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プログラミング・ディレクター矢田部吉彦氏インタビュー

“東京国際映画祭”サイゾー流裏ガイド 虫食い、毒ガエルなど味な珍品に注目!

tiff01.jpg東京国際映画祭「コンペティション」のプログラミング・ディレクター・矢田部吉彦氏。
フランス生まれのスイス育ちで、元銀行員というユニークな経歴の持ち主だ。

 「第23回東京国際映画祭」が10月23日(土)~31日(日)、六本木ヒルズで開催される。上映作品約200本と国内最大の映画祭だが、「国際映画祭にしてはゲストが地味」「どれが面白い作品か、よく分かんない」などと言われることも。そこで、実際そこんとこどーなのよ、と映画祭スタッフへぶっちゃけインタビューを敢行することに。映画祭のメーン企画である「コンペティション」のプログラミング・ディレクターであり、「WORLD CINEMA」の選定、他にも「日本映画・ある視点」「natural TIFF」の選考にも関わっている矢田部吉彦氏に、映画祭について根掘り葉掘り聞いてみた。これを読めば、映画祭への興味が俄然湧いてくるはず!?

──依田巽チェアマンが「3年で3大映画祭に追いつく」と公約して3年目を迎えましたが、公約は実現できそうでしょうか?


矢田部吉彦氏(以下、矢田部) う~ん、依田チェアマンの発言はですね、公約というよりも、東京国際映画祭(TIFF)として大きな目標を持とう、ということだと受け止めています。なぜ3大映画祭があれほど映画界で敬意を払われているかというと、歴史があるということなんです。カンヌ、ベネチア、ベルリンとどれも60年以上の歴史を持っています。映画祭って、ものすごくお金がかかるし、手間も労力も要する。それを3大映画祭は半世紀以上続けているわけですから、大変なことですよ。TIFFも20回を越え、映画祭としてなかなかの時期にきていると思います。それに3大映画祭と言っても、実際はカンヌの人気が独走している状況で、カンヌの次には9月に開催されるトロント国際映画祭が業界的には重要視されており、もう3大映画祭という括りはあまり意味がないんです。そういう中で、TIFFも先行する映画祭に少しでも追いつこうということで、依田チェアマンは発言されたんだと思っています。

──「コンペティション」では、第11回『オープン・ユア・アイズ』(97)、第13回『アモーレス・ペロス』(00)がグランプリ受賞、第15回『シティ・オブ・ゴッド』(02)などの秀作が上映されてきましたが、最近のコンペ作品は地味になっていませんか?

tiff03.jpg「WORLD CINEMA」の『エッセンシャル・
キリング』はヴィンセント・ギャロ主演。
よゐこの濱口しかり、サバイバルに強い男は
女性にモテる?

矢田部 ボク自身は映画を見るにあたって、地味か派手かといった見方はしておらず、クオリティーの高さを求めています。でも、ご指摘のとおり、ボクがコンペティションのセレクションをするようになって4年目ですが、「コンペティション全体は粒ぞろいになったけど、作品は小粒になった」と言われているのは確かです(苦笑)。そこで今年はクオリティーは下げずに、粒の大きめな作品も意識的に選んでいます。ぜひ、世界76国832本の中から選び抜いたコンペティション15作品を1本でも見てほしいですね。理想を言えば、コンペティションの15本すべてTIFFで全世界初上映となるワールドプレミアならいいんですが、現実的にはそれは難しい。10月のTIFFに出品してくれと頼んでも、「いや、9月のベネチア映画祭に出品することが決まっているから」「もう少し待って、2月のベルリン映画祭に出そうと思う」など断られてしまう(苦笑)。そこはまだまだTIFFの弱いところです。そこでトロント国際映画祭はコンペティションを持たない映画祭なので、トロントでワールドプレミア上映される作品を、アジアプレミアという形でTIFFに持ってきたりしています。

──10月開催という時期が、そもそも厳しいわけですよね?

