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"輝くオヤジの星"ロングインタビュー

名脇役・光石研の気取らない俳優哲学 33年ぶりに主演『あぜ道のダンディ』(前編)

mitsuishiken001.jpg噛めば噛むほど、味のある俳優・光石研。
コツコツと仕事を積み重ね、才能を開花させた実力派だ。

 年齢を刻み、キャリアを重ねていくごとに、味わいを増していく俳優・光石研。必要以上に出しゃばることはないが、監督から求められればしっかりと期待に応えてみせる。三池崇史監督の大ヒット作『十三人の刺客』(2010)では見事なやられっぷりを、藤原竜也主演の『カイジ 人生逆転ゲーム』(09)では小市民ならではの哀愁を、園子温監督の問題作『紀子の食卓』(06)ではブチ切れる父親を演じてみせた。映画出演だけでもうすぐ150本に届く、日本映画界屈指の名バイプレイヤーである。そんな隅に置けない男・光石研が、デビュー作『博多っ子純情』(1978)以来となる、実に33年ぶりに主演したのが石井裕也監督の『あぜ道のダンディ』。家族を愛することしか能のないヤモメ男・宮田が、2人の子どもの大学進学にアタフタしながらも最高のダンディズムを見せてくれる男泣きコメディーだ。ベテランになっても、ひょうひょうと軽やかさをキープする名優に、33年ぶりに主演した感慨、不遇時代、役にハマり過ぎて眠れぬ夜の過ごし方……を語ってもらった。ひと言ひと言に、スルメのように味があるんですよ。

――高校生のときにオーディションを受けた『博多っ子純情』で主演に抜擢されたときも驚かれたと思いますが、49歳での主演作『あぜ道のダンディ』はまた違った驚きがあったんではないですか?

光石研(以下、光石) えぇ、そうですね。正直なところ、「ボクでいいんですか?」と思いました(笑)。事務所のマネジャーから「こんな話が来てるよ」と連絡があったんですが、「ボクの主演作じゃ、映画は実現しないだろう。企画が通らないだろう」と思ったんです。映画って、水ものですからね。

――なんと控えめな自己評価! とはいっても俳優ですから、当然のように「主役を演じてみたい」という野心は持たれているわけですよね?

光石 そうです、もちろんそれはあります。でもねぇ、「オレが主役だ。オレがやってやるんだ」と、そればっかり意識していると、変な力が入ってダメだと思っていたので、今回もいつも通りにしていました。そのうち、台本が固まってきて、衣装合わせが始まって、ロケ地が決まって……、ようやく、その気になったんですけどね。そうなるまでは「いやいや、まだ分からないぞ」とずっと自分に言い聞かせてました(笑)。自分の名前が最初に載っている台本の空いている部分(スタッフ&キャスト表)が次第に埋まっていくのは、そりゃあうれしかったですよ。ボクの主演作が実現するように、本当に大勢の方たちが動いてくれたわけですから。でも、現場が始まると、もうそれどころではないですね。今回は特にスケジュールが厳しくて、寝る暇もないくらいでしたから。現場で喜びを噛み締めるなんて余裕はまったくありませんでしたよ(笑)。

azemichi_dandy01.jpg冴えない中年男の宮田(光石研)と真田(田
口トモロヲ)は、中学のときに「カッコいい
大人になる」と誓い合った仲。
(c)2011「あぜ道のダンディ」製作委員会

――33年ぶりの主演作ですよ。ご自宅で赤飯を炊いたりとかなかったんですか?

光石 ハハハ、いやぁ~全然そういうのはありませんでした。まったく、いつも通り。何の変わりもなく、家を出て現場に向かいました(笑)。

――常に自然体というところが、光石さんならではですね。今回は同じく日本映画界が誇る名バイプレイヤー・田口トモロヲさんとの共演。中学校からの親友同士という役がぴったりハマってましたが、実はお2人の本格共演は初なんですよね?

光石 そうなんです。一度だけ、トモロヲさんがテレビドラマに主演されたときにボクも出たんですけど、そのときの撮影は小1時間程度で済んでしまったんです。ですから今回みたいに、トモロヲさんと2週間べったりの現場は初めてでした。

――俳優ひと筋の光石さんに対し、田口トモロヲさんはバンド活動、カルト映画『鉄男』(89)に主演、『アイデン&ティティ』(03)『色即ぜねれいしょん』(09)の監督……と多彩な活躍ぶり。同じ名バイプレイヤーでも、キャリアもカラーも異なります。

光石 ボクとは全然違います。ボクらの世代にとっては、トモロヲさんは80年代の”カルトキング”ですからね。トモロヲさん、パンクバンドをされていたけど、現場ではとても静かな方なんです。撮影が始まると、スーと自然な感じでギアが入っていくんですね。ボクなんか、「よし!」と腹に力を込めてるところがあるけど、トモロヲさんはそういうのを感じさせませんね。でも、トモロヲさんと一緒のシーンはすごくやりやすかった。本当、すんなりとやれました。トモロヲさんと共演させていただけて光栄でしたね。

