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闘志と犠牲精神を養い、今日から役立つ不抜の実用書『世界軍歌全集』

gunkadaizen.jpg『世界軍歌全集 歌詞で読む
ナショナリズムとイデオロギーの時代』
(社会評論社)

 一日の始まりはやっぱり軍歌だよね。もちろん、夜も軍歌。仕事中だって軍歌を聴いていると、やる気が出るよね?

 真珠湾攻撃70周年を迎えた12月8日に発売された『世界軍歌全集 歌詞で読むナショナリズムとイデオロギーの時代』(社会評論社)。全424ページ、文字数60万字、収録された軍歌の数は総数300曲に及ぶ大著である。

 いまだに石原莞爾が『最終戦争論』で示した予言を信じて(本気です、念のため)中二病扱いされ、有名国立大学で仏文を学ぶ美人女子大生を「セリーヌっていいよね」と口説いて、虫けら共をひねりつぶすような目で見られてもくじけない筆者としても感涙の一冊だ。こんな熱い大著を仕上げた著者に、ぜひ話を聞こうと「Giovinezza, Giovinezza, Primavera di bellezza(http://www.youtube.com/watch?v=_UW_l-mSOLU&feature=related)」と歌いながら、指定された場所に向かった。

 本書のもとになったのは、著者の辻田真佐憲さんが運営しているサイト「西洋軍歌蒐集館」。ドイツ、イタリア、ソ連、フィンランド、スペインなど世界各国の軍歌の歌詞を和訳し、背景を解説。可能な限り音源のリンクも紹介する熱のこもったサイトである。実は、辻田さんに出版依頼があったのは3年前。そこから既にサイトで紹介していた軍歌を見直し、さらにまだサイトで紹介していない新たな軍歌を追加して……と、完成まで3年の歳月を経たというから軍歌への熱い想いは計り知れない。

 辻田さんが軍歌の魅力にハマったきっかけは、中学2年生の時に偶然見つけた軍歌CD『露営の歌』を聞いてから。

「最初は、ネットで国内外の軍歌のサイトを見て情報を集めていましたが、大学に入ってからは自分で本を見つけて輸入して、歌の背景まで調べるようになりました」

 辻田さんが、十余年間に資料収集につぎ込んだ資金は100万円を超えるという。それにしても、これだけの数の軍歌を見つけ出して収集するには、とてつもない労力を要するはずだ。

「ネットで歌を見つけて歌詞を和訳して、関連するデータを調べていくわけですが、YouTubeの登場には助けられました。多くの海外軍歌がアップロードされるようになったし、一つの軍歌を聞くと関連動画で別の軍歌も見つけることができるんです。また、Googleブックスが登場してからは、オンライン上で資料を探索することができるようになりました。ネットがなかったら、本書も成立しなかったでしょう」

 驚くべきは、辻田さんが世界各国の軍歌をすべて独学で翻訳しているということ。辻田さんは英独仏に加えて、ラテン語やギリシャ語も読解できるのだが、それらも、多くは軍歌研究を通して学んだのだという。

「ドイツ語の語学学校に通ったこともあるんですけど、日常会話を学ぶよりも、自分の好きな分野だけやったほうがいいだろうと軍歌ばかり訳すことにしたんです。歌詞はずっと聞いていると覚えちゃうので、それを文法書を読みながら訳していく形を繰り返しているうちに、自然と身についていきました。朝鮮語とロシア語も、そういった形で学びました」

 軍歌を訳して言語を習得する。今までに考えつかなかった「新しい」言語学習の方法である。

 さらに驚きなのが、この本が単なるマニアな書籍では終わっていないことだ。発売直後には、Amazonは注文殺到で在庫が瞬殺、書店でも在庫切れと一時的に入手困難になるなど驚異的な売れ行きを示しているのだ。しかも、読者層は年齢もさまざま、男性ばかりと思いきや、意外と女性も多いという。

「発売直後に、ある女性声優がラジオでこの本を紹介してくれたのにはびっくりしました」

 まさに、本書によって軍歌のパラダイムが大きく転換したのは間違いない。もはや、軍歌は、ちょっと後ろめたさを持って聞くものではなくなったのだ。

 本書には権利関係などで、音源は収録されていないが、辻田さんはTwitterを通じてYouTubeへのリンクを張ったり、海外軍歌CDの通販情報も出していく予定だ。党員が7人だった時代は終わった。もう、誰も軍歌がなくては暮らせなくなる日は近い!

●著者に聞いた、まず聞くべきオススメの軍歌

・モスクワ防衛軍の歌
<http://www.youtube.com/watch?v=myOGE9S36WM>
言わずと知れたソ連軍歌。朝、仕事に出かける時にやる気が出る。

・東へ進め!(フィンランドから黒海まで)
<http://www.youtube.com/watch?v=EJgCYAThEAg>
ドイツ軍歌。これからの季節、受験生に最適な高揚感に溢れた歌。

・進発の歌
<http://www.youtube.com/watch?v=4qXVjcbWIF8>
「ラ・マルセイエーズの弟分」として愛唱されたフランス革命期の歌。『露営の歌』に対する『続露営の歌』のようなマイナー感がよい。

・ペロニスタ行進曲
<http://www.youtube.com/watch?v=XaMN2m5x8Jc>
アルゼンチンの軍歌。エヴァ・ペロン版の歌詞が珍しくてオススメ。

・モロトフはダメだ
<http://www.youtube.com/watch?v=RjjWSNTDVWc>
フィンランド軍歌。歌詞もリズムも軽快で楽しい。

(取材・文=昼間 たかし)

●つじた・まさのり
1984年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。中学校時代から世界各国の軍歌の類を蒐集し続けている。ヒトラー関連本を渉猟するナチスマニアでもある。近代ナショナリズムが既往の歴史や価値観を恣意的に再編していく過程に関心を持つ。ウェブサイト「西洋軍歌蒐集館(http://gunka.sakura.ne.jp/)」を運営中。

世界軍歌全集―歌詞で読むナショナリズムとイデオロギーの時代

ミリタリー音楽大全。

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最終更新:2013/09/10 11:38
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