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のり・たまみのへんな社会学 第1回

皇居、ディズニーランド、甲子園球場……好きな場所に勝手に住み込む方法とは?

disney.jpg※イメージ画像 photo by emrank from flickr

世の中のへんなものをこよなく愛するのり・たまみの、意外と知らないちょっとへんな社会学。

 突然ですが、今年から「夢と魔法の国・ディズニーランド」の中に住もうかと考えています。と言っても、別にディズニーランドの住み込み警備員になるわけでも、あの巨大ネズミや、蜂蜜ばっかり食べている黄色いクマの24時間付き人になるわけでもありません。

 日本独自の「本籍はどこでもよい」という風習を利用して、勝手にディズニーランドに本籍を移す予定なんです。正確に書くと「ディズニーの中に住む」というより「本籍をディズニーランドにしてしまう」ということです。

 もちろんディズニーに許可は取っていません。というか、法律的に取らなくていいことになっています。「日本国内の土地だったらどこでも勝手に本籍にしてOK」というのが法の規定ですから。なので、筆者がかつて20年近く住んでいた千葉県浦安市に敬意を表して、ディズニーに本籍を移しても先祖帰りみたいなもんです。

 ところで「勝手に本籍」として日本で一番人気があるのは、なんと言っても皇居だそうです。皇居の住所は「千代田区千代田1番地」。新聞報道によると、皇居に本籍がある人は2100人ほどです。その他にも「東京タワー」「富士山」「甲子園球場」「網走刑務所」「国会議事堂」「北方領土」「東京都庁」なんかも人気があります。別に人が住んでいる必要もないので、無人島である日本の「沖ノ鳥島」や、他国が実質支配している「北方領土の各島」なんかも可能です。

 筆者もかなり前から「本籍って、どこでもいいんだって。実際に皇居に本籍置いている人も多いらしい」という話はなんとなく聞いていました。でもかつては、実際にその土地を管轄するお役所まで行って手続きしなくてはいけなかったので、思い立っても面倒でやる人は少なかったのです。

 しかし、お役所も「サービス業」にシフトしつつある現在、別に現地に行かなくてもいま住んでいる市町村の役所で本籍だけ変えることが出来たり、郵便で簡単にいろいろな手続きができるようになりました。実際に、あなたが本籍を「○○」にしたいと思っていたら、近くのお役所にいって「転籍届」を提出するなどの手続きをするだけでOKです。窓口のお兄さんやお姉さんに、別に「なぜ皇居に、富士山に、ディズニーに本籍を移すんですか?」などと質問されたりすることもなく、トータルわずか数百円程度の手数料などで(自治体による)でやってくれます。経験者のブログなど読むと、所要時間はわずか10分程度。簡単に本籍を移せるんです。レンタルビデオ屋で会員カードを作るのとあまり変わりがない程度のコストです。

 実際に本籍が「先祖代々の土地」とか「子ども時代に住んでいた場所」「郷土にそのまま残している」なんて人はたくさんいますが、普段戸籍を意識するほど困ったことはないようです。

 一体どうしてこんなことになっているんでしょう。そもそも「本籍」って何なんでしょうか。「本籍」「戸籍」「住民票」の違いって何?

 この3つの中で一番大事なのは「戸籍」です。「戸籍」はもともとは国家が個人を家制度の中に組み込み、かつ徴税・徴兵のために作成したものです。「戸籍」には基本的にすべてのことが書いてあります。あなたの生まれた日、名前、両親、結婚したことあるかないか、などなど。よく「私の本当の親は誰なのか?」とか、「あの人は本当に独身なの? 過去に結婚歴ないか?」など調べる時は相手の「戸籍」を調べますよね。戸籍こそが、ある個人を特定する一番大事な書類なんです。

 そして「住民票」。これは、「今、ここに住んでいますよ」という書類。それにともない税金をとったり、現在住んでいるところを特定したりします。では最後に残った「本籍」って、何なんでしょう。こんな名前だから、一番偉いというか、一番「真っ当」という感じがしますが、それは全くの誤り。この「本籍」は、一番大事な書類である「戸籍」をしまっておく場所のことです。日本国家がそもそも「戸籍」を作ったのは先に書いたように、国民から税金取ったり、徴兵したり、日本にどのくらい人口がいるのかなど、いろいろ管理するのが目的でした。

 そして、大事な「戸籍」を作ったのはいいけれど、それをどこで管理するのかという問題が出ました。いまのようにコンピューターもなく、全部「紙の書類」だった時代の話です。いくら大事な書類でも、どこにあるのか分からなければ意味がありません。それで「じゃ、どこの役所に戸籍を置いたか分かるようにしよう」と作ったのが「本籍」制度。ここ(本籍の住所)に行けば、大事な書類の「戸籍」がありますよ~、という書類を取り扱うお役所内だけの都合で作ったなんですね。私たちの生活にはほとんど関係ありません。

 現在で言えば、携帯電話各社やインターネット社会での基地局みたいなもの。私たちは毎日のように携帯やインターネットを使ってますが、大元のそれらを管理してる巨大な基地局はどこにあるかなんて気にしませんよね。その運営会社に勤めている人が分かれば充分です。だから「本籍」も、あくまで公務員さんが人々を管理するための住所。しかも、どこに置いてもOKとしました。そんな自由に置いたら、役所の方で管理がめんどくさいじゃないかって? それは大丈夫。別にどこに本籍があろうが、しっかり住民票などに基づいて税金は取れますし、人は特定できるので、管理できたりします。もし「本籍の住所によって住民税をある程度取れる」みたいな感じだったら、目の色を変えて各自治体も頑張るでしょうけれど、そんな特典はないようです。

 そもそも戸籍制度などが出来たのは、江戸時代が終わり、ようやく近代国家として日本が歩み出した明治の一番最初の頃です。生まれた村や、その近辺で一生を終える事が多かった当時は、その程度の管理方法で充分と考えたのでしょう。その当時の昔の風習のまま、制度だけ残しているので、こんないびつな形になりました。
 
 本籍は、どこでもいいんですから、実は「他人が住んでる場所、住所」でもOKです。大好きなアイドルの家を調べ上げて、勝手に「自分の本籍にする」のも自由。芸能人は、ファンに勝手に婚姻届けを出されないように役所に事前に「婚姻届不受理申出制度」を出すことはできますが、「本籍」は日本国中オールOKなので止めることは出来ません。そして、どこに本籍地を置くかは、地域差もあるようです。

 たとえば関西は、熱狂的な阪神ファンが多いことで有名ですが、優勝した、もしくは優勝しそうな年には「本籍地を甲子園球場に移すには?」という問い合わせが西宮市役所に急増するそうです。もっとも実際にやるとなったら、二の足を踏むのか、現在「甲子園球場」に住んでいるとされているのは約180人と神戸新聞で報道されています。

 このことを知った阪神球団側も「試合の時は、ぜひ本籍地(球場)に戻ってきて」と大人の対応コメントを残しています。戸籍の電子化も始まり、お役所の中からも「本籍」が本当に必要なのか、今のままの制度でいいのか、廃止してもいいのでは、と声が出始めています。

 世界でも日本にしかない制度「本籍」。へんな風習ですねえ。
(文=のり・たまみ)

●のり・たまみ
世界中の「へんなもの」をこよなく愛する夫婦合体ライター。日本のみならず、世界中の政治の仕組みや法律などをこよなく偏愛している。主な著書に『へんなほうりつ』(扶桑社)、『日本一へんな地図帳』(白夜書房)、『へんな国会』(ポプラ社)、『へんな婚活』(北辰堂出版)などがある。

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最終更新:2010/06/29 11:37
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