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 >  >   > ドキュメンタリー監督・森達也が語る『ザ・コーヴ』上映の葛藤と意義

ドキュメンタリー監督・森達也が語る『ザ・コーヴ』上映の葛藤と意義

1007_iruka_bamen.jpgこの映画の主人公のひとり、元イルカ調教師のリッ
ク・オバリー。”贖罪”の意識から彼は現在、「イルカ
解放運動」の最前線で活動しているという。

 2009年度米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作にして、世界中で物議を醸し続けている問題作『ザ・コーヴ』。舞台となった太地町(和歌山県)からの猛抗議や右派団体の街宣活動がありながらも一度は公開が決定した同作だが、その後も抗議の電話や街宣活動予告が続き、東京では上映を予定していた映画館がすべて上映中止を決定するなど、公開に向けて混乱が続いている(6月5日現在)。

 フィクションさながらの緊迫した場面の連続、衝撃的なラストシーンなど、ドキュメンタリーとしてのみならず、エンターテインメントとしても評価する声がある一方で、被写体である漁師らの肖像権侵害や隠し撮りという手法、イルカ肉の残留水銀値のデータの妥当性など多くの問題も指摘され、まさに毀誉褒貶相半ばする、といった状況だ。

 その公開に先立ち、オウム真理教信者の日常を追ったドキュメンタリー映画『A』『A2』などの作品で知られる森達也監督と、配給元・アンプラグドの加藤武史代表取締役の両氏に、日本公開に至るまでの道のりや、作品の評価などについて語り合ってもらった。『ザ・コーヴ』公開から見えてくる、日本のドキュメンタリー映画を取り巻く現状と、映画界の今後とは!?

加藤武史(以下、) 昨年11月に本作を初めて観たときの感想は、「衝撃」の一語でした。イルカ漁や捕鯨の是非はおくとして、こんなに力のあるドキュメンタリー作品があるのか、と。もちろん、これを一般公開しようとすればもめるだろうな、とも思いました。昨年10月の東京国際映画祭で上映された際に、太地町から上映中止を求める抗議があり、その後の配給会社探しも難航していることを知っていましたから、配給するかどうか、1カ月ぐらい悩みましたね。

森 達也(以下、) 実は僕、これまでドキュメンタリーを配給したことのないアンプラグドが、なぜそこまでがんばるのかが不思議で、もしかしたら加藤さんは途中で降りちゃうかもしれないな、と思っていました。

 確かに、揺れた時期はありましたし、上映を延期しようと考えたこともありました。でも、映画の持つ力を久々に実感した作品でしたし、もっとこのジャンルを成熟させていくべきだという思いもありましたから。そこでまず、同作のワールドセールスを担当する会社、および制作側と交渉することにしました。先方としても、日本では買い手のつかない状況でしたので、公開を優先し、ある程度こちらの条件をのむことを了承してくれました。それで、個人攻撃につながるような映画にはしたくない、という意思を伝えたんです。

 太地町の人たちの顔にぼかしが入ったのと、本編の前後にイルカ肉の水銀含有量などについてのテロップが加えられたのはそのためですね。

 はい。太地町側が問題視した点は大きく分けて2つ、肖像権の侵害と、イルカ肉から検出される水銀値などのデータの信憑性でした。ですので、そこをクリアにするために、太地町側の言い分を酌んで、公人ではない漁協関係者の顔にぼかしを入れ、かつ「取材を受けた水銀の専門家等は、イルカ問題に対し、賛成・反対を述べているわけではありません」などのテロップを入れることにしました。もちろん、本作のルイ・シホヨス監督をはじめとする制作側の了解を得た上でのことで、太地町側にも伝えてあります。しかし、本来なら、作品にそうした修正を加えるべきではないですよね。それについて森さんはどう思いますか?

 モザイクやぼかしは単に隠すだけでなく、被写体のネガティブな側面を強調する記号的意味合いを持ちます。つまり、ドキュメンタリーが最も陥ってはならない善悪二元的構造に回収されやすくなる。もし僕が監督だったら、そういう要求があれば絶対に拒否します。でもこの作品の場合、日本での上映が一番の目的だったでしょうから、制作側としては、妥協もやむを得ないと考えたのかな。難しい部分ですね。

 僕の中では、靖国神社の知られざる一面に切り込んだドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』(李纓監督、08年)が公開延期になった件が、引っかかっていたんですよ。確かにヒットはしましたけど、結局、複数の映画館が上映中止したことへの賛否ばかりが話題になって、映画の内容である靖国問題そのものについての議論はほとんどなされませんでしたよね。その二の舞いは絶対に避けたかったですし、それができないようなら、苦労して配給する意味がないと思ったんです。

 太地町からの抗議とは別に、右派団体による街宣活動も相当エスカレートしたみたいですね。

 ええ。「主権回復を目指す会」という30人ぐらいの市民活動団体が中心で、主張の内容は「反日映画だから上映を中止しろ」の一点張り。映画の内容を紙面などで批判するだけなら別に構わないんですが、会社だけでなく、自宅にも押しかけてきて騒がれると、さすがに参りまして……。街宣活動禁止の仮処分の申請を東京地裁に提出して、認められました。

 先日、一水会の鈴木邦男さんと、なぜ右翼は、『蟻の兵隊』(池谷薫監督、06年)や『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督、87年)など、彼らの言う反日的要素の強い作品については上映中止運動などを起こさなかったのに、『靖国YASUKUNI』や『ザ・コーヴ』に対してはこれほど過剰に反応するのか、という話になりました。自らを批判するという視点においては、僕の映画だって立派な反日映画です。結局は内容が反日うんぬんじゃなくて、どの国の監督が撮ったかが問題なんですね。ほかの国の人が日本を批判するのが許せないとしか解釈できない。でも、そんなレベルじゃ、まるで話にならない。

 その通りですね。

 イラク戦争やベトナム戦争批判など、反米映画はたくさんあるけれど、アメリカでそうした映画の上映中止運動が起きたことはほとんどない。『アバター』(ジェームズ・キャメロン監督、09年)だって明らかな反米映画です。でも大ヒットした。彼らにはそもそも上映しちゃいけないという発想がない。作品内容については大いに批判するけれど、表現の自由を最大限に尊重し、観る権利、観せる権利を奪うことは決してしない。アメリカはホントにどうしようもない国だけど、そういう筋はちゃんと通っています。被写体になった太地町の人たちの言い分はまた別ですが、反日だからと上映に反対している人たちには、せめてそのレベルに達してほしいと思います。

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