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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態」第8回

大手新聞社、取材メモ捏造事件でトップ辞任!?

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大手新聞社、取材メモ捏造事件でトップ辞任!? – Business Journal(12月1日)

「Wikipedia」より

【前回までのあらすじ】
ーー巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、いつものように割烹「美松」で密談を行う松野と村尾に呼ばれ、事情を知らない両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)と小山成雄(日亜)が姿を現したのだったーー。

 政治は、政治家たちが権力を目指し権謀術数の限りを尽くす場である。その実態をより正確に伝えるには、各政党の枢要な政治家たちの話を聞く必要がある。記者たちの取材結果はメモにされ、記事を書くキャップに届けられる。キャップは自分の独自取材と、他の記者が集めた情報をもとに、実態について自分なりの見方をまとめることがままある。

 ジャーナリズムは一人の記者が取材し、リスクを一人で負って記事にするのが本来のあるべき姿である。だが、テーマによっては一人でなく、グループで取材、実態に迫るしかない事象もある。だから、大手新聞社の政治部が部下の記者たちを使い、メモを上げさせ、それをもとにキャップが記事をまとめる手法が生まれた。それ自体が問題なわけではない。過程を伝える意味では、この手法を取るほうがより実態に肉薄できることが多い。

 しかし、最近では、この手法は経済部や社会部にも広がり、若い記者の間ではメモを作れば仕事は終わり、という意識が年々浸透、弊害も目立ち出している。いいメモを上げているかどうかが評価の対象になるためだ。

 メモは、読者の目にさらされる記事に責任を持つわけではない。たまたま、夜回り取材が空振りに終わっても、日頃の取材で聞いた話をメモにして取材したように装う不心得者も出てきて当然なのだ。それがばれずに済み、キャップの書きたい記事に都合がよければ、評価は上がる。政治記者として本流の取材現場を歩み、将来の政治部長の芽も出てきたりする。仮にばれても問題にならなければ、要領のいい奴、という評価になる。

 ところが、運の悪い奴も出てくる。大抵、政治家というのはアバウトで、批判されていない限り、事実かどうかは二の次で、記事に取り上げられれば喜ぶ。しかし、中には変人もいる。共生党(きょうせいとう)党首の鈴木恭志(やすし)がそうだった。

 当時は、保守本流の自由党を中核に公民党、共生党の2党が政権に参加する3党連立政権が、衆参両院で過半数をかろうじて守っていた。宗教団体を支援組織とする公民党は衆参で40名の議員を抱える中政党だったが、共生党は衆議院3、参議院2の、わずか5名の弱小政党だった。共生党は野党第一党の民社党の党首選挙のしこりで離党した議員が結成した政党で、政権奪還を目指す民社党が共生党に政権離脱を働きかけていた。そんなとき、日亜新聞朝刊が大ぶりの囲み記事で、政権離脱をめぐる駆け引きを取り上げた。

 記事に「党首の鈴木が記者に対し『明日が山場だ。今日はまだなにも決まっていない』と語った」と書かれていたが、当の鈴木が「記者には誰にも会っていない。なぜ、こんなコメントが載るんだ」とねじ込んできたのだ。

 慌てた日亜が社内調査をしたら、若い政治部記者が鈴木に会えなかったのに、会ったことをねつ造したメモを上げていたことがわかった。これが「取材メモねつ造事件」である。

●トップ人事の番狂わせ

 記事の中身自体が政局に影響を及ぼすようなことはまったくないので、鈴木がねじ込まなければ問題なることはあり得なかった。だが、問題になってしまうと、張り子の虎とはいえ「言論報道機関」を標榜する以上、その根幹を揺るがす事態になる。事実をねつ造した証拠となり、「言論報道機関」の印籠が使えなくなる。

 「サラ金報道自粛密約事件」に続く不祥事で、日亜はトップの引責辞任で事態を収拾するほかなくなるところに追い込まれた。6代目社長候補の正田幸男(編集担当専務)も富島鉄哉(社長)と一緒に引責、合併後の日亜入社の年次から後継社長を選ぶことになったのだ。

 「『サラ金報道自粛密約事件』は社長だった富島君の責任だけど、『取材メモねつ造事件』は第一義的には編集担当専務の正田君の責任だ。2人が一緒に引責して、なんの不思議もないぜ。どんな噂が流れていたんだ? 小山(成雄・日亜編集局長)君」

 大都新聞社長の松野弥介が続けると、日亜社長の村尾倫郎が割って入った。

 「松野さん、もう、それはいいじゃないですか。噂は噂ですからね」
 「確かに、俺は富島君と親しいよ。でも、『正田君を道連れに辞め、後継を村尾君にしろ』なんて言ったことはない。『キーワードは3つのN、2つのSだ』とは言ったがな」
 「え、それなんですか。3つのN、2つのSと言われてもわかりませんよ、社長」

