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週刊アニメ時評 第62回

リア充アニメ『ゴールデンタイム』が突きつける、アイデンティティ問題

goldentime.jpg『ゴールデンタイム』公式サイトより

 現在放送中のアニメの多くがクライマックスに向けて助走を開始した感のある今日この頃ですが、ぶっちぎりで僕の豆腐メンタルを刺激しまくる作品が、『ゴールデンタイム』です。

 本作は、テレビアニメ化され、大きな話題を呼んだライトノベル『とらドラ!』原作者・竹宮ゆゆこの最新作。高校生たちの瑞々しい恋愛模様に注目が集まった前作に対し、今回は大学生たちの、ちょっぴり大人な恋愛模様が描かれます。

 あらすじは以下の通り。高校時代に交通事故に遭い、記憶喪失となってしまった主人公・多田万里は、東京の大学へ進学。そこで出会ったエキセントリックなお嬢様・加賀香子と、やがて恋人同士となります。しかし、万里は高校時代の同級生にして、現在大学で同じサークルに所属している「リンダ先輩」こと林田奈々のことが好きだったという過去があったのです。万里は、「現在」の自分と「過去」の自分の間で揺れることになる……。というもの。この設定だけでも、なんとも切ないラブストーリーが想像できるのですが、僕にとっては別の部分で切なくなってしまうのです。

 というのも、本作の登場人物たちは、そろいもそろってリア充ばかりだからです! 「リア充」とは、「リアル(現実世界)で充実している人たち」を指すネットスラングです。「個人で楽しむ趣味や仕事に没頭していても、それで充実しているならリア充だろ!」という言説もありますが、ここでは広義で捉えられている大学のイベントサークルノリと定義します! 異論は認める!

 例えば、「男女問わず友達が多い」「飲み会や合コンをしょっちゅう開いている」「季節のイベントは、みんなで盛り上がる」「なぜかバーベキューをすぐにやりたがる」「コミュニティ内で男女がくっついたり、離れたり」みたいな、それこそ「絵に描いたような理想の大学生活」を送る大学生のノリとでも言いましょうか。『ゴールデンタイム』で描かれる青春像は、まさにこの通りなのです。

 いわゆるアニメで描かれる青春ドラマというと、学校とその周辺が世界のほとんどと言える中高生の物語であったり、『げんしけん』のようなオタク趣味を持つ大学サークルの物語がこれまで大半を占めていました。で、実際そういった作品は見ていて非常に楽しいというか、閉じた自分の世界の延長線上にある「理想郷」を思わせて心が落ち着くんですよ。なぜなら、僕は腐れオタクだからね! 「ああ、自分もこういうサークルに参加したいなあ」「こういう学校生活を送りたかったなあ」。これらのアニメは、僕のようなだめなオタク野郎の理想を具現化し、現実逃避させてくれる素晴らしい装置だったのです。『とらドラ!』も同じく、「何か心に闇を抱えている女子を、僕の力で救ってあげたい! でも、心に決めた女子以外はあえてフるけどな!」という、精一杯のマチズモを満たしてくれる最高の作品でした。

 しかし、『ゴールデンタイム』はそんな僕らの心の聖域にズカズカと入り込んできて、世の中にはこんなにキラキラと輝く青春を送る若人たちがいるんですよ、男女問わず素晴らしい交友関係を結ぶことができるのですよ、と高らかに歌い上げるのです! うわあああああ! やめてやめてやめてよ! 今まで見ないふりをしていたのに! 気づかないふりをしていたのに! 僕、大学ではボッチだったよ! アニメも本当は一人で見ていたよ! オタクな上にコミュ障だったから、大好きなアニメを誰かと語り合うことすらなかったんだよ!

 Twitter上では僕と同じく、「『ゴールデンタイム』見てると、なんかこう胸に来るものがある」「見てるとつらい」「あんなの、大学生いじめだ……」「メンタルがやられる」といった具合に、『ゴールデンタイム』のあまりのキラキラした青春ドラマぶりにダメージを受けている同志もちらほら。

 しかし、それでも我々は『ゴールデンタイム』を見続けてしまうのです。それはなぜでしょうか? 非リア充だった僕のような視聴者も、本作を見ていくうちに「ああいう青春を送りたかったなあ」「ちゃんとサークルに入ればよかったなあ」「もっとほかの人と交流すべきだったなあ」などと、自分の過去と向き合い始めている自分に気づくことでしょう。
あるいは「こんな青春なんてないよ!」「やっぱりこういう連中はいけすかない!」と拒絶反応を示す人もいるでしょう。中には「今の大学生活は、こんなに充実していない……」と、逆に現在の自分の姿とのギャップに衝撃を受ける現役大学生もいるかもしれません。
その姿こそ、まさに過去の自分と立ち向かうことになる『ゴールデンタイム』のキャラクターそのもの。

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