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映画『スリー☆ポイント』公開記念インタビュー

「お子様ランチみたいな映画ばかり」の邦画界に風穴! ”不良監督”山本政志のやり方

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 都市を漂泊する人々の狂騒といら立ちをフィルムに焼き付けた『闇のカーニバル』(1983)。箱庭的な廃墟での生活を通して、生と死が融合する自然の本性を語りきった『ロビンソンの庭』(87)。香港を舞台に水上生活者と地上げ屋の闘いをコミカルに描いた『てなもんやコネクション』(90)。社会の周縁で生きる人々の底力にフォーカスを当ててきた山本政志監督が自身のルーツである自主映画へと帰還し、わずか200万円の製作費で作り上げた最新作『スリー☆ポイント』が5月14日に劇場公開を迎える。舞台は京都・沖縄・東京の3都市。それぞれの街に生きる人々の多種多様な物語を、ある時はそれぞれが交錯しながらも、3本の独立した作品として描き出した本作は、なぜ、現状の製作システムではなく、自主映画というスタイルで作られたのか? 日本が誇る不良監督・山本政志が高らかに掲げた「超インディーズ宣言」の真相──そして、91年から製作に入るも、資金繰りの都合で未完のままになっている大作『熊楠KUMAGUSU』への想いに迫る!

──そもそも『スリー☆ポイント』は、どんな具合に動き始めたんですか?

山本 それなりに金の掛かる企画が立て続けにポシャったときに「こんなことをやってたら、バカになんじゃねえか?」と思ってね。一日の日課がプロデューサーに「どう?」って電話するだけとかさ、そんなの面白くねえから。それでシステマチックな映画作りとは真逆な作り方……それこそ映画を作り始めたときのようなフットワークの軽さと、自主映画でしかできない自由な作り方、「いま思いついたことを速攻で撮る」みたいな即興性もやってみたいと思って。

──「こんな映画を撮ろうかな」みたいなこともなく、ですか?

山本 京都編は、たまたま動画サイトで見つけたANARCHYっていうラッパーに会うことだけは決めてた。実際、キモチのいいヤツだったから映画に出演してもらおうとしたんだけど、スケジュールが合わなくてね。それで彼に京都の若いヒップホップの連中を紹介してもらって、彼らと話をしているうちに「オレがやりたいのはコレだ!」と。そこから彼らの実体験をベースにした構成案を書き始めたんだよ。

──京都編のキャストには『ジャンクフード』(98)の鬼丸さんや、『聴かれた女』(07)の小田敬さんに通じる本物の雰囲気がありましたね。

山本 特殊学級みたいな連中が好きなんだよ(笑)。アイツらは基本的に裏切らないじゃん。裏切るときは手痛く裏切るけど、スジの通らないハシゴの外し方はしないから。そういう連中と付き合う方が楽しいし、そういう連中が登場する映画の方が面白い。いまはドコを見てもお子様ランチみたいな映画ばかりじゃない。中には柴田剛(『堀川中立売』監督)や、松永大司(『ピュ~ぴる』公開中、監督)みたいなヤツもいるけど、大体が「身近なテーマを内向的に撮りました」っていう映画ばっか。いまはデジカメとパソコンがあれば低予算でも面白い映画を作れるんだから、若い連中も好きなことをやればいいんだよ。実際、沖縄編なんてデジカメ1台で撮影してんだから。

tecchan0000.jpg「沖縄編」で出会ったナイスガイ・てっちゃん

──沖縄編の面白さは山本監督の素の面白さだと思いますよ。普通は沖縄有数の危険地帯・金武町で撮影しようとは思いませんから(笑)。

山本 沖縄の人間にも「金武町だけには近づかない方がいい」って言われてね。それなら金武町でカメラを回すしかないな、と(笑)。映画の中で、海兵隊の兄ちゃんたちが集まってるクラブあるでしょ。あそこは絶対に撮影できないって言われたんだけど、店のママさんに交渉してね。最初は「絶対に撮っちゃダメ!」って言われたけど「いいじゃん、面白いから撮らせてよ!」って言ったら「うーん、面白いならいいか」ってことになったんだよ(笑)。

