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私が「エイジアン・ビッチ!」と呼ばれた理由~増えるアジア系への差別 in アメリカ

 年配の白人男性が乗客のアジア系男性に「チャイニーズ・ニガー」「チャイニーズ・ファック」「殴るぞ」など差別用語と脅迫を投げつけ、実際に二度、殴っている。当初は黙って耐えていたアジア系の男性もやがて立ち上がり、応戦の構えを見せた。その時点で周囲の乗客が「止めておけ」と声を掛け、黒人女性が二人の間に立ち、アジア系の男性をなだめている。後の警察の発表によると3人の乗客が通報の電話をかけているが、警官が駆けつけた時には白人男性は下車し、すでに立ち去っていた――。11月13日にカリフォルニア州サンフランシスコの電車の中で撮影されたビデオの内容だ。

 このビデオは乗客の中国系アメリカ人男性(被害者の男性とは無関係)によって撮影され、フェイスブック(※)に投稿された。そこから複数のメディアにも転載されて話題となった。

※フェイスブック社は「人種、民族、出身国、信仰、性的指向、ジェンダー、障害によって人が攻撃されている」ことを理由に、投稿から数日後にビデオを削除している。

アジア系差別元年?
 今年はアジア系アメリカ人が人種差別行為の対象となったビデオがいくつか話題となった。

 7月に起こったエアビーアンドビーの件を覚えているだろうか。予約客の韓国系アメリカ人の女性が、現地到着寸前にオーナーから宿泊をキャンセルされた件だ。オーナーはキャンセルの理由を「単にアジア人だから」とテキストメッセージした。女性客が抗議すると、「これが私たちがトランプを大統領としている理由よ」と返信している。女性客が泣きながら事態を訴えたビデオは広く拡散された。

 4月にはユナイテッド航空の機内でヴェトナム系アメリカ人の医師が、空港警察官によって顔から血を流しながら通路を引きずられるショッキングなビデオが、やはり拡散されている。ユナイテッド側の都合によって搭乗を取り消されたものの、機から降りることを拒んだために力づくで座席から排除された結果だった。

 どのビデオも正視に耐えないが、なぜ、ここにきてアメリカで対アジア系への差別が頻出するようになったのだろうか。

 黒人、ムスリム、LGBTQ、女性など他のマイノリティへの差別行為と同じく、携帯カメラとSNSの普及によって映像が拡散されやすくなったことは理由のひとつだろう。しかし、アメリカに長年暮らしている筆者はもっと本質的な理由があると考えている。アジア系の「プレゼンス(存在感)」の増幅だ。

 アジア系の全米人口比は5%程度だが(※)、地域によって大きな差がある。冒頭で紹介した、列車での事件が起きたサンフランシスコ・ベイエリア地区では23%、筆者が住むニューヨーク市でも13%を占めている。また現在、アメリカでの人種別の人口増加率はアジア系が最も高い。つまり、アメリカでは「アジア系がどんどん増えている」のである。

※アメリカ国勢調査の「アジア系」には日中韓の東アジア、フィリピンなど東南アジア、インドなど南アジアが含まれる

「エイジアン・ビッチ」は黒人が嫌い?
 筆者はニューヨーク・マンハッタンの黒人地区ハーレムに長年暮らしているが、これまで攻撃的なアジア人差別を受けた記憶はない。「あなたチャイニーズでしょ。え? ジャパニーズなの? ま、どっちでも同じよね」といった無知に基づく対応をされることは今もあるが、攻撃と無知、2つの異なる差別が被差別側に与えるダメージは質が全く異なる。

 ところが先週、筆者はある黒人の年配女性から「エイジアン・ビッチ!」と呼ばれた。

 ハーレムのドーナツ屋でコーヒーを飲んでいた。狭い店内ゆえ、同じくひとり客のアジア系の若い女性と相席していた。その女性はベーグルを食べ終わるとそそくさと店を出た。その後、背後のテーブルにいた若い黒人男性が筆者に「コーヒー代を恵んで」と声を掛けてきた。振り返ると男性はすでに紙のコーヒーカップを手にしていたため、断った。

 すると店内にいた、やはりホームレスらしき年配の黒人女性が「エイジアン・ビッチ!」と声を上げた。

 ことさらに反応すべきではないと思い、聞き流したところ、女性は物乞いの男性に向かって「黒人女性に頼みな! エイジアン・ビッチ、ジャーマン・ビッチ、コリアン・ビッチ! 黒人が嫌いなのよ!」と言い捨て、店を出て行った。