矢田部 確かにそうです。でも、依田チェアマンが「世界に映画祭は数千ある」と会見で話していたかと思いますが、そう考えると、どの時期にやっても同じですね。1月開催にすれば、もっとベルリン映画祭に作品が流れるし、4月開催ならカンヌ映画祭の影に隠れてしまいます。どの時期にやっても難しい。なら、10月でやれるベストを尽くそうということです。10月は釜山国際映画祭もありますが、作品が重ならないようにしています。釜山のプログラミング・ディレクターとは仲が良いので、作品を奪い合って険悪な関係になるようなことはないです(笑)。11月には同じ東京で、東京フィルメックスも開催されますが、個人的志向に走れば、ボクもフィルメックスのような作品選びになるだろうなぁと思いますね。逆にTIFFはフィルメックスとはテイストや規模感の異なるものを入れようと考えています。フィルメックスのプログラミング・ディレクターはすごく楽しいと思いますよ。コアな映画ファンの期待に応えるシネフィル的な作品を上映するのは、とても楽しい作業。でも映画人口を少しでも増やし、すそ野を広げ、映画業界の人材の循環を活性化させることも映画祭の大事な使命なので、TIFFではその部分を強く意識しています。岡田准一主演の『SP野望編』やデヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』を観に来た人が、ついでにコンペティション作品も見て「へぇ、意外と面白いじゃない」と思ってもらいたいんです。

■09年の『ザ・コーヴ』に続く話題作はコレだ!

──TIFFというと、どうしてもマジメな作品が上映されているイメージがあるんですが、好奇心旺盛な日刊サイゾーのユーザーが食いつきそうなひねりの効いた作品をぜひ教えてください。

矢田部 分かりました、とんがりミーハーな方たちが興味を持つ作品を選びましょう(笑)。「特別招待作品」では草刈正雄さんが殺し屋に扮した『歌うヒットマン!』はどうでしょうか? ミュージカルで3Dという摩訶不思議さが評判になっていて、前売り券の売れ行きがいいんです(笑)。「WORLD CINEMA」ではロマン・ポランスキー監督の『ゴースト・ライター』は見応えのある政治サスペンスで、『スター・ウォーズ』シリーズのユアン・マクレガーが主演です。ヴィンセント・ギャロ主演の『エッセンシャル・キリング』もお勧めです。テロリスト役のギャロがCIAに追われる逃走劇なんですが、冬山の中で飢えたギャロが木の皮を剥いで食べたり、地面を掘って虫を捕まえて食べたりするサバイバルものです。これなんかサイゾー的にストライクじゃないですか(笑)。

──ヴィンセント・ギャロが虫を食う! これは見てみたいですねぇ。矢田部ディレクターが直接担当するコンペティションのお勧めも教えてください。

矢田部 コンペティションのどれを見ればいいのか分からないという人に、まず見てほしいのが『サラの鍵』ですね。ユダヤ人のホロコーストを題材にしたものですが、フランスでもフランス人がユダヤ人を迫害していたというリアル・ドラマです。もうひとつ、『ビューティフル・ボーイ』もシビアですが、重厚な人間ドラマです。大学構内で起きた銃乱射事件を加害者である少年の親の立場から描いたもの。『クィーン』(06)でブレア首相をそっくりに演じたマイケル・シーンが熱演しており、ぐいぐい引き込まれます。若手女優で選ぶなら、『わたしを離さないで』。キーラ・ナイトレイも出演していますが、『17歳の肖像』(09)で今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたキャリー・マリガンがメチャメチャかわいいんです。彼女は日本人が好きなタイプでしょう。

tiff02.jpg「コンペティション」の『わたしを離さないで』。
キャリー・マリガン(手前)は現在25歳だが、
童顔なので10代の学生役にぴったり。
(c)2010 Twentieth Century Fox Film Corporation.
All Rights Reserved.

