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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第111回

COWCOW 板の上で鍛え上げられた“スベリ知らず”の「間合いと顔芸」

atarimaetaiso.jpg『COWCOW あたりまえ体操』よしもと
R&C

 多くの吉本芸人がテレビで活躍する現在でも、彼らの主戦場が舞台であることは変わらない。吉本では、どんなに売れっ子の芸人であっても、ほぼ例外なく定期的に劇場に出演しなければいけない。芸人として観客を楽しませる能力は、舞台の上でなければ身につかないからだ。

 そんな吉本の劇場で「スベリ知らず」と噂されている中堅芸人がいる。親しみやすいキャラクターとわかりやすいネタ。自らの衣装をネタにした「どうも、伊勢丹の紙袋です」という鉄板のツカミを持つ男たち。COWCOWは、吉本を代表する実力派漫才師だ。

 COWCOWというコンビの強みは、安定したキャラクターとネタを持ち、どんな客層にも柔軟に対応して笑いをとることができる、ということだ。そして彼らは、漫才の名手でありながら、漫才以外の飛び道具も豊富に備えている。『R-1ぐらんぷり2012』の優勝でも証明された多田健司の一発ギャグの破壊力。『R-1』決勝の常連だった山田與志の物真似とモノボケの職人芸。昔からあるフリップネタを進化させて、フリップに仕掛けた細工を次々に披露するという彼の手法は斬新だった。

 そんな彼らの最新作にして最高傑作と呼ばれているのが「あたりまえ体操」だ。軽快なメロディに乗せて「右足出して左足出すと歩ける」などの当たり前のことが歌われていく。その音楽をバックにして、彼らは黙々と体操風のパントマイムを演じる。一度見たら忘れられない破壊力抜群のネタだ。最近世に出てきた歌ネタの中では、2700のネタに並ぶ強烈な存在感を持っている。

 COWCOWがつかんでいるものは笑いの「間」である。彼らの持ちネタのひとつに、ひじでお互いをつつき合ってじゃれ合い、最後に2人で肩を組んで正面を向いてにっこり微笑む、というものがある。これは、ほとんど言葉も発さないで展開される小ネタでありながら、彼らの代名詞のようになっているものだ。このネタを成立させているのは、間合いそのものにある。ひじをつつきあってポーズを決める、ただそれだけのことを笑いに変えてしまうのは、それが何とも言えない心地よい間合いで繰り出されるからだ。

 さらに言えば、彼らのネタは、一見とっつきやすく素人にも簡単に真似できそうに見えるが、実際にはなかなかできない。それは、彼らが「顔芸」というもうひとつの強力な武器を隠し持っているからだ。歌と動きをベースにしているので気付かれにくいかもしれないが、「あたりまえ体操」が笑いを生む最大のカギは、決めポーズを作るときのコミカルな表情と、それ以外のときの無表情とのギャップにある。「あたりまえ体操」という笑いの総合芸術の土台を支えているのは、顔芸の圧倒的なクオリティなのだ。もちろん、多田の一発ギャグにおいても、顔芸の要素は重要な位置を占めていることは言うまでもない。

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