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"日本のアキ・カウリスマキ"に注目!

ハードボイルドな爆笑コメディの旗手・映画『不灯港』内藤隆嗣監督インタビュー

naito_main.jpg園子温、橋口亮輔、矢口史靖、荻上直子、内田けんじ……と
いった気鋭の監督を生み出したPFF出身の新鋭・内藤隆嗣監督。
サングラスに黒ジャケットというハードボイルドな出で立ちで現れた。

 ちょっとばかり口ベタだが、心の中では熱きロマンをたぎらせている人々のことを日刊サイゾーでは”ハードボイラー”と呼ぶ。不器用な漁師と流れ者の美女との出会いと別れをハードボイルドタッチかつオフビートなコメディとして描いた『不灯港』で映画界にデビューを飾る内藤隆嗣監督は、まさに”第一級ハードボイラー”だ。『不灯港』はロッテルダム国際映画祭に出品され、”日本のアキ・カウリスマキ”と称されるほど高い評価を得ている。また、大学時代には貧乏バラエティー番組『銭形金太郎』(テレビ朝日系)に出演し、四畳半のアパートをダイニングとリビングに仕分けるなど独特の美学を披露した。さらに、大学を1年休学して世界をさすらったという根っからのハードボイラーなのだ。

『不灯港』の主人公・万造は、「花瓶で枯れたいと思う花はない」など痺れるような名ゼリフを吐きますね。内藤監督がハードボイルド的なものに魅了されたきっかけは何だったんでしょうか。

hutoko02.jpg独身男の万造(小手伸也)の家に、謎の美女・美
津子(宮本裕子)と連れ子のまさお(広岡和樹)が
転がり込んできた。”疑似家族”と化した3人のヘン
テコな共同生活が始まる。
(c)PFFパートナーズ

「宮崎の日向市で生まれ育ったんですが、中学・高校と普通に女の子と付き合う機会がなかったんですよ。ちょっと女の子と仲良くしただけで冷やかされるような田舎だったんです。もちろん女の子とうまくやってる男子はいるんですが、野球部やサッカー部というわかりやすい連中だったりするわけですよ。そんなんじゃなくて、女の子にモテる手段はないかなと。そこで考えたのがハードボイルド。行動や態度で女性にアピールできないかなと。ハードボイルド=シャイな男の愛情表現なんです」

 万造は女性に赤いバラを渡してアピールしますが、ひょっとすると内藤監督の実体験だったりするんじゃないですか?

「人生で1度だけ、女性とお付き合いしたことがあるんです。大学4年の頃です。その女性に告白するのに、一輪のバラを駅の花屋で買い、その女性のバイト先の職場に放り込んだことがあります。すぐには返事が来なかったんですが、その女性とは2年ほどですが付き合うことができましたね」

 万造そのものですね。その女性とはどんなデートを?

「それは……、人並みですよ……」

 失礼しました。いくらインタビューとはいえ、心の中に土足で上がり込んでくるなということですね。話題を変えましょう。世界30か国を大学時代に回ったということですが、きっと海外でもハードボイルドな体験をされたことでしょうね。

naito_sub01.jpg08年5月に報じられた「見ず知らずの老
女が、男性宅の押し入れで暮らしていた」
という事件を彷彿させる本作だが、「撮影
中に事件のことを知ったんです。自分の
考えていた物語が現実に先を越されたと
いう悔しさが残りましたね」と内藤監督は
語る。

「ゆで卵は、やっぱり糸でスパッと切れるようなハードボイルドに限ります。大学では数学科を専攻していたんですが、数学もきれいに割り切れるところが面白かったんです。でも、そのうち勉強に疲れて、一度外の世界を見ることで自分を見つめ直そうと考えたんです。ですから、ボクにとっての旅は、観光地巡りではなく、生活の移動の連続でした。豪州から米国、カナダ、欧州、アジアと回り、その土地の空気に触れながら、東京で暮らしていた自分自身を見つめ直したんです。印象に残っているのは、ブルガリアで出会った親子ですね。EUに加盟する前のブルガリアは、路上には生活に困った人たちが溢れていて、中でも、うずくまった母子の前をボクは素通りできなかった。ボクもお金はあまりなかったんですが、近くの中華料理店で買った弁当をその母子の前に置いて、ダッシュで逃げました」

 サングラスで素顔を隠していますが、心の中は優しさと熱い気持ちでいっぱいのようですね。大学に復学して、映画製作を始めたわけですか?

「最初は、映画ではなくお笑いをやるつもりだったんです。でも理数系の学部だったせいもあり、ボクの周りに漫才の相方を引き受けてくれるパートナーが見つからなかったんです(苦笑)。ある日、古本屋を覗いていたところ『一人でもできる映画の撮り方』(洋泉社)というハウツー本と出会ったんです。よし、これなら一匹狼でもやっていけると思い、本に書いてあったソニーのVX1000の中古をまず購入して自主製作を始めたんです。カメラのレンタルは考えませんでしたね、後戻りできない状況に自分を追い込もうと思ったんです。その本は今も大事に持っています」

 偶然入った古本屋でバイブルを手に入れたんですね。自主映画2作目となる『MIDNIGHT PIGSKIN WOLF』(06)で”自主映画界の甲子園”PFFで企画賞(TBS賞)を受賞。さらに商業デビューできるスカラシップ権を掴み取り、本作を完成させたわけですが、他の受賞者たちと競いながらプロデューサーへのプレゼンの場は、シャイな内藤監督にとっては試練だったのでは?

