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アフガニスタン拘束事件の常岡浩介氏が語る

アフガンやイラクで拉致されても戦場に行く男の論理とは?

 2007年9月27日、ミャンマーのヤンゴンで、軍事政権に対する反政府デモを取材中に銃撃され亡くなったジャーナリスト・長井健司氏。その命日に、追悼イベントの一環として、長井氏が所属したAPF通信社主催のトークライブが行われた。司会は同社代表の山路徹氏。ゲストは、アフガニスタンで武装勢力に拉致・拘束され、9月4日に解放されたばかりのフリージャーナリストの常岡浩介氏と、04年4月、イラクで武装勢力に日本人2名と共に誘拐されたフォトジャーナリストの郡山総一郎氏。戦場や紛争地帯の取材経験が豊富な3人が、拘束事件の裏側、命がけで行う報道の使命について語り合った。

1011_senjyoniikuotoko.jpg(長井健司さんの写真を前に。撮影/岸野亮哉)

【鼎談参加者】
(右から)郡山総一郎/1971 年生まれ。01年から写真取材を開始。 02年「イスラエルの現実」と題した写真でよみうり写真大賞奨励賞を受賞。04年4月、イラクで武装勢力に9日間拘束される。
常岡浩介/1969年生まれ。長崎放送報道部記者から、98年にフリージャーナリストに。アフガニスタン、エチオピア、チェチェン、イラクなどの戦場で取材を続け、通信社や新聞、雑誌などに寄稿。
山路徹/ 1961年生まれ。TBSテレビ、テレビ朝日系プロダクションを経て、92年に独立。日本初の紛争専門ニュースプロダクション「APF通信社」を設立。



山路(以下、) 常岡さん、帰国後、少しは落ち着かれたんですか?

常岡(以下、) まだ数件、中小のメディアからのインタビュー依頼とかありますけど、10月にはガラガラになるんじゃないかと(笑)。

 ちょっと気になる噂を聞きました。常岡さんは帰国後、いろんなテレビに出て、現地や事件の実情を話してくれるもんだと思っていましたが、それがほとんどなかった。その裏には、外務省から記者クラブ加盟社に、常岡さんへの取材自粛を暗に働きかけるような通達があったというものです。

 その文書は私も見ましたが、直接的な働きかけではなく、「危険地帯、避難勧告地域に入らないように。どうしても入る場合は、現地の在外公館、外務省と協力して情報交換を密にして、安全確保に努めてください」といったような内容でした。ただ、帰国した9月6日の朝には、複数のテレビ局から取材依頼があったのに、この文書が流れて以降、同日夕方にはすべてがキャンセルになったのは事実ですね。

 つまり各加盟社は、そのタイミングで出た外務省の文書を「外務省の言うことを聞かずに危険地帯を取材するような人間をフィーチャーするな」というプレッシャーと取ったんでしょう。

 そうかもしれません。テレビ朝日、朝日新聞、東京新聞などは取材に来てくれましたが、最初のぶら下がり会見以外は、キー局や全国紙の取材はないですね。

 マスメディアが取材しないのは、その外務省の影響だけでしょうか?

 自粛ムードがあるんでしょうね。僕は”札付き”だし。

“札付き”? 一部で囁かれていた”自作自演疑惑”のことですか?

 そういう見方が主流だったという情報が、外務省から出ていたというのを聞いています。根拠としては、事件当日がエイプリルフールだったこと。それに、僕は過去に何度かタリバンと接触しているので、タリバン寄りと思われていた。ツイッターで「これから潜入します」というようなことを書いたのも、誤解を生む表現だったのかもしれません。以前も、別の国で拘束されたことがありましたし。

 外務省もマスメディアも、純粋な被害者としては扱えないと。そういう意味では、04年にイラクで拉致された郡山さんのときの空気も異常だった。僕は当時、捜査関係者を取材していたのでわかるのですが、郡山さんと一緒に拉致された女性が、共産党系の看護師組合に入っていたことから、共産党を敵視する公安がうがった見方をして自作自演疑惑が出てきた。犯人グループからの映像を流したのもアルジャジーラだったし、「何かあるぞ」という見立てが小泉純一郎首相のところに行って、自己責任ムードが高まるんです。

郡山(以下、) 僕自身は、世間からの風当たりがそんなに強くなっているとはわかりませんでした。解放後、それっぽいことを大使館で吹き込まれましたね。それに、すぐに警視庁公安部の取り調べを受けたんですが、自作自演という見立てに合わせた調書を作ろうという意図が感じられました。決め付け口調で聴取してくるんです。

 それじゃ、冤罪事件の作られ方と一緒じゃない? そんな郡山さんですけど、最近でいえば、4月にタイ・バンコクでのデモ隊と治安部隊との衝突を取材されていた。ちょうど、ロイターの村本博之カメラマンが銃撃されて亡くなったときでしたね。

 偶然にも、常岡さんの事件が起きた4月1日にタイに入りました。10日に村本さんにも会ったんですが、その30〜40分後に撃たれたようです。今でも、彼がデモ側、軍側、どこから撃たれたのかわからないんです。

 事件から半年近くたつのに、日本政府はタイ政府に対して、事件の調査結果をちゃんと出せと言っていないんです。長井さんのときもそうですが、外務省は相手国に積極的な働きかけをしていない。長井さんや村本さんのとき、外務省に働きかけてくれた国会議員は鈴木宗男さんくらいですよ。

 そういえば、村本さんが亡くなったとき、防弾チョッキを着ていなかったことがうんぬん言われましたけど、騒乱は突然始まったので、あの場にいた人間は誰もそんな準備をしてなかったですよ。僕だってヘルメットはしてないし、シャツ1枚だったし。

 僕も準備不足でしたね。

 長井さんのときも言われましたよ。それは結果論でしかなくて、拉致されなかったり、死ななかったりするための準備があらかじめわかっているのなら知りたいよね。そういうことを言う人は、いつも安全な場所にいる。

 僕の知り合いは、「テレビでボクシング中継を見ている人たちと一緒だ」と言ってましたね。リングに立ったこともないのに、ビール片手に「あいつ、だらしねえ」って言っている。うまい例えするな、と。

最終更新:2010/10/17 21:00
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