──童顔のキャリー・マリガンは、ロリ系好きは見逃せませんね。

矢田部 まぁ、そういう下世話な気持ちを持つことが申し訳なくなるような、ピュアな青春ドラマですよ(笑)。カズオ・イシグロの同名小説が原作で、彼女たちの暮らす寄宿学校には秘密が隠されていて、クライマックスにはドンデン返しが待っています。若手女優なら、日本の『海炭市叙景』の谷村美月も素晴らしい演技を見せています。もう1本、日本の作品である『一枚のハガキ』も是非ものです。今年98歳になる新藤兼人監督は「これが最後の作品」と公言しており、来場していただくことになっています。大ベテラン監督の来場は、それ自体がもう事件じゃないですか。

──昨年、追加上映され大きな波紋を呼んだ『ザ・コーヴ』のような衝撃作はありませんか?

矢田部 毎年『ザ・コーヴ』みたいな作品があるのも考えものですけどね(苦笑)。でも、配給が難しいような問題作でも臆せずに上映するのが映画祭の醍醐味です。そうですねぇ、『ザ・コーヴ』級の衝撃作は、「natural TIFF」の『そのカエル、最凶につき』かな。オーストラリアで害虫駆除のために輸入された外来種のカエルを追ったドキュメンタリーなんですが、最初は100匹程度だったカエルが害虫を食べず、しかも民家を襲撃し、今やオーストラリアの半分を占めるまで異常繁殖した様子を数年掛けて追ったものです。そのカエルは毒性があり、噛んだ犬が死んでしまうほど。毒ガエルが異常繁殖している様子が大スクリーンに映し出されるので、これはかなりの迫力です。カエルが苦手な方は観ないほうがいいでしょうね。

tiff04.jpg「natural TIFF」の注目作『そのカエル、
最凶につき』。異常繁殖した毒ガエルの
恐怖を描いたドキュメンタリーだ。
(c)Radio Pictures P/L and Screen Australia

■映画祭にまつわる”お金”の話

──矢田部ディレクターの話を聞いていると、どれも面白そう。チラシやHPの淡々とした味気ない解説文はどうにかなりませんか?

矢田部 限られた文字数では、なかなか作品の面白さを伝えられずにいるかもしれませんね。PRの仕方はTIFFとして考えるようにしますし、ボクももっといろんな機会に宣伝に努めるようにします。

──近年はすっかり海外のスターの来日が減ってしまい、華やかさに欠ける点はどう考えていますか?

矢田部 ハリウッドスターなどの招聘は映画祭側ではなく、メジャー系の配給会社が作品のプロモーションを兼ねて担当しており、ボクからは何とも言いにくいんですが、大物スターの来日とハリウッドの話題作の日本でのプレミア上映が減ってしまった原因は海賊版防止とセキュリティー対策なんですね。海賊版の流出を防ぐため、日米同時公開が増え、日本での事前のプロモーションができなくなってしまった。この秋にジュリア・ロバーツやトム・クルーズ、キャメロン・ディアスらが来日しましたが、公開直前に来日してテレビ取材だけ受けて帰るというパターンが最近は定着しています。とは言え、映画祭には華やかさは必要です。ゲストの招聘は考え直す時期に来ていますね。配給会社に委ねるのではなく、映画祭が独自のゲストを招くなど検討すべきでしょう。でも、TIFFがプライベートジェットを用意できるのか、いやそのくらいするべきだなどの議論がTIFF内で起きるでしょうね。

──ウィキペディアに「予算13億円」と記述されていますが、映画祭ってお金が掛かるもんなんですねぇ。

矢田部 13億円!? いやいや、多分その半分ぐらいだと思いますよ。13億円もあれば、もっと豪華な映画祭になっています。プライベートジェットにリッツ級の最高級ホテルを用意すると言えば、来てくれるゲストは増えるでしょう(笑)。TIFFは海外の映画祭と比べても国からの援助の割合は決して多くないんですよ。でも、今のTIFFで13億円も使われていると思われているなら、成功していると言えそうですね(笑)。やはり映画祭はお金が掛かります。シネコンを丸ごと貸し切るわけですし、コンペティションの作品も英語字幕、日本語字幕を付けるのに1本につき100万円程度かかります。フィルムを15本用意するだけで、単純に1,500万円ですからね。

──04~08年には「黒澤明賞」なる功労賞がありましたが、第1回の受賞者としてスピルバーグ監督に賞金10万ドルを贈っていましたよね。スピルバーグに1,000万円あげても、まったく無意味だったんじゃないですか?