「えぇ、準備稿を提出して、その準備稿には自分の熱い想いを込めた台詞の数々を散りばめました。プレゼンはもう必死で、何をしゃべったかよく覚えてないんです。ろくに映画経験のない自分は選ばれないだろうと思う反面、ここで全力を出し尽くさないと後悔するなという気持ちでした。ただ、ひたすら自分の想いをプロデューサーにぶつけましたね」

 男が勝負を掛けるときは、気取ってなんかいられないということですね。いい話です。大勢のプロのスタッフやキャストをディレクションしての撮影現場はどうやって乗り切ったんでしょうか。

「撮影前日にスタッフ全員に集まってもらい、『必ず面白い作品にします』と宣誓したんです。みんなの前でうまくしゃべれるように、ずいぶん練習しました。でも、やっぱりみんなの前だと緊張してしまい、ちらちらアンチョコを見ながらの宣誓になりました。撮影初日が始まり、プロのみなさんが自分に付いてきてくれたので、『よし、このテンションで最後までやり通すぞ』と思えたんです」

 きっと、スタッフもキャストも内藤監督を男にしようと張り切ったんじゃないですか。ヒロイン・美津子役の宮本裕子さんは少女のような純真さとファムファタールのような魔性の2面性を見事に演じ分けていますね。

「美津子は万造に比べると器用そうに見えるけど、実は万造よりも不器用な女。うまく宮本さんが演じてくれています。ボク自身を投影した万造に比べ、美津子というキャラクターの造形は苦労しましたね。宮本さんもボクの考えていたことを100%理解できたわけじゃないと思いますが、できあがった映画の中でボクの考えていた以上の演技を見せてくれました。ボクが機械的に演出していた部分を、すごく人間的なものに置き換えてくれていました。自分ひとりではなく、みんなで作る映画って、いいものだなと思いましたね」

naito_sub02.jpg負け犬たちの日常を笑いを交えて温かく
描いた作風から”日本のアキ・カウリスマ
キ”と呼ばれる内藤監督。「海外の映画祭
でそのように評されて驚きました。カウリ
スマキの作風を意識したわけではありま
せんが、もちろんカウリスマキ作品は好き
です。『パラダイスの夕暮れ』(86)とかい
いですよね」

 人生って、捨てたもんじゃないな、と。

「えぇ……」

 内藤監督、笑いたいのを我慢してませんか? まぁ、いいです。内藤監督の考えるハードボイルドな俳優を教えてください。

「藤竜也さん、それに山崎努さんでしょうか。渋みの中に滑稽さを含めた芝居もできる素晴らしい俳優さんだなと。女優だと……中森明菜さんかな……。危険な匂いがするけど、男として放っておけないような魅力がありますよね」

 ちなみに好きな女性のタイプは?

「……そうですねぇ、年上の女性かな。それでお尻が大きかったら言うことないですね」

 口ベタな独身男とミステリアスな美女との束の間の逢瀬を描いた『不灯港』ですが、ラストはかなり衝撃的です。でも内藤監督としては、決してバッドエンディングではないわけですか。

「観た人の感じ方次第だと思うんです。確かに哀しいエンディングと受け止める人もいるでしょうけど、単純なアンハッピーエンドのつもりではないんです。万造の心の中には、一輪の赤いバラが咲いたという大事な思い出が残るわけです。男って、美しい思い出がひとつあれば、生きていけるんじゃないでしょうか。ぜひ、日刊サイゾーのユーザーのみなさんにも万造のように、本気で愛を表現してほしいですね。例えそれが不器用な愛でも、必ず相手に伝わると思います」

 最後までハードボイルドに決めてくれた内藤監督。どこか母性本能をくすぐる魅力の持ち主でもあり、配給会社が独身の内藤監督のために独身女性限定のお見合い試写会を7月7日に企画しているほど。羨ましい限りだ。内藤監督や万造のような”ハードボイラー”がモテモテの時代が、もうすぐやってくるに違いない。
(取材・文=長野辰次)

hutohkoh_mai.jpg

●『不灯港』
監督・脚本/内藤隆嗣
出演/小手伸也、宮本裕子、広岡和樹、竹本孝之、鹿沼絵里、ダイヤモンド☆ユカイ、麿赤兒
配給/クロックワークス
7月18日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー
※7月18日発売の月刊サイゾーには『不灯港』に出演した麿赤兒氏のインタビューを掲載。
http://manzo-movie.jp/

●内藤隆嗣
1981年宮崎県生まれ。05年東京都立大学(現首都大学東京)・理学部数学科卒業。宮崎から親友を呼んで撮影した自主映画第2弾『MIDNIGHT PIGSKIN WOLF』がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)2006で、企画賞(TBS賞)を受賞。熱い想いをプロデューサーたちにぶつけ第18回PFFスカラシップに選ばれ、『不灯港』を完成させた。本作は今年1月に行なわれたロッテルダム国際映画祭コンペ部門に出品され、上映会場を満席にする人気ぶりだった。

運命じゃない人 [DVD]

こちらは第14回のスカラシップ作品。快作です。

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最終更新:2009/07/04 12:08
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