――石井裕也監督の脚本はどうでしたか? 「後ろにもさがれなければ、前にも進めない50歳。大変なんて、分かりきったことを言うな!」なんて名台詞が飛び出します。

光石 石井監督、痛いところ突いてきますよねぇ(笑)。トモロヲさんとも、「石井監督は若いのに(83年生まれ)、よく分かってるよねぇ」なんて話をしましたね。石井監督は演出もすごく丁寧なんです。「ここは、ぐっと苦み走ったような表情でいきましょうか」みたいに、シーンごとに丁寧に演出してくれるんです。

azemichi_dandy02.jpg妻を亡くした宮田は「自分も胃ガンでは
?」と思い込むが、子どもたちの前では決
して弱音を吐かない。

――ヤモメ暮らしの宮田と子どもたち(森岡龍、吉永淳)は、普段は会話はないけど、深いところでちゃんと繋がっている家族。子どもの頃に母親を亡くした石井監督の実体験や理想像が盛り込まれているんでしょうね。

光石 えっ、そうなんですか。ボクは石井監督のご家族のことは全然知りませんでした。そうでしたか。あぁ、そういうことなら、息子役の森岡龍くんには、石井監督の想いがきっと投影されているでしょうね……(しばらく、感慨に耽る)。ボクね、監督とは余計なことは話さないんです。というか、話せないんです(苦笑)。監督というとカメラの向こう側にいる、いちばんの長でしょ。デビュー作『博多っ子純情』の曽根中生監督や『セーラー服と機関銃』(81)の相米慎二監督といった昔の監督はみんな厳しくて怖かったこともあって、今でも監督とはうまく話せないんです。自分より年下だとか関係ないですね。監督って、ボクにとっては年齢に関係なく近寄りがたい存在。「監督、ここはどういうことなの?」なんて気軽には現場で話し掛けられないんです。

■ベテラン俳優にとって、いちばんの財産とは?

――プロの俳優と監督の間に余計な会話は要らないということでしょうか。宮田は「家族には弱音を吐かない」「家族の前では弱みを見せない」などのダンディズムを幾つも持っていますが、今日は光石さんの俳優としてのダンディズムをぜひ聞かせてください。

光石 ボクなんかより、宮田くんの方が断然ダンディですよ(笑)。ボクはね、すぐに弱音を吐いちゃう。家族の前でも、「眠い」とか「しんどい」とか口にしてしまう(苦笑)。家族の前だけじゃなくて、現場のスタッフにも「寒いよ」「暑いよ」とすぐに愚痴っちゃう。ボクは宮田くんみたいにカッコよくないんです。全然ダンディじゃないです。

――いやいや、独自の矜持を持っているからこそ、30年以上も俳優業が続いているんだと思います。

光石 どうなんでしょう。でも、スタッフに愚痴りながらも、現場でみんなと過ごすのが好きなんです。本当、現場は大変なんで、愚痴ってないと続かないんですよ(苦笑)。それでね、長年この仕事をやっているんで、どこの現場に行っても、顔見知りのスタッフがいるんです。これがボクにとっての、いちばんの財産ですね。『博多っ子純情』では何も知らない田舎の高校生のボクを、そのときのスタッフはすごくかわいがってくれて、そのことがあって、ボクはこの世界に入ったんです。福岡から上京したばかりのときも、スタッフにはずいぶん呑みに連れて行ってもらいましたし。今では自分よりずっと年下の若いスタッフが「ボク、光石さんが出演したあの作品の現場にもいたんですよ」なんて声を掛けてくれる。そういうのが凄くうれしいんです。

――光石さんがいることで、現場がいいムードになるんでしょうね。

光石 それは、どうでしょう。ボクひとりで、どうにかなるもんじゃないと思いますよ。でも、少なくともボクは現場でスタッフと何気ない会話をちょっとすることが安らぎになっていますね。顔見知りのスタッフと再会したり、若いスタッフが育ってるのを感じたり、そういうのが現場での喜びなんです。
後編につづく/取材・文=長野辰次)

●『あぜ道のダンディ』
脚本・監督/石井裕也 出演/光石研、森岡龍、吉永淳、山本ひかる、染谷将太、綾野剛、蛍雪次朗、藤原竜也、岩松了、西田尚美、田口トモロヲ
配給/ビターズ・エンド
6月18日(土)テアトル新宿、ユナイテッド・シネマ前橋、シネマテークたかさき他全国順次ロードショー <http://www.bitters.co.jp/azemichi>

●みついし・けん
1961年福岡県生まれ。曽根中生監督の『博多っ子純情』(78)のオーディションで抜擢され、主演デビュー。中島貞夫監督の『瀬降り物語』(85)、水谷俊之監督の『ひき逃げファミリー』(92)、岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(94)、青山真治監督の『Helpless』(96)『ユリイカ』(2001)『サッド ヴァケイション』(07)の”北九州3部作”、橋口亮輔監督の『ハッシュ!』(02)、李相日監督の『BORDER LINE』(03)、瀬々敬久監督の『ユダ』(04)、園子温監督の『紀子の食卓』(06)、周防正行監督の『それでもボクはやってない』(07)、吉田康弘監督の『キトキト!』(07)、荻上直子監督の『めがね』(07)、森義隆監督の『ひゃくはち』(08)、佐藤東弥監督の『カイジ 人生逆転ゲーム』(09)、三池崇史監督の『十三人の刺客』(10)、平山秀幸監督の『信さん・炭坑町のセレナーデ』(10)ほか映画出演作は140本を超える。2011年公開作に『毎日かあさん』『太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-』『岳-ガク-』。公開待機作に『ロック~わんこの島~』『しあわせのパン』『東京プレイボーイクラブ』などがある。

十三人の刺客 通常版

こちらも好演。

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最終更新:2013/09/12 21:10
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