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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.210

奥西死刑囚は“村社会”を守るための生贄にされた!? 名張毒ぶどう酒事件の闇に迫る再現ドラマ『約束』

yakusoku_003.jpg村を追われた後、アパートで息子の帰宅を待ち続けた母・タツノ(樹木希林)。
獄中の息子に宛てた手紙は969通に及んだ。

 ドラマパートを際立たせているのが、ドキュメンタリーパートだ。齊藤ディレクターが手掛けた過去の作品も含め、東海テレビがこれまで取材してきたニュース素材、ドキュメンタリー素材を要所要所に盛り込み、この事件の闇の部分に斬り込んでいく。事件について証言した村の関係者たちの顔と声はモザイク処理やボイスチェンジャーで加工されることなく映し出されていく。奥西死刑囚が冤罪ならば、村の人たちは偽りの証言をしていることになる。村の人たちは口裏を合わせて、自白した奥西をそのまま犯人にしなくてはならなかった。奥西が犯人でなければ、村の中に別の真犯人がいることになり、小さな集落の“平和”が維持できなくなるからだ。真実を語っているのは誰か? どこまでが真実で、どこからが偽りなのか? 真実から目を背けて、口を閉ざしているのは誰か? カメラは噓も真実も両方を映し出していく。観る側は目を見開いて、見極めなくてはならない。仲代や樹木らプロの俳優だけでなく、彼らもまた村の平和を守るためにカメラの前で必死で演じているのだ。

 ドキュメンタリーパートで白眉と言えるのが、秋山賢三元裁判官のコメント。裁判所はトイレへ行くにも食事を摂るのもエレベーターに乗るのも、すべて厳格に順列が決まっている。そういった習慣が身に付くと、先輩である裁判官が出した判決を覆すようなことはできなくなると。司法の世界では、再審に興味を示す裁判官はエリートコースから外れるのだと。秋山元裁判官は「徳島ラジオ商殺人事件」の再審を認めたことで、出世コースから外れることになった。ラジオ商殺人事件で冤罪に問われた冨士茂子さんは再審の結果無罪を勝ち得たが、それは冨士さんが亡くなってからの名誉回復だった。秋山元裁判官は涙を浮かべながら、自分が25年間を過ごした裁判所の内情を振り返る。

齊藤「秋山さんのコメントは、僕の初めてのドキュメンタリー『重い扉』を撮ったときのものです。カメラの前で自分が属していた体制側に対して異議を唱える発言をすることはかなり勇気がいったはず。カメラを回しながら、僕も体が震えました。コツコツと地道に取材を続けていると、たまにドキュメンタリーの神さまが微笑んでくれるときがあるんです」

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