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元公安が語る『奥様は、取り扱い注意』――綾瀬はるかの「元特殊工作員の主婦」は結構リアル!?

 主演ドラマ『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)の演技が好評を博している女優・綾瀬はるか。彼女が演じる元特殊工作員・菜美の手法は、リアル工作員の目にどう映るのか。

 元・警視庁公安部に勤務、引退後は警察と裏社会について多数の著書を執筆し、最近『迷宮探訪 時効なき未解決事件のプロファイリング』(双葉社)を上梓した北芝健氏にその解説をお願いした。

■公安の人は『奥様は、取り扱い注意』を大体見ている

――北芝さんは、『奥様は、取り扱い注意』を見ているそうですね。

北芝健氏(以下、北芝) はい、見てます。結構リアルでいいですよね。公安の人は大体見ているんじゃないでしょうか。現役の捜査官も、暇さえあれば見ていると聞いてます。

――現役の方もですか?

北芝 話している私自身が信じられないほど、関係者の視聴率は高いです。綾瀬さんの別のドラマ『精霊の守り人』(NHK)も同時に見ているようですが、こちらは槍を使っている。『奥様は、取り扱い注意』では、素手で戦っているので、より親近感が湧くんでしょうね。実際、良いアクションだと好評です。

――日本には実際に、特殊工作員のような組織に属する女性はいるのですか?

北芝 綾瀬さん演じる菜美のような戦闘をする、“エージェントの公務員”だと、内閣情報調査室や公安調査庁、警察の公安部外事課の女性がそれに当たります。内閣情報調査室は、生え抜きではなく、防衛省や警視庁などからの出向組の組織。菜美は“某国の特殊工作員”という設定ですが、警護もしていますし、逮捕術のようなものも駆使していますから、逮捕権があって、日常的に実践を積める公安外事警察に所属していたようにも見えました。あそこは気性の激しさがないと訓練段階で脱落してしまうので、とてもハイレベルなことをやっているんですよ。

――ちなみに菜美は、親に捨てられて養護施設育ちという設定でもあります。

北芝 菜美の境遇はまさに理想的です。親がいないか捨てられた人間は戻る家がないので、後腐れなく危険な任務に就かせられます。女も男もない、現場では、まさに戦闘員なのです。

――子どもの頃の養護施設のシーンで、菜美が飛んできたボールを素手で受け止めているシーンがあるのですが、身体的に恵まれているからこそエージェントになれたのでしょうか。

北芝 一見、無茶な設定と思われるかもしれないですが、あれはできないことではないんです。全身が繊細な人だと、後ろで風が動いただけで反応できる人もいます。ですが、幼少期からそれだけ体を鍛えると、成長が止まって背が低くなってしまうんです。だから菜美のようにスラッとした体形にはならないでしょうね。

■最前線にいる特殊工作員は普通の生活を送れるのか?

――菜美は特殊工作員から足を洗って主婦になりました。実際に、菜美のような戦闘員として活動している女性が、引退後に普通の主婦として暮らすことはできるのでしょうか?

北芝 本当の最前線にいる特殊工作員は、普通の暮らしは絶対ダメですね。主婦をしていると命を狙われます。相手は、主婦仲間といるときでもお構いなしでしょうから、巻き添えも出るでしょう。拉致されて情報を引き出そうとしてきます。

 実際に暮らすならば、イスラエルぐらいの住宅の防備と、防弾と爆弾を想定した底の厚い車で移動する。また、常に命を守る防刃防弾のベストを着て、日常生活を送らないとダメです。菜美ぐらいの格闘技の技術があれば襲われても生き残れますけど、遠くから体の自由を奪う吹き矢とかで撃たれたら、アウトですから。

――まさに「最前線で活動している」というわけではない女性工作員の場合はどうでしょうか? 北芝さんの周りにはいますか?

北芝 現実にも女性工作員はいっぱいますし、結婚して主婦をしている女性も大勢いますよ。時折、関係者で集まることがありますけど、普通の乗用車で来ていますね。

――そこまで私生活を縛られているわけではないのですね。

北芝 工作員をやっているときは、対象者や敵対組織に把握されないように、メガネをかけたりして変装をするなど、彼女たちは自分で防衛する技術がありますから。

――引退後の女性工作員から「昔の癖がつい出ちゃった」といった話を聞いたことはありますか?

北芝 癖が出たというのは聞かないですが、「エレベーターに乗ったら、抱きついてきた男がいたから、そのままの状態で、片目に指を突っ込んでやった」と話している女性はいましたね。普通の女性なら、恐怖心で体が固まってしまうでしょうが、彼女たちは慣れたもので、咄嗟の時に動じずに反撃できるんです。

 ちなみに、右翼担当の公安第二課の女性職員は、暴力団が相手であろうが全然怖がらないです。街宣車に乗っているのは99%暴力団員なんですが、「彼らが降りてきて殴り合いになっても、私は絶対負けません」と言い切るぐらいに強気ですね。

――菜美は、IT企業の経営者・勇輝(西島秀俊)と結婚しました。後に勇輝も「実は工作員ではないか?」といった疑惑が浮上するのですが、現実の女性工作員は、どういった相手を伴侶にしているのでしょうか?

