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『山田孝之のカンヌ映画祭』第3話 “あざとさ/痛さ”をコメディたらしめる地上波なりの着地点

 現場到着から始まった今回の山下の混乱は、カメラテスト時の「よーい、はい!」の掛け声を思わず言い忘れ、監督なのにもかかわらず「あ、俺か」と思わず言ってしまったところに集約されている。それほど、山下に「監督」の実感がなくなってしまっていることがわかる。もはや、何者でもない山下(監督)。

 芦田が、芝居中に叫ぶことを提案した際にも、許可を出したのは山田だし、両者を見て、ただ頷いていたのは山下だった。

 リハーサル後に、「声、ない方がいいですか?」と芦田に指示を仰がれた監督・山下は、「……声は……」と困りながら、横にいる山田をちらりと自ら仰いでしまう。

「いや、もっといきましょう!」の山田の一声で、芦田が叫ぶことの存続が決まったのだが、完全に山下の中で姿が何かが崩壊してしまっているように見えた。

 現場にたどり着くまでの道中、たくさんの機材を運びながら険しい山道を登るスタッフに「カンヌ、目の前なんで!」と、ミネラルウォーターを飲みつつ、涼しい顔で鼓舞する山田。パイロット版で1シーンを撮る前の機材を運んでいる最中に「カンヌ」も「目の前」も糞もない。対山下だけでなく、スタッフと山田との「ズレ」も浮き彫りにされる。

 ここまで観て、今更ながらに思うのは、これは、痛い主演俳優や、言うことを聞かず口を挟んでくる大物役者、現場をわかってない映画会社やスポンサー側のお偉いさんらに振り回される中間管理職的な監督の悲哀を描くコメディであり、同時に、「山田」のような、痛く、「あざとく」映画を撮る人間を描く、やはりコメディなのだろう。いわゆる風刺とも言えるかもしれないが、そこまで何かを批判したいというよりは、問題を投げつつも、基本笑いたい、笑わせたい、楽しませたいといった地上波なりのサービス精神を感じる。

 それは、状況がリアルすぎないように、主演に芦田という「子ども」のアイコンを配置し、ギャップを持たせたところにも現れているし、また、前回の『北区赤羽』よりも、山下に「番組の監督」であるのと同時に、製作している「映画の監督」という立ち位置を、より強調させたことにより、「プロデューサー」山田との関係性が明確になり、より観やすいものになったのではないかと思う。

 そして、それが生きているのが今回の第3話だ。

 山田が演出時に言った「本当のリアルって、リアルに見えないんで」「多少のフィクションを」という発言は、本音(リアル)なのかもしれないが、監督である山下を無視して演出している「痛い山田」の状況は、この番組の中でのフィクションなのではないか。

 そして今回、強烈なインパクトを残したのは、目を覚ました芦田のバックで、首を吊って死んでいる父親役というか、遺体役で出演した、その名も「首くくり栲象(たくぞう)」という存在。冒頭の男性だ。

 国立(くにたち)の自宅の庭を改造した、ステージと呼ぶには粗末な(失礼)、見るからにあばら家な(失礼)、しかしれっきとした主演の舞台で、毎晩「首をくくる」パフォーマンスを行っている表現者らしい。

 その活動の一端は、彼の活動を追ったドキュメント映画『首くくり栲象の庭』やドキュメント映像である『密着24時!首吊り芸術家 – The Hangman』等でも観ることができる。

 そこで確認できるのは、わずか数人の観客に囲まれ、庭の木に吊るしたロープで「首をくくり」、しばし吊られてみせるというパフォーマンス。首を吊るための庭の木の枝が低いからか、地面を若干掘ってある地面や、終演後、観客と語らう際に振る舞われる自家製の焼きうどんの生々しさ等が、実にリアルだ(『密着24時!首吊り芸術家 – The Hangman』より)。

 今回も収録現場にて、なぜ首を? という誰しもが感じる問いに対し、「海がそこにあれば泳ぎたくなるように」目の前に「庭があるからだ」と答える姿は、わかるようなわからなような、まったくわからないような気持ちにさせてくれる。

「海=水泳」は、わかるのだが、「庭=首吊り」が理解できないのがその原因なのだが、そんな理屈ではない、首吊りのプロを出演させるあたりに、ドキュメンタリー好きの両監督の強い趣向が垣間見れる。

 番組中で「この季節(初夏)なら3分は(くくってて)大丈夫」だと語る姿は、実にドキュメンタリーらしいドキュメンタリーだった。「空気も美味しいし」と言われ、何か言いたいが、言えないスタッフの表情も秀逸だ。

 今回、このようなきわどい「題材」を登場させるために、「(包丁の)歯落とし、してあります」とか「看護師の人、来てんだ?」という、入れ込まなければ地上波で放送できなかったであろう、「説明」を自然に盛り込めているのが新しいと感じた。DVDや映画とは違う現代の地上波テレビという問題を、冷めてしまうようなテロップを排除しつつ、さりげなくクリアしている。

 首くくり栲象が首をくくるシーンにだけ「絶対に真似をしないで下さい」と入れざるを得なかったのは、この「ドラマ」をドキュメンタリーとして見せている以上、仕方のないことだし、むしろそうまでしても入れたかった「題材」なのだろう。この番組のもう一人の監督である松江哲明は、自身のTwitterで、今回編集に悩んだことと同時に、ギリギリまでやらせてくれたテレ東の製作番組部(P部と表記)へ感謝の言葉を述べている。

 ちなみにこの松江監督は、先日、新聞広告に出された映画『この世界の片隅で』へのコメントとして「緻密に調べ上げた上で、現実とファンタジーを同時に、そしてその境界を曖昧なままにするのが片渕監督の凄さ。誰も真似できないと思う。」と、発言している。

「現実とファンタジー」を「境界を曖昧なまま」描くことに触れたコメントは彼だけだった。

 そして、完成したパイロットフィルムが番組後半、公開された。


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