日刊サイゾー トップ > その他 > ウーマン・ウェジー  > 山東昭子「4人以上産んだ女性を表彰」の発想は戦前にもあった
【wezzy】

山東昭子「4人以上産んだ女性を表彰」の発想は戦前にもあった。誰も国のために子どもを産んでいるわけではない。

 自民党の山東昭子議員が21日、党役員連絡会で「子どもを4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」と発言したことを朝日新聞が報じた(自民の山東氏「4人以上産んだ女性、厚労省で表彰を」)。

 山東議員は朝日新聞の取材に対して「女性活躍社会で仕事をしている人が評価されるようになって、逆に主婦が評価されていないという声もあるので、どうだろうかと発言した」と答えている。

 「子どもを4人以上産んだ女性を表彰」というアイディアを聞いて真っ先に思い浮かぶのは、戦前・戦中の「産めよ殖やせよ」スローガンだろう。妊娠出産した女性に対して、社会的、経済的な支援を拡充するのではなく、表彰という形で「名誉」を与える発想は、まるで国民が国のために妊娠・出産しているかのようだ。

 「産めよ殖やせよ」は広く知られているスローガンだが、最初は、より直接的に国への奉仕を意味する言葉がつけられていた。

 1939年9月に政府が発表した「結婚十訓」にはこう書かれている。

1.一生の伴侶として信頼出来る人を選ぶこと
2.心身ともに健康な人を選ぶこと
3.お互いに健康証明書を交換すること
4.悪い遺伝のない人を選ぶこと
5.近親結婚はなるべく避けること
6.できるだけ早く結婚すること
7.迷信や因習にはとらわれないこと
8.父母、目上の人の意見を尊重すること
9.式は質素にし、届け出は当日に
10.産めよ殖やせよ国のため

 「結婚十訓」では、明確に「国のため」という言葉が付いていたのだ。その他の項目も「心身ともに健康な人」「健康証明書の交換」「悪い遺伝のない人」など、恐ろしい言葉が並んでいる。「結婚十訓」が優生学的な思想にもとづいて作られていたことがよくわかる。

 1941年1月22日には「産めよ殖やせよ」のスローガンのもとで、「人口政策確立要綱」が閣議決定される。「人口政策確立要綱」にはとんでもない記述がいくつもある。

「今後10年間に婚姻年齢を現在に比べて3年早めると共に、夫婦の平均出産数を5児に達することを目標にする」
「公営の機関などで積極的に結婚の紹介、斡旋、指導をする」
「健全なる母性の育成に努める」
「女性の就業を制限する」
「扶養家族の多い人間の負担を減らし、独身者の負担を重くする」
「避妊、堕胎を禁止する」

 これらのいくつかを、私たちは最近また耳にしている。

 例えば、斉藤正美氏に寄稿いただいたように、現在政府は「婚活」を国家プロジェクトとして推進し、莫大な税金を投入している(国家プロジェクトと化した「婚活」 莫大な税金投入は誰のため?)。まさに「公営の機関などで積極的に結婚の紹介、斡旋、指導をする」だ。

 また今年8月には、石川県かほく市の「かほく市ママ課プロジェクト」と財務省の予算担当者の意見交換会で、独身者に税負担をかける「独身税」というアイディアが出ていたことが報道された(その後、「誤報」など情報が錯綜したが、かほく市がHP上で報道された主旨の発言があったことを認め、独身税を提案する考えはないと発表している)。これは「独身者の負担を重くする」という発想そのままだろう。

 かほく市はあくまで地方自治体のひとつに過ぎない。しかし、政府は今月、子どもがいない、年収が800~900万円を上回る世帯への増税を検討していることがわかっている(子どもなし世帯、年収800万円超で増税案 政府検討)。独身税ならぬ「子なし税」を検討しているということだ。

 さらに先程紹介した「結婚十訓」の1カ月前、1939年8月に発表された「優良多子家庭表彰要綱」は、「優良多子家庭表彰要綱」は「両親が同じ、6歳以上の子どもを10人育てること」「6歳になるまで、天災などの理由以外で、子どもを亡くさないこと」「子どもは心身ともに健康であること」などの条件を満たした親を表彰状と記念品を贈るとされている。まさに、山東議員が発言した「子どもを4人以上産んだ女性を表彰」に瓜二つではないだろうか。

 現政権が、これらを「戦争のため」の準備として行っているかどうかはわからない。少子化対策のために強権的な振る舞いをしているだけなのかもしれない。いずれにせよ問題なのは、これらが戦前・戦中に行われていた「国のため」の政策と同じ発想のもとに行われている点にある。妊娠・出産は国のために行うものではない。それぞれが、個々の判断のもとで選択すべきものであるはずだ。政府がすべきは、妊娠・出産を希望する人びとが、より産みやすく、育てやすくなるよう社会制度を整えることにある。もちろん、妊娠・出産しない/しなかった人たちの生き方を否定しない形で、だ。

 山東議員の発言は恐ろしいだけでなく、たちも悪い。女性の間で、余計な対立構造を作ろうとしているように見える。

 山東議員には「仕事をしている人=妊娠出産育児をしていない」「主婦=妊娠出産育児をしている人」という考えがあるようだが、これは全くの間違いだ。就労しながら妊娠出産育児をしている女性もいるし、妊娠出産育児せずに主婦として家事労働を行っている女性もいる。主婦の評価をあげたいのであれば、妊娠・出産を奨励するのではなく、軽んじられることの多い家事労働を真っ当に評価するように働きかけるべきではないか。

「女性活躍社会で仕事をしている人が評価されるようになって、逆に主婦が評価されていないという声もある」という山東議員の発言は、そんな当然のことにも気づかず、安易に「働く女性VS主婦」という対立を煽る。こうした対立は、ときに女性同士で足を引っ張り合うことになるだろう。働きやすさが改善され、女性が就労できるようになることと、主婦の存在を否定することはイコールではない。同時に実現可能なものだ。

山東議員の発言はすでに各所から猛烈な批判が上がっているが、特に弁明などは発表されていない。政府は着々と「国のため」の少子化対策の準備を進めている。
(wezzy編集部)

最終更新:2017/11/23 07:15
ページ上部へ戻る
トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

『24時間テレビ』強行放送の日テレに反省の色ナシ

「愛は地球を救う」のキャッチフレーズで197...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真