矢田部 「黒澤明賞」にはボクはタッチしていなかったので、詳しいことは分かりませんが、先ほど話した映画祭独自に海外の大物スターを呼ぼうというトライアルのひとつだったんじゃないでしょうか。確かにスピルバーグ監督にとって1,000万円は、ほんのポケットマネーでしょうね。それに、スピルバーグ監督は来日してくれなかった。きっと、担当者は映画祭ギリギリまで来日するよう交渉していたんじゃないかと思います。でも、映画祭に功労賞みたいな賞は今後もあったほうがいいでしょうね。

tiff05.jpg“生誕70年記念”としてブルース・リー主演作
『燃えよドラゴン』『ブルース・リー死亡遊戯』も上映。
ブルース・リー信者が多数ゲストとして登壇する模様。
(c) 2010 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

──矢田部ディレクターは手堅い銀行員から転職して、映画祭の仕事に関わるようになったわけですが、年間500~800本もの映画を見る今の仕事は大変では?

矢田部 銀行には10年ほど勤めていたんですが、それはもう毎日がイヤでイヤで仕方なく、鬱屈した日々だったんです。映画はずっと好きで、海外駐在中に「こんなに面白い映画があるのに、なんで日本で公開されないんだろう」と思ったのが、この仕事に就いたきっかけですね。でも、「趣味は仕事にしないほうがいいんじゃないか」「今の仕事から逃げ出したいだけじゃないのか」と3年くらい悩みました。それを考えると、今のように映画を見てメシが食えるなんて夢のようです(笑)。自宅で延々とDVDを見るのはちょっとしんどいですけど、出張で海外の映画祭に出向き、朝から夜までずっと映画を見続けるのは楽しくて仕方ないですねぇ。映画祭も組織として動いているので会社員を経験できたことはプラスだと思っていますし、あの鬱屈した10年間があったので、映画祭の仕事を突っ走ることができているように思いますね(笑)。ひとりでも多くの方に映画祭に関心を持ってもらい、劇場で映画を見る楽しさを知ってもらえればと考えています。ぜひ、会場に足を運んでみてください。
(取材・文=長野辰次)

●やたべ・よしひこ

フランス生まれ、スイス育ち。日本興業銀行(現みずほ銀行)を退職後、佐藤真監督のドキュメンタリー映画『阿賀に生きる』(92)のプロデュース、フランス映画祭の運営などを経験。東京国際映画祭には2002年から参加し、04~06年は「日本映画・ある視点部門」のプログラミング・ディレクターを担当し、舞台あいさつ、Q&Aなどの司会進行も手掛ける。07年から「コンペティション」のプログラミング・ディレクターに就任。また、海外の映画祭で受賞するなど話題になりながらも日本での公開が決まっていない秀作を集めた「WORLD CINEMA」を発案、企画するなど映画祭の改善、改良に努めている。

●東京国際映画祭
公益財団法人ユニジャパンが主催する国際映画祭。1985年に第1回が開催され、これまでに『タイタニック』(97)のワールドプレミアが開かれるなどで話題を集めた。依田巽チェアマンが就任した08年から映画祭初日のレッドカーペットがリサイクル素材によるグリーンカーペットに変わり、定着している。映画祭の中心となる「コンペティション」は世界各国から公募された作品の中から厳選された15作品が競い、「東京サクラグランプリ」「審査員特別賞」「最優秀監督賞」「最優秀女優賞」「最優秀男優賞」「最優秀芸術貢献賞」が最終日のクロージング・セレモニーで発表される。今年は10月23日(土)~31日(日)、六本木ヒルズのTOHOシネマズ六本木ヒルズをメーン会場に開催される。
<http://www.tiff-jp.net>

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最終更新:2010/10/20 15:00
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