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被害額は数百億!? 特許ビジネスの裏側を描く小説『パテントトロール』

patento.jpg『パテントトロール』(タイトル)

 例えば手元にある携帯電話。普段何気なく使っているこの機械の中にも、数千、数万にわたる特許が詰め込まれていると言われている。「ハンズフリー通話装置」や「電子メールアドレス通知システム」といった機能から、「携帯通信端末用無線通信システム、該システムで用いられる無線通信接続方法及び無線通信接続プログラム」、「携帯電話機を利用した自動文字コード認識、表示システム、方法およびプログラム」など、その名前からでは全く内容が想像できないようなシステムまで、細部にわたって複雑な特許の網が組み込まれている。

 そんな特許を飯の種にしようと暗躍する人々が、「パテントトロール」と呼ばれる人々だ。別名「特許マフィア」と呼ばれるように、彼らの仕事は裏社会と密接につながりながら、違法ギリギリの手口で大企業から巨額の賠償金やライセンス料を巻き上げるというもの。もちろん、特許の所有者がその利用に対して金銭を請求することは間違いではない。しかし、パテントトロールたちが厄介なのは、彼ら自身がその特許を利用することなく、賠償金をせしめるためだけにそれを保有することにある。パテントトロールが絡んだ有名な事件としては、1980年代後半に大手カメラメーカーのミノルタがオートフォーカス技術の特許を侵害しているとして160億円以上の和解金を支払った事件などが知られている。 

 そんなパテントトロールとの格闘を描いた小説が、石橋秀喜氏による最新作『パテントトロール』(タイトル)だ。

 カーナビメーカー「アルデスタ電気」の知的財産部を舞台に、パテントトロールに狙われた企業の内部を描くこの小説。著者である石橋氏は、東京都庁、オリンパス、アクセンチュア、アルプス電気など、錚々たる企業を渡り歩いた人物で、知的財産の専門家。その知識や経験を活かした内容は、細部にわたるまでリアリティーを感じさせる。また、大企業の抱える矛盾や、組織の内部からの裏切りなど、特許のハウツー本としてではなく、敢えて小説の形にしたことによって、パテントトロールに狙われた人々の人間模様が入り乱れる秀逸な企業ドラマとしても楽しむことができるだろう。

 普段の生活ではあまり意識することのない特許。しかし、同書に描かれるカーナビをはじめとして、現代の生活は特許に取り囲まれているといっても過言ではない。そんな特許の裏側について詳しく知りたい人はもちろん、ビジネスの世界で活躍する読者諸氏には必読の一冊と言えるだろう。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

●いしばし・ひでき
株式会社プロファウンド代表取締役社長。1985年に中央大学法学部法律学科卒業後、東京都庁、オリンパス、アクセンチュア、アルプス電気などを経て、2006年に株式会社プロファウンドを設立。知的財産の専門家として数多くの企業のコンサルティングや執筆活動などを行う。

パテントトロール―特許マフィアに狙われた日本企業の行方

特許ビジネスの盲点。

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最終更新:2011/01/05 11:30
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