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創設400年の吉原とはいったい!? 風俗研究家が日本の性を語り尽くす対談集『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』

『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』(辰巳出版)

 2018年、吉原が江戸幕府公認の遊郭として営業が始まり、ちょうど400年の節目にあたる。吉原という地名こそなくなってしまったが、浅草の奥に位置する台東区千束3、4丁目あたりに、今もなお、ちょいと特殊なお風呂屋さんが集まる歓楽街として、人を惹きつけてやまない。

『吉原と日本人のセックス四〇〇年史』(辰巳出版)は、風俗研究家として長く活躍する下川耿史氏と、新たな視点で江戸時代を取り上げ注目されている作家・永井義男氏による対談集だ。

 その対談内でのもっとも大きなテーマが、「吉原」とはいったい何なのか?

 吉原といえば、美しく、教養もある遊女と過ごせる豪華絢爛な世界。多くの浮世絵師が遊女たちを描き、男と女のすったもんだなどが歌舞伎の演目にもたびたび登場し、江戸の文化を彩っているイメージがある。しかし、下川氏も永井氏も、あの独特の豪華絢爛な世界観は、後世に“作られて”いる部分があるのではないか? と語る。

 江戸幕府が開かれたのは、1603年。吉原が創設されたのが1618年。当時は、いくら将軍様のお膝元とはいえども、雑木林や野原だった場所に、新たな街をつくろうとする発展途上。大坂や京都に比べれば、伝統も文化もまったくない。そんな中にあって、誕生した吉原の絢爛豪華な世界。あれはどこまでが本当なのか、歴史的背景や資料を元にじっくり考察し、お互いの意見をぶつけあっている。

 本書は、この吉原話を軸に話が展開していくのだが、それ以前の性風俗についてもかなりディープに語られており、実はこっちの話の方が濃厚だったりする。

 まず、冒頭で下川氏が切り出しているテーマは、「売春」の定義。売春とはなんぞや? なぜイメージがマイナスなのか? そもそも、日本という国家ができた頃には、古くは『万葉集』『古事記』などにも登場する行事で、若い男女が集まって一緒に飲食をして、歌を交わしながら、気の合った相手と性的な関係を結ぶ“歌垣”があった。山深い所など、旅人が人家に泊めてもらったとき、その家の娘が旅人の寝床にきて、枕を共にして、客人をもてなす慣習もあり、ひょっとしたらお金をもらうこともあったかもしれない。その行為に対して、職業という意識はあったのか。

 また、全然別の話で驚いたのは、盆踊りについて。盆踊りといえば、今では、割と高齢者が平和に踊っているイメージがあるが、下川氏のやや過激な言葉を借りるならば、江戸時代以前は「乱交を伴うレジャー」だったという。踊って、相手を見つけ、闇へと消えて行く。恥さらしな風習だということで、明治3(1870)年には群馬で「盆踊り禁止令」まで出ているそうだ。なお、同じ頃には、混浴禁止令が80回以上も!出ていたそうだが、今も混浴は続いていることから、日本人の不思議なまでの性へのあけっぴろな姿が垣間見える。

 また、昔話としてよく聞く夜這いについても、本書でしっかり語られており、特に面白かったのが、赤飯話。かつての農村社会では、「うちの娘は一人前になりましたよ」と近所に赤飯を配った。それは、永井氏は「露骨に言えば、もう夜這いに来てもいいですよと、村の若い衆に宣言しているようなもの」と力説。それに対し、下川氏が「柳田國男の影響を受けている人からすれば、娘がここまで健康に過ごしたことのお祝いとして赤飯を炊くというのが、しょっちゅう書いてあります」というと、「でもそれはメルヘンですよ。柳田國男の民俗学は半分メルヘンですから」と一蹴。思わず笑ってしまった。

 二人とも、この道の第一線で長年活躍される研究者のため、これでもか! というほど風俗に関するディープな話がわんさか出てくる。かなり個性的な見解もあり、これはどうかな~? と思う時もあるが、お堅い歴史のお話では出てこない、盆踊りや赤飯的なそういうことか、というエピソードも数多く語られ、ともかく読み応えのある1冊に間違いない。
(文=上浦未来)

●下川耿史(しもかわ・こうし)
1942年生まれ。新聞社勤務後、作家として性風俗研究についての著作を多く執筆している。近著に『エロい昔ばなし研究』(ベスト新書)、『混浴と日本史』(ちくま文庫)、『エロティック日本史』(幻冬舎新書)、『盆踊り 乱交の民俗学』(作品社)、『遊郭をみる』(共著・筑摩書房)などがある。

●永井義男(ながい・よしお)
1949年生まれ。『算学奇人伝』(祥伝社文庫)で第6回開高健賞を受賞。時代小説家として100作以上の著作を持ち、最近では江戸の性風俗を研究した著作を多数刊行している。近著に『本当はブラックな江戸時代』(辰巳出版)、『江戸の売春』(河出書房新社)、『江戸の糞尿学』(作品社)などがある。


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