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構成作家・相沢直の“スナオなドラマ考”

ひろしが大人にならないことで、何を伝えているのか?『ど根性ガエル』第7話

dokonjogaeru0824.jpg『ど根性ガエル』日本テレビ

今クールのドラマの中から、注目の作品を1本ピックアップし、毎週追っていく新コーナー。

『ど根性ガエル』の第7話は、8月29日に放送された。学生にとっては夏休み最後の土曜日だ。子どもは自分が子どもであることを、大人は自分が大人であることを、それぞれ意識する季節でもある。そしてこの日の『ど根性ガエル』はおそらくこの時期に合わせて、大人になるとはどういうことかを描いている。

 この連載で何度も書いてきたように、ひろし(松山ケンイチ)はいわば子どもの象徴である。変化を望まず、むしろいま身の回りにある幸せを享受する。そしてそんなひろしとは対照的な人物が、かつてのガキ大将、ゴリライモ(新井浩文)だ。ゴリライモはパン工場の社長として社員を養い、町の幸せを願って議員になろうとしている。何から何までひろしとは正反対の、大人として描かれる。

 だが、『ど根性ガエル』はすべての登場人物を、単純にカテゴライズして便利に描いたりはしない。わかりやすい大人なんてこの世界にはいないのと同じように、『ど根性ガエル』の登場人物もまた、それぞれに生きている。たとえばゴリライモは、当選を目指して人気を集めようと、町の人気者であるピョン吉(声:満島ひかり)から応援されているという手を打つ。だが、そこでゴリライモは、自分のやっていることがずるいのではないかと疑念を持つ。この細かい心理描写は、『ど根性ガエル』ならではだといえるだろう。

 悩んでいるゴリライモに対して、ヒロインである京子ちゃん(前田敦子)のおばあちゃん(白石加代子)は、こう声をかける。これは『ど根性ガエル』が示す、ひとつの大人のあり方だ。

「大事なのは、今のその気持ちを忘れないこと。ずるいなっていう気持ちを忘れないこと。そしてずるいことしただけ頑張るの。必ず取り返す。それが、大人」

 一方のひろしはどうか。ピョン吉の寿命が残り少ないことを教えられたひろしは、新聞で蛙神社という神社の存在を知る。そこでは蛙が祀られており、お参りをすると寿命が伸びるというご利益があるという。金のないひろしは福引きで旅行のチケットを当てようと奔走。結局、京子ちゃんが福引きを当てる形で、一行は蛙神社へと出かけるのだった。

 そこでひろしとピョン吉は、蛙の神様に出会う。ピョン吉は蛙の世界では英雄扱いされており、池の底にある蛙の国へ呼ばれる。そしてひろしは、ピョン吉だけを蛙の国へ遊びに行かせて、たっしゃでくらせよ、とメッセージを残して去ってしまう。

 この場面の解釈は、人によって分かれるところだろう。というのは、『ど根性ガエル』は基本的にひろしの心情を説明することをあえてしないからだ。別れの際、ひろしが果たしてどんな思いだったか、どれほど別れがつらいかを、過度に語ることをしない。なぜなら、それを描いてしまえば、ひろしはひとつの困難を乗り越えて成長してしまうからだ。ひろしを成長させない。ひろしは大人にならない。これが『ど根性ガエル』の、ひとつのルールになっている。

 結果として、ひろしはほかの仲間たちから責められる。そして視聴者もまた、心の中でひろしを責める。主人公であるひろしよりも、むしろ置いていかれたピョン吉のほうに感情移入する。そしてピョン吉が蛙や人間の手助けを借りていつもの町に帰ってきてひろしを殴りつけるとき、つまりいつもの日常が戻ってきたとき、喝采を送るのだった。

 ではそもそも『ど根性ガエル』は、なぜひろしを成長させないのか。その答えは、ひろし自身がピョン吉に伝えた次のセリフの中にある。

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