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夏の甲子園は「飛ばないバット」で常連校続出の危機とロースコアゲームの連続の弊害

夏の甲子園は「飛ばないバット」で常連校続出の危機とロースコアゲームの連続の弊害の画像1

 梅雨の到来とともに始まるのが夏の甲子園予選。全国3000校以上の高校球児が甲子園を目指して戦うが、今夏の甲子園は従来とは少し様相が変わりそうだ。高校野球では今年度から新基準の金属バットを採用。低反発の“飛ばないバット”を使うようになり、戦術が大きく変わるのは確実だ。

「飛ばないバットの採用は、投手の安全面を考えたもの。近年、トレーニング方法が進化して打球速度が上がり、2019年の夏の甲子園で、投手が顔面に打球を受けて大ケガをする事故があったことから、反発性能を抑えたバットの導入に至りました。その効果はてきめんで、春のセンバツでは本塁打数が昨年の12本から3本へと激減。外野手の守備位置は以前より5~6mも前になりました」(週刊誌スポーツ担当記者)

 高校野球は長らく金属バットを使っており、かねてより打撃偏重という指摘はあった。飛ばないバットの採用は“正常化”への道筋をつけるものだが、懸念事項も多い。

「反発性能を抑えたバットを使えば打球速度と飛距離は落ち、試合はロースコアの展開になります。野球は番狂わせが少ない競技ですが、それはある程度の点数が入ることが前提。ロースコアゲームになれば番狂わせの可能性は上がるので、甲子園出場に命を懸ける強豪校にとっては死活問題でしょう。とりわけ今年は、飛ばないバット初年度の過渡期ですから、本命が次々と消える大荒れの大会になりそうです」(ベテラン野球ライター)

 高校野球を経てプロを目指すエリートにとって、甲子園に出る・出ないは、それこそ人生が変わる問題。選手の安全確保が優先されることには異存はないだろうが、ルール変更で足元をすくわれる可能性が上がることに困惑しているに違いない。また、競技への興味が失われかねない点も、心配事項の1つだ。

「点が入りにくくなれば、1点を守る試合を目指し、守備練習が多くなります。一方で攻撃では、数少ないランナーを生かすためにバントを多用することになる。誰もがホームランを打つ快感を味わいたくて野球を始めた人も多いのに、練習時間の大半が守備とバントでは、何のために野球をやっているんだか。ロースコアゲームは見る側も退屈ですし、ましてバントばかりとなれば、いよいよ面白くない。見る側もやる側もつまらない競技に未来があるでしょうか」(同上)

 高校野球の人気は凄まじく、昨年夏の決勝戦も視聴率は20%近くを獲得。国民的行事と呼ぶに相応しいが、興奮と感動を呼ぶ大逆転の試合は減りそうだ。巷(ちまた)ではもっぱら大谷翔平が話題で、野球人気は高値安定のように見えるが、関係者の「野球離れ」に対する危機感は強い。

「野球は今のところ、日本で最も人気があるスポーツですが、それも風前の灯火(ともしび)です。野球はスペースも人数も必要で、用具費用も高く、やるまでのハードルが高い。ボールが1つあれば成立するサッカーにはかないません。都会ではキャッチボールをする場所さえありませんし、少子化で三角ベースをやる人数も揃わないような状況で、子どもたちが野球に触れ合うチャンスがない。少子化よりはるかに速いスピードで競技人口が減っているのが野球界の現状です。今はまだ大谷翔平というスターがおり、世間の関心を繋ぎ止めていますが、彼が元気なうちに何とかしないと、本当に日本の野球は死に絶えるでしょう」(同上)

 大谷レベルのスターが10年、20年以内に現れれば良いが、そんなことが起きるかどうか……。ホームランが出れば人気が上がるほどことは単純ではなかろうが、用具の改変が競技の興味を削ぐ可能性もあることは、少し考慮する必要はありそうだ。

石井洋男(スポーツライター)

1974年生まれ、東京都出身。10年近いサラリーマン生活を経て、ライターに転身。野球、サッカー、ラグビー、相撲、陸上、水泳、ボクシング、自転車ロードレース、競馬・競輪・ボートレースなど、幅広くスポーツを愛する。趣味は登山、将棋、麻雀。

いしいひろお

最終更新:2024/06/25 12:00
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