 ハーレムの黒人たちは他人種の流入におしなべて鷹揚だが、近年の再開発による白人の大量流入にいらだっていることは確かだ。過去100年間にわたって自分たちの住処であった場所が乗っ取られ、追い出されてしまうのではないかという恐怖からだ。ゆえに白人へのあてこすりのセリフを吐く人は稀に見掛ける。再開発によって白人だけでなくアジア系も少数ながら移り住むようになっているが、白人に比べると存在感が薄く、これまでは「いらだち」「恐怖」の対象にならなかったのだ。

 それでも徐々に増えるアジア人に、ハーレムの人々も気付き始めた。この日、ホームレスの女性は筆者と、相席した若い女性の二人を同時に見てしまった。数の脅威である。普通に暮らせていれば、それくらいは気にならないのかもしれない。しかし女性は貧しく、ホームレスだった。「白人に続いてなぜ移民のアジア人まで自分たちの街にやって来て、アメリカ人である自分よりマシな生活をしているのか」……女性はそう思い、いらだったのではないか。

高学歴・高所得なアジア系
 ニューヨーク市には公立高校が約400校ある。入学申請方法は日本と異なり、中学の成績、希望校への見学参加などに基づくコンピュータ・マッチングである。ただし最優秀8校は入試がある。その8校のうち6校でアジア系の生徒が最大多数派を占めている。中には全校生徒の8割近くがアジア系の学校もある。先に書いたとおり、NY市におけるアジア系の人口は13%であり、アジア系高校生の優秀さを物語っていると言える。

 この現象には理由がある。アジア諸国からは子供に教育を与えることを目的に移住する家族が多く存在する。以前、ある雑誌の記事のためにインタビューしたヴェトナム生まれの若い男性がそう語った。両親は祖国で築き上げたすべてを犠牲にし、まだ幼い子供たちを連れてアメリカに移民としてやってきた。懸命に働きながら、子供には猛烈に勉強をさせた。その男性は「子供時代をほぼ無くした」と言うほどに勉強し、その成果として優れた大学を卒業し、大学院に進む直前だった。

 この青年の一家は特殊ではなく、教育を重要視する文化がアジア系コミュニティにはある。経済目的で移住した家庭であっても教育熱心さは同じであり、子供たちは「勉強するのが当たり前」の環境で育つ。

  最初に挙げたベイエリアの電車での被害者男性のプロフィールは不明だが、エアビーアンドビーの女性客は韓国生まれのアメリカ育ちだ。UCLAのロースクールを卒業し、官選弁護人を務めている。ユナイテッド航空の医師もヴェトナム生まれの移民だ。彼ら高学歴移民がアメリカで産む二世の子供たちも勉強をする(しなければならない)環境で育ち、やはり高学歴となっていく。その結果、医師、弁護士、IT関連など、学歴必須の職業にアジア系が増えている。現在、アジア系の世帯所得の中央値は81,000ドルと、白人の65,000ドルを大幅に上回っている。

 この事実をハーレムのホームレス女性だけでなく、多くのアメリカ人が意識的もしくは無意識に知り始めている。

 筆者にはそれを証明するエピソードがある。数年前のことだが、ある事情でブロンクスの家庭裁判所に出掛けた。入り口は一般用と、職員および弁護士用に別れており、一般の列に並んだ。金属探知機を通る際、一般用の入り口であるにもかかわらず、係員に「弁護士か?」と聞かれた。ブロンクスという場所柄、列に並んでいるのはほとんどがヒスパニックと黒人であり、その中でほぼ唯一のアジア人だったためだ。のちに別件でブルックリンの裁判所を訪れた際も、やはり「弁護士ですか?」と声を掛けられた。この時は問題を抱えたティーンエイジャーの母親から、なんと更生のアドヴァイスを求められたのだった。

 一般的にアメリカのアジア系は社会に対する自己主張や政治的な主張をあまりおこなわない。こうした特性もあり、かつてはアジア系の実態が知られず、アジア系への差別は「移民」「英語が話せない」「つり目」といった単純な見下しが理由だった。

 だが、ここにきてアジア系の実態が徐々に知れ渡り、「優秀」というステレオタイプが生まれた。それが時には「目障り」で「いらだち」を生じさせ、かつ「嫉妬」の対象にもなり、他の人種からの差別行動を引き起こし始めているのだ。そういう意味で2017年は、アジア系への新たな差別元年となってしまったのかもしれない。
(堂本かおる)

最終更新:2017/11/24 07:15
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