北芝 IT企業の男性との結婚はほとんどいないですね。そもそも、IT系の頭脳派、飲食店経営やアパレルなど手広く手がける実業家に見初められても、飽き足らない女性が多いです。「街でヤンキーが絡んできたら一撃で倒してくれる旦那じゃなきゃ嫌だ」なんて言ってます(笑)。

――そうなると、相手は同僚ではないと、なかなか難しい気がします。

北芝 なので、職場結婚です。公安外事で捜査員やっている女性はほぼ100%職場結婚。普通の社会の男たちは面白くないらしいです。刺激的じゃないと。危険と隣り合わせの商売をやっている方が、自分の旦那としてはいいそうです。

 そう考えると、菜美があの旦那さんに惹かれたのは、最高の流れですよね。昔あったブラッド・ピッドとアンジェリーナ・ジョリーの『Mr.&Mrs. スミス』(2005年)を思い出します。

■電車内での尾行シーンにダメ出し!

――ドラマ内には、菜美が勇輝を尾行するシーンがあります。近しい人を尾行するのはかなりの困難だと思うのですが……。

北芝 難しいですね。振り向かれて、そこで目撃されるだけでアウトですから。ですが訓練していれば別です。1人ではかなり難しいのですが、2人であれば無線で連携することで、どんな相手でも追跡できます。

菜美の尾行時の服装は、目立たない色でしたし、結構いいと思います。実際は、帽子なども被るほか、体形を誤魔化すのに、肩パッドを入れたシャツを着たりします。人間は初めに上半身に目がいきますから、顔がはっきり見えなくて体形が違えばバレないです。服は全てリバーシブルにして、曲がり角でさっと着替えます。

――対象者に振り向かれるといったシーンもありましたが、北芝さんならどう対応しますか?

北芝 昔ならタバコを取り出して火をつける、靴紐を結ぶというのが定番でした。実際にモノを落として拾うといった手もありますね。多少変に思われても、しゃがんでいるので顔は見えませんし、実際に拾っているわけですから、相手も「尾行されていると思ったのは気のせいかな」となります。最近は道具がすごいので、数百メートル先からカメラではっきり撮れます。そういった道具を揃えることができるなら、もう相手は尾行に気づけないですね。

――逆に、もし尾行されていることに気がついたら、どうやって撒くのでしょうか?

北芝 電車のホームを使いますね。電車に乗って、ドアが閉まる直前に降りるんです。コンマ数秒だと相手は反応できないので撒くことができます。それでもついてくる相手はバスですね。バスは視界が狭く、身動きが取れない、そこで電車のように突然降りる。すると何がなんでも追尾したい相手は、バスを無理やり止めて降りて来ることがあるんです。そうなればバレバレですね。

――ドラマ内では、菜美が勇輝を電車内でも尾行していました。

北芝 ドラマのように、電車内でちらちら様子を窺うような尾行はしませんね。同じ車両内で視界に常に対象が見える位置を取ります。

■公安時代、グリコ・森永事件を振り返る

――「勇輝は公安の人間で、菜美を調べるために、潜入捜査をしているのではないか?」という説も、ドラマ初回から流れていました。公安ではこうした仕事もするのでしょうか。

北芝 公安外事にいたときに、同僚の女性とカップルを装ってパーティーに潜入したりはしました。人前ではイチャイチャして、人目がなくなったらパッと離れています。仕事を忘れてしまいそうになることもありました、ほんの一瞬ですがね。

 夫婦を装って、ターゲットの近所に引っ越すといったこともありました。グリコ・森永事件のときです。公安外事警察と刑事警察が別々に捜査していたのですが、公安は予算があったので、犯人と思われる家族のマンションの隣に引っ越して調べていたんです。犯人が子どもの声で脅迫電話をかけてきたじゃないですか? だから子どものいる人間がホシだろうと睨んだわけです。日本では昔からやっていますよ。

北芝健(きたしば・けん)
早稲田大学卒業後、商社に勤務するも一念発起して警視庁入庁し、交番勤務の後、私服刑事となる。一方で鑑識技能検定にもパスし、警視庁の語学課程で優等賞をもらい、公安警察に転属したが、巡査部長昇任試験を拒否し、巡査のまま退職。ロス市警の捜査に協力したことから、アジア特別捜査隊と懇意になり、犯罪捜査をネイティブの英語で伝える語学力を身につける。現在は現場捜査の経験を活かし、複数の学校の講師として犯罪学を教える。プロファイリングの第一人者としてテレビのコメンテーターとしても活躍。

『迷宮探訪 時効なき未解決事件のプロファイリング』(北芝健 著、双葉社)
科学捜査の発達した現代でも尚、絶えず起こる未解決事件。その現場を訪れて、はじめて解き明かされる事件の深層、そして真犯人―。迷宮事件の霧をすべて晴らす「北芝プロファイリング」完全版事件現場の現在。

最終更新:2017/12/07 21:26
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