──全編を通じて、生と死のサイクルを前提とした自然や街の描写も、山本監督らしいなと感じました。こういった映像は、山本監督と宮崎駿監督くらいにしか撮れない気がします。

山本 宮崎駿とは近い感覚を共有している気がするよね。それは『風の谷のナウシカ』(84)のころから感じていた。あの映画も『ロビンソンの庭』と同じように森のエネルギーの話をしてたから。

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──中断になっている『熊楠』では、『もののけ姫』(97)以降の宮崎駿が切り捨ててしまった、”人間全体に対する希望”が描かれるんじゃないか? と密かに期待しています。

山本 オレは宮崎作品だったら『千と千尋の神隠し』(01)が一番好きだけどね。空を飛ぶシーンとか好きだから(笑)。ただ、そこから先のことは、やると思う。『熊楠』にかかわるまではインテリがキライでさ。だからアウトサイダーにこだわっていたんだけど、その考えも変わってきたからね。熊楠が「顕微鏡のぞくのもチンポいじんのも一緒」みたいなことを言ってんだけど、いいなと思って。あの人の周りには学者もヤクザも芸者もいて、それがぐちゃぐちゃっとしているんだよ。それは熊楠が歩いた熊野の森と一緒だから。上品と下品の区別もなく、いろんな考えがクロスしている状態なんだよね。

──いまでも撮影を再開したいという想いは、あるんですか?

山本 作りたいけど、ちょっと時間を置かないと無理だろうね。重過ぎるから。それに今はどこを見ても金がない。『スリー☆ポイント』の予算って200万円なんだけど、それでも金を集めるのに苦労したから。それこそジブリに頼んでアニメで作るしかないんじゃねえかな。

──そこまで資金がないですか。

山本 いまの映画を取り巻く経済的状況は、オレが映画を作り始めてから、一番悪いかもしれない。5,000万円の企画を動かすのも難しい。そこに今度の震災だろ……。ぶっちゃけた話をすれば、映画なんてなくてもいいもの。ただ、こんな状況だからこそパワーのある映画が生まれるんじゃねえかっていう希望もある。こんな時代だからこそ余計に映画を作りたいって思うしね、オレは。どう転んでも、オレには映画しかねえから。

──次回作以降も期待できる言葉ですね。

山本 すべては『スリー☆ポイント』を上映した後の話だけどな。ただ、超インディーズ宣言の次は脱インディーズ宣言でいこうと思ってるから、そこは期待してくれていいよ。
(構成=渡辺トモヒロ)

●山本政志(やまもと・まさし)
1956年、大分県生まれ。明治大学中退後に自主映画製作を開始。83年に製作した『闇のカーニバル』がベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭で上映され国際的な注目を集める。代表作に『ロビンソンの庭』(87)『てなもんやコネクション』(90)『ジャンクフード』(98)『リムジンドライブ』(2000)など。

●『スリー☆ポイント』
山本政志監督が原点である自主映画スタイルで製作した予算200万円の、いわゆるオムニバスとはひと味違う新映画。その低予算とは裏腹に山本政志監督の思想と個性が凝縮された秀作だ。中でも『闇のカーニバル』以来一貫する人間観と『熊楠』(製作中断)を通して深められた自然観がボーダーレースに絡み合う沖縄編は、山本政志監督の現在地を示すマイルストーン的作品となっている。監督・脚本・製作/山本政志、出演/村上淳、蒼井そら、渡辺大和、小田敬ほか。5月7日より京都シネマ、5月14日より渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー。
http://www.three-points.com/

聴かれた女

快作。

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最終更新:2013/09/13 16:42
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