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ダルビッシュ完全試合目前の勝負、“本当は”投手or打者どちらが有利なのか?

 サイゾーのニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けします。

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ダルビッシュ完全試合目前の勝負、“本当は”投手or打者どちらが有利なのか? – Business Journal(4月29日)

『ダルビッシュ有の変化球バイブル』
(ベースボール・マガジン社
/ダルビッシュ有)

 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

 まずはメジャーリーグに関するこのクイズをお読みいただきたい。

「4月3日のテキサス・レンジャーズの開幕第二戦、ダルビッシュ有投手がアストロズ相手に9回2死まで完全試合を続けて、最後の打者にヒットを打たれてしまいました。過去にもそういう惜しい例はあったそうですが、この最後のバッターとの勝負は通常、投手有利でしょうか? それとも打者有利でしょうか? ちなみに大リーグで過去に完全試合を達成した投手は23人、最後の打者との対決で記録を逃した投手はダルビッシュで11人目です」

 これはビジネスマン向けの戦略思考トレーニング用に作成した問題だ。先日発売した私の新刊『戦略思考トレーニング』(日本経済新聞出版社刊)のおまけのつもりで、最近の時事問題から一問、トレーニング問題を作成してみたものだ。Facebookの私のページで回答を募集したところ、色々な回答が集まって面白かったので、今回の記事にまとめてみようと思う。

 読者のみなさんも自分の答えを思いついたら、この後の解答を読み進んでほしい。

 さて、Facebookに寄せられた答えでは、面白いように投手有利と打者有利に答えがわかれた。どちらが正しいというのではなく、まず両極端の意見を書き出すと次のようになる。

「精神的に追い込まれている投手よりも失うものがない打者のほうが有利」
「そもそも野球って、打率はイチローだって4割に到達できないゲームなのだから6割以上の確率で投手が有利でしょう」

 では戦略思考で考えると、どちらが正しいのだろうか?

 実は戦略思考のトレーニング問題としての思考アプローチとしては「次の3つのステップで考える訓練をしてみよう」というのが出題者である私の意図だ。

(1)打者有利、投手有利の定義は何だろうか?
(2)その有利不利はどう測定するといいのだろうか?
(3)その有利不利を生んでいる要因はなんだろうか?

 以下、このステップで検証していくことにしよう。

 まず打者有利、投手有利の定義をどう考えるのか? メジャーリーグでもプロ野球でも、野球の場合、打てない確率のほうが打てる確率よりは高い。だからそもそも9回2死まで完全試合を続けていて最後のバッターを打ち取れるかどうかという確率でいっても、当然投手のほうが勝つ確率は高い。

 実際、過去この状況までたどり着いた34人の投手のうち23人が完全試合を達成しているから、達成率は.676と5割を超える。「最後の打者を打ち取れる確率が5割より高いかどうか」という定義で考えれば「当然投手有利」ということになる。

 もちろんこの答えでは完全試合達成目前のプレッシャーなど関係ないので、答えとしてはつまらなくなる。そこでもっとこの問題にふさわしい有利不利の定義を考えると、こうなるのではないだろうか?

「最後の打席での打者の出塁率(つまり完全試合が絶たれる比率)は、通常の打席での打者の出塁率よりも高いのか? それとも低いのか?」

 このように問題を定義して答えを探ると、どのような答えが導かれるのだろうか?

 ちなみにこのように問題を定義すること自体が戦略思考力の重要なトレーニングであるということは、最初に強調させておいていただきたい。

●最後で完全試合を逃す確率=平均出塁率?

 さて、次のステップとして有利・不利を測定してみよう。

 メジャーリーグの平均出塁率だが、実はこの10年間でずいぶん下がってきている。10年前の平均出塁率は.332だったのだが、計算してみると2012年のアメリカンリーグの平均出塁率は.323と1分近く数字が下がってきている。近年の野球は投手有利と言われるゆえんである。

 さて、この平均値と、過去26人目まで完全試合で来ていたピッチャーが完全試合を逃した比率とを比較してみよう。11人を34人で割ると、その数字は.324! なんとメジャーリーグの平均出塁率とほぼ同じ数字ではないか。

 なぜそうなるのか?

