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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.277

“精神病院24時”ここは生き地獄、それとも楽園? モザイク処理なしの裸の中国人像『収容病棟』

shuyobyoto01.jpg鉄格子で覆われた精神病棟。カメラに向かって笑顔を見せる患者もいるが、ほとんどの患者はカメラがあることを意識せずに立ち振るまう。

 あなたの知らない世界を疑似体験させてくれるもの。映画という媒体をそう定義するならば、ワン・ビン監督のドキュメンタリー映画『収容病棟』ほど映画らしい映画はない。中国南部の雲南省のとある精神病院の鉄格子に覆われた収容病棟の中にカメラは入り、モザイクなしで患者たちの“ありのままの姿”を映し出す。しかも3時間57分にわたって。気力と体力に自信のない人は気をつけたほうがいい。スクリーンから発せられる負のオーラに引き込まれかねない。しかし、そのリスクに挑む価値は充分にある。テレビカメラに向かって反日、抗日を訴える中国人とは異なる、カメラをまったく意識していない“裸の中国人”像を知ることができるからだ。いや、政治や社会から隔離された人間本来の姿と言うべきかもしれない。

 ワン・ビン監督が2013年1月~4月、ほぼ毎日にわたって密着取材した『収容病棟』。モザイク処理はおろか、ナレーションもBGMも流れない。収容されている患者の名前と収容された年月がクレジットされるだけ。収容者数は200人以上で、収容された理由は実に様々。精神異常犯罪者、薬物やアルコール依存者、家庭内暴力を振るうために収容された者、政府のひとりっ子政策に違反したために収容された者もいれば、認知症や鬱病などコミュニケーション障害がある者も一緒。家族や地域社会の手に負えなくなった人々が、ひとまとめに収容されている空間なのだ。経済成長が目覚ましい中国だが、中国当局は2010年に「精神病患者1億人」と発表している。社会の変化についていけなかった人たちである。彼らだけで、別の国がつくれてしまうではないか。そう、『収容病棟』は今まで知ることのなかった、もうひとつの中国を描き出している。

 消灯後、病室で眠りに就こうとしていた男性患者は便所に行くのが面倒くさいのか、床に向かって放尿する。一応、床には洗面器が置いてあるものの、薄汚れた病室に湿った臭気が立ち込める。他の患者たちはもう慣れっこで、平気な顔で眠っている。収容されて間もない若者は元気を持て余している。上半身裸になって廊下をぐるぐると走り回る。それでも興奮が収まらず、他の患者のベッドを蹴り壊してしまう。医者から注射を打たれて、ようやくおとなしくなった。食事シーンも強烈だ。みんなで中庭に出て、雑炊みたいなものを一斉にかき込む。食べ物に執着する患者は、残飯を捨てたバケツにまで箸を伸ばし、「ゴミまで食べるな」と注意される。患者たちは、みんな口をそろえて願う。「早く家に帰りたい」と。裸で走り回っていた青年は「収容されてから、おかしくなった」と訴えている。ここはこの世の生き地獄なのか? いつしか自分も、彼らと一緒に収容病棟で暮らしているかのような恐怖心を抱いてしまう。

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