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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第3回

くりぃむしちゅー有田哲平が見せる「引き芸の境地」

aritatokutenneizou.jpg有田哲平監督作品『特典映像』
/ビクターエンタテインメント

 くりぃむしちゅーの有田哲平は「引き芸」の達人である。自分が一歩引いて、相手の面白い部分を引き出すことに長けている。これはお笑いコンビの「ボケ」担当としては比較的珍しいタイプである。

 漫才におけるボケとツッコミの役割分担をサッカーに例えるなら、「ボケ」とは最後にシュートを打つ役目である。確固たる笑いどころを作り、自分の力で笑いを着地させようとする。ボケを担当する人は、どこにパスが回ってきても最後に決めるのは自分しかいない、という責任感を持っていなくてはいけない。だから自然と、完全に自分の世界を構築している職人気質の人間がボケを担当することが多い。

 くりぃむしちゅーのネタでも、その役割分担は変わらないのだが、有田の繰り出すボケは少しぼんやりとしていて、それを上田晋也がやや説明的につっこんで笑いを取る、というパターンが多い。つまり、有田のボケは「やや足りないボケ」で、上田のツッコミは「やや過剰なツッコミ」なのである。有田はわざと隙を作って、そこに上田の言葉がかぶさってくるのを楽しんでいるのだ。

 有田は現在ピンで出ている『むちゃぶり!』(TBS)でも『アリケン』(テレビ東京)でも『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」でも、自分から主体的にボケを放つことはあまりない。他人をいじったり泳がせたりして、自分がひたすら笑う。その一見受け身のポジションこそが有田の得意分野なのだ。

 もちろん、有田も初めからそれができていたわけではなかった。海砂利水魚というコンビ名で『ボキャブラ天国』(フジテレビ)に出始めの頃は、どちらかというと攻撃的な芸風で「邪悪なお兄さん」の異名を取っていた。だが、この番組で爆笑問題、ネプチューンといった他の芸人たちとも積極的に絡むようになり、芸人同士でいじったりいじられたりする技術を少しずつ身につけていったのである。

 3月26日に発売された有田哲平プロデュースの3枚組DVD『特典映像』は、架空の映画「左曲がりの甲虫」のメイキング映像という設定になっている。映画監督を務める有田は出演交渉やロケ地探しに奔走するが、トラブルが重なり作業は思うように進まない。10人の共演者がそれぞれ違った役柄で有田を翻弄していく。

 彼ら10人は皆、有田の意向を一切無視して勝手に暴走を始めてしまう。ますだおかだの岡田圭右は、映画の出演を打診されて、ギャラの額を上げることに執拗にこだわり続ける。アンタッチャブルの山崎弘也演じるイタリアンレストランの店長は、有田が無断で撮影の下見に来たことを厳しく責め立てたあげく、頼まれてもいない出演依頼を勝手に引き受けてしまう。

 有田は一歩引いた立場に身を置きながらも、絡み方はかなりしつこい。何度もネタを振り、相手の持っている力を限界まで引き出そうとする。笑いに貪欲な芸人たちを猛獣使いのような手際で見事に飼い慣らしている。

 テレビという過酷な競争社会の中で、あえて一歩下がる「引き芸」を貫くのは容易ではない。レギュラー番組も増えて人気芸人の地位を確立した今、有田の引き芸は円熟期を迎えているのかもしれない。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

有田哲平監督作品『特典映像』BOX

有田と芸達者たち。

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最終更新:2013/02/07 13:05
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