか「ヘイトスピーチを許さない」と拳を振り上げる行為は、その余裕を失わせる。

 筆者も件の小川榮太郎氏の寄稿を読んでみたのだが、そこまで非難されるものなのかというのが、第一印象であった。そして休刊した途端に、ブツブツと文句を言いながらも冷めていく批判者の熱を見るにつけ、むしろ小川氏の話のほうが道理があると思うに至っている。いや、むしろ、こんなに読みやすく、皮肉も交えて書く才能は意見を支持するしないにかかわらず認めるべきである。

 ああそうか「差別だ」とかなんだとかいう批判は、言論じゃ勝てないことの裏返しだったのか。

 と、図書館の話を書こうとしたら、あらぬところにいってしまいそうなので、ここで筆を置く。あとは、改めて。
(文=昼間たかし)

最終更新:2018/10/02 22:30
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