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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.368

3.11に対するピンク映画からの回答。声を失った男の悲痛な叫び『夢の女』『バット・オンリー・ラヴ』

butonlylove01佐野和宏の18年ぶりとなる監督&主演作『バット・オンリー・ラヴ』。声帯を失った佐野の声にならない叫びがスクリーンから聞こえてくる。

 ひとりの男が失った時間を取り戻すロードムービー『夢の女』を語る上で外すことができないのは、佐野が主演だけでなく、脚本&監督も兼任した新作『バット・オンリー・ラヴ』。佐野の復帰作として『夢の女』の製作準備を坂本監督と脚本家の中野太が進めていた間、佐野は待ち切れずに自分で脚本を書き上げてしまった。それが『バット・オンリー・ラヴ』だ。同時期に佐野を中心に発生したエネルギー体から、2本のピンク映画が飛び出したことになる。佐野監督作『バット・オンリー・ラヴ』を先に撮影することになり、佐野が筆談でしかコミュニケーションができないため、坂本監督が『バット・オンリー・ラヴ』のチーフ助監督を引き受けた。『夢の女』が社会の片隅で生きる人々の営みを描いたように、『バット・オンリー・ラヴ』もまた極少人数で、しかもスタッフとキャストがそれぞれ自発的に動きながら撮っていくというピンク映画ならではの特徴が強く反映された作品となっている。

 18年ぶりとなる佐野監督作『バット・オンリー・ラヴ』は喉頭ガンで声を失った男が長年連れ添ってきた妻や家族との関係を見つめ直し、スワッピング旅行に妻を連れていく物語だ。佐野自身が脚本を書き、監督した『バット・オンリー・ラヴ』には主人公を演じた佐野の迫力に圧倒されるシーンがある。妻との間に生まれた娘が、実は自分とは血が繋がっていないことを男は知る。ずっと一緒に暮らし、今でもセックスする間柄の妻のことが男は急に信じられなくなってしまう。暗闇の中に取り残された男は、ベッドで背中を向けて眠っている妻に向かって、精一杯の声で叫ぶ。手術で声帯を失っている男の口からは、声にならない言葉が次々と溢れ出していく。妻、そして世間に向かって、男は怒り、疑念、恨みつらみのあらん限りを吐き出す。すべてを吐き終えた男の口元からは、やがて最後の最後にすれっからしの愛が這いずり出てくる。
(文=長野辰次)


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『夢の女 ユメノヒト』
監督/坂本礼 脚本/中野太 出演/佐野和宏、伊藤清美、和田華子、西山真来、小林節彦、川瀬陽太、吉岡睦雄、櫻井拓也、伊藤猛 
配給/インターフィルム R15 4月9日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
(c)V☆パラダイス、インターフィルム、KOKUEI


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『バット・オンリー・ラヴ』
監督・脚本・主演/佐野和宏 出演/円城ひとみ、酒井あずさ、蜷川みほ、芹澤りな、柄本佑、緒方明、川瀬陽太、工藤翔子、吉岡睦雄、飯島洋一 
配給/東風 4月2日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開 
(c)「But only love…」製作運動体
※ 4月2日(土)より特集上映「佐野の声を聴け!」を新宿K’s cinemaにて開催。佐野の監督デビュー作『ミミズのうた』(82)、佐野の代表作『Don’t let it bring you down』(93、公開タイトル『変態テレフォンONANIE』)、『海鳴り 或るいは波の数だけ抱きしめていられるか、アホンダラ』(91、公開タイトル『集団痴漢 人妻覗き』)の3作品が日替わりで上映される。

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