 刺身をつまみながら聞いていた、松野の部下で大都編集局長の北川常夫が身を乗り出して口を開いた時、格子戸が開いた。

 最初は熱燗2本、4人分の御猪口(おちょこ)とグラス、梅干しの小皿を乗せたお盆だった。老女将はすぐに唐紙の外に出て、今度は焼酎のボトルとお湯割り用のポットを持ってきた。

 「焼酎のお湯割りをお作りしますか」
 「まだいいよ。飲むときは小山君が作るさ」
 「それではよせ鍋の用意もしましょう」

 老女将は部屋を下がると、すぐにコンロと土鍋、取り皿、灰汁取りお玉を入れた小壺を持ってきた。卓袱台を中央に置き、取り皿も並べた。最後は4人前のよせ鍋に入れる具を乗せた大皿2枚と、タレの入った白磁の汁次だった。

 「よせ鍋はまだよろしいですね」

 老女将は汁次からたれを土鍋に注ぎながら、松野の顔を窺った。

 「よせ鍋も小山君と北川君にやってもらうから、火はつけないでいい。しばらくは話があるから、呼ぶまで下がっていていいよ」

 松野の答えを聞いて、老女将は下がった。

●寝耳に水

 「じゃあ、本題だ。小山君、もう一度、我々にビールを注いでくれ。村尾君は熱燗がいいなら、お酒にしろよ」
 「ええ、僕は手酌でやります」

 村尾が小山との間に置かれた徳利を取り上げた。松野が改まった調子で話し始めた。

 「えへん、実はね、君たちが来る前、村尾君と話し合って、大都と日亜は来年4月1日に対等合併することで合意した。これからは合併後の媒体をどうするかといった課題を詰めるので、君たち2人で作業をしてもらいたいんだ」
 「え、そんな話、まったく聞いていませんよ」

 北川と小山は奇声を上げ、顔を見合わせた。

 「それは当たり前だ。これまで2人だけで話していたんだから。でも、今日からは君たち2人もその話し合いに加わり、大事な仕事をしてもらう。発表までは秘密厳守だから、他の人間は使ってはいかん。記者としての能力は月並みだけど、事務処理能力には長けているほうだから、2人だけで詰めの作業をしてほしい」

 目が点になったままの2人に対し、笑顔の松野がグラスを持つよう促した。それを見て、村尾は御猪口に手を伸ばした。

 「来年4月の合併実現を祈念して乾杯!」

 松野の発声で4人は再び杯を挙げた。

 「社長、来年4月に合併する、だから、2人で詰めろ、と急に言われても、何から手をつけていいかわかりませんよ」

●1000万部の巨大新聞

 グラスを置いた北川が松野にかみついた。

 「まあ、待て。これから村尾君にもう少し説明させるから。君たちは刺身でもつまんでしばらく聞いていろ。村尾君、じゃ始めてくれ」

 村尾は徳利を取り上げ、自分の御猪口に独酌すると、一息に杯をあおった。

 「合併の狙いから説明しよう。業界を取りまく環境が悪化する中で、日本で断トツ部数の新聞をつくることだ。ネット新聞の発刊で大都さんもうちも部数が減り続けているが、減少トレンドに歯止めがかからなくても向こう10年は1000万部を維持できるし、国民新聞には絶対に抜かれない」

 北川が身を乗り出したので、松野が小山に『ビール瓶を寄こせ』としぐさで示した。

 「まあ、一杯飲んで落ち着け」

 松野が北川と小山のグラスにビールを注ぎ、続けた。

 「一杯飲んだら、そろそろ鍋を始めようや。それから、お湯割り作ってもらうか」
 「小山君、コンロに火をつけてくれ。俺が鍋の準備をするから、君はお湯割りを作ってくれ。社長は梅干しを入れますよね」

 脇の松野の顔色を窺いながら、ビールを飲み干すと、北川は鍋に具を入れ始めた。

 「君たちは準備しながら、よく聞いていろよな。じゃあ、村尾君、続けてくれ」

 日本酒党の村尾は徳利を取り、また手酌をしてぐいと一杯飲んだ。

 「今、うちの部数は500万部、大都さんは700万部あるが、1つの新聞にすると、1200万部というわけにはいかない。併読している読者の部数が約50万部あるからな。まあ、その分が全部落ちても1150万部は残る計算だ。それから、新しい新聞も出す計画だから、その減少分は早晩取り戻せるとみている」
 「村尾君、新しい新聞の前に、一緒にする方法を先に説明したほうがいいんじゃないか」

 松野が口を挟んだ。

 「そうですね。そうしましょう。合併期日は来年4月1日だが、新聞を1つの題字にするのはその1年後にしようと考えている。遅くとも合併から半年で紙面の中身は同じにするが、『大都新聞』『日亜新聞』の題字はしばらく変えないつもりなんだ。ただ、合併の準備状況次第という面もあるので、これはまだ確定したわけではない」

 村尾がここまで話したところで、小山が立ち上がり、3人の前にお湯割りを置き、そそくさと部屋を出て行った。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

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最終更新:2012/12/02 15:00
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