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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.210

奥西死刑囚は“村社会”を守るための生贄にされた!? 名張毒ぶどう酒事件の闇に迫る再現ドラマ『約束』

yakusoku_004.jpg事件当時、奥西勝(山本太郎)には中学生の長男と小学校入学を控えた長女がいた。
母を失った子どもを心配するあまり、噓の自白をすることに。

 何度も再審請求した奥西死刑囚は、2005年にようやく再審が認められた。だが、再審を認めた名古屋高裁の小出錞一裁判長は1年後に退官。2006年には門野博裁判長によって再審は取り消される。「死刑が予測される重大事件で、噓の自白をするとは考えられない」と自白を重視した門野裁判長は翌年、東京高裁への栄転を果たす。高学歴の人たちが集う裁判所もまた、恐ろしく前近代的な封建社会であることが分かる。裁判所とは真実を明らかにする場所ではなく、あくまでも体制を維持するための頑迷極まりないシステムなのだ。

齊藤「再審を取り消した裁判官たちの顔と名前を出すことに関しては、プロデューサーと何度も話し合いました。批判を受けることは覚悟の上ですが、やはり裁判官は人の運命を左右する責任ある立場にあるんじゃないでしょうか。『テレビのドキュメンタリー番組は中立公正であれ』とよく言われますが、中立公正を守っていると冤罪事件を追うことはできない。名張の事件は東海テレビが開局して間もない頃に起きたこともあり、報道部の先輩記者やカメラマンたちが『奥西死刑囚は冤罪である』という確信のもと、代々バトンを受け継いで取材してきたもの。『約束』はその総決算でもあるんです。ドラマにしたことで幅広い世代からの反響が届きましたが、ドラマといってもすべて分かりやすく描いた内容にはしていません。あまり丁寧に説明しすぎると、観る人たちを受け身にして、考える力を奪ってしまうからです」

 何気ないシーンだが、拘置所の高い壁の前を小学生たちの集団が歩いていく様子が何度か挿入されている。壁の外側にいる子どもたちは齊藤ディレクターが東海テレビに入局する以前の姿であり、また私たち自身の姿でもあるのだろう。子どもたちは知らない。壁の中に無実の罪を背負わされ、今日にも処刑されるかも知れないという恐怖と闘い続けている男がいることを。自分の無実を証明するために懸命に生命の炎を保ち続ける奥西死刑囚は現在87歳となる。

 仲代達矢、樹木希林らの入魂の演技に胸が熱くなるドラマだが、それだけではこのドラマは終われない。奥西死刑囚の無実が証明されたとき、初めてこのドラマは完結する。固く閉ざされた村社会の扉を、このドラマは激しくノックする。
(文=長野辰次)

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『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』
監督・脚本/齊藤潤一 製作/広中幹男、喜多功 音楽/本多俊之 音楽プロデューサー/岡田こずえ 撮影/坂井洋紀 照明/角川雅彦 録音/遠藤淳 美術/高宮祐一 記録/須田麻記子 題字/山本史鳳 音響効果/久保田吉根 編集/奥田繁 助監督/丹羽真哉 監修/門脇康郎 プロデューサー/阿武野勝彦 
ナレーション/寺島しのぶ 出演/仲代達矢、樹木希林、天野鎮雄、山本太郎 製作・配給/東海テレビ 配給協力/東風 2月16日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開 (c)東海テレビ放送
<http://yakusoku-nabari.jp>

※東海テレビ取材班による原作本『名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の半世紀』(岩波書店)が2月15日(金)より発売

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