 ステップ3として理由を考えてみよう。投手と打者には、それぞれ有利不利の要因がある。投手はそもそも通常よりも多くの球数を投げていて、疲れもピーク。ダルビッシュの場合、それに加えて指のマメが潰れていた。そして大記録へのプレッシャーは大きい。

 一方で打者から見れば、メジャーの中でも大投手と呼ぶべき相手の、しかも生涯の中でも一番絶好調な日にあたってしまったうえに、自分が打てなければ完全試合を達成させてしまうというプレッシャーの中での対決である。しかも4番バッターではなく9番バッターというのも打者不利の要因である。

 そのように投手打者双方に有利不利の要因がありながら、結果として有利不利の比率が通常の打席とほぼ同じというのは面白い結果ではないだろうか?

●比べるべき数字は何か?

 さて、このように話をまとめようとしたところ、同じコンサル業界出身の仲間から強烈な反論が来た。

「鈴木さん、(2)の有利不利をどう測定するのかという点で、論理的な間違いを犯しているんじゃないですか? その答えは論理的に間違っていますよ。比べるべき数字はダルビッシュのようないい投手に対する通常の出塁率と、最後の打席での打者の出塁率の違いでしょう!」

 なるほど、その指摘は残念ながら非常に正しい。そこで12年のアメリカンリーグでの防御率上位20人のピッチャーの、バッターに対する被出塁率を計算したところ、その数字は.299であることがわかった。

 つまりリーグ全体のすべての投手を平均するとバッターの出塁率は.323なのだが、凄い投手だけの平均であれば.299と、大投手から打者はそれほど出塁できないのである。

 そしてそのような投手の一人であるダルビッシュが最後の打席で打たれた。完全試合を逃した全体平均の比率が.324ということは、通常の対決では打者は.299しか出塁できないにもかかわらず、最後の一人の打者の場合は.324でピッチャーに勝ってしまう。

 やはり疲れがピークで、マメが潰れて、大記録のプレッシャーがかかったピッチャーの方が、失うものが多くないバッターよりも不利なのだ! 私の論理は間違っていて、彼の論理の方が正しいようだ。

●数字の“確からしさ”の検証

 さて、負けたままで議論が終わるのは私は好きではないので、最後に数字の“確からしさ”を検証してみたい。いわゆる感度分析を行ってみる。

 ダルビッシュ以前、つまり昨年までの“最後の一人に打たれる確率”は実は33人中10人だったから.303だった。さらにもしあの最後の対決で、ダルビッシュが伸ばしたグラブにボールが吸い込まれていたとすれば、ダルビッシュも達成した側に数えられることになったかもしれない。それほど惜しい感じで、打球はダルビッシュのグラブをすり抜けていった。そうだったとすれば、最後の打者に打たれる確率は34人中10人で、.294となっていたはずだ。

 このように.303や.294だったら、上記の凄いピッチャーの被出塁率.299と比べてもそれほど大きく変わらない。つまり打者も投手も同じくらいの有利さだという元の結論に戻ってしまう。

 つまり大記録を達成したり逃したりしたりした過去の事例の数がサンプル数としては多くないので、ちょっとした違いで基準となる数字が異なってしまうのだ。

 という最後の10行ぐらいの分析は、あくまで私の悔しさから生まれた付け足し分析ということでご容赦いただきたい。

 いずれにしても世の中にはこの問題のように、どちらが正しいのか熟慮してみないと判断が難しい問題がたくさんある。だからこそ戦略思考力トレーニングすることは、社会人にとっては重要な訓練だということで、今回の話をまとめさせていただきたい。『戦略思考トレーニング』は書店で絶賛発売中です。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

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最終更新:2013/05/01 14:00
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