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賛否分かれるドキュメンタリー映画が公開!

震災2週間後の被災地を映した『311』 テーマは現代人が感じる”後ろめたさ”

31101.jpgドキュメンタリー映画『311』。森達也をはじめとする4人の映像作家
たちがビデオカメラを手に、福島、宮城、岩手の被災地をめぐる。
(c)森達也・綿井健陽・松林要樹・安岡卓治

 ”誰も、見たくなかったはずのドキュメンタリー。”が劇場公開される。4人の映像作家たちによる共同監督作『311』がそれだ。2011年3月11日に発生した東日本大震災を題材にしたものだが、その内容が賛否を呼んでいる。山形国際ドキュメンタリー映画祭、釜山国際映画祭で先行上映されただけにも関わらず、「映画芸術」の2011年日本映画ワーストテン第12位にランキングされているほど。『A』(98)、『A2』(01)でオウム真理教をめぐるマスコミや警察の異常さと周辺住民の戸惑いを描いた森達也、戦場ジャーナリストとして知られる綿井健陽、ビルマ戦線に送られた未帰還兵たちを追った『花と兵隊』(09)の新鋭・松林要樹、『A』『A2』のプロデューサーである安岡卓治の4人が、映画を撮るという目的意識のないまま、被災地の様子を確かめに行こうと1台の車に同乗して出発。被災から2週間が経過した浪江町、大船渡、仙台、陸前高田、石巻……をビデオカメラを回しながら北上していく。作品にするという明確な意識を持たずに4人が撮った映像は、テレビや新聞・雑誌でイヤというほど被災地の光景を見てきたはずである安全な場所にいた人間に衝撃を与える。マスメディアで流れていた映像や写真は、あくまでもメディア側によって選択され、ろ過され、切り取られていたものであったことを思い知らされる。さらに遺体を運ぶ様子にカメラを向けていた彼らは、被災者のひとりから角材を投げつけられ、カメラを弾き飛ばされる。同じ場所にいた新聞記者からは「恥ずかしいよ」と罵られる。カメラを回しているうちに、次第にハイになっていくジャーナリストの業までも映し込んだ毒々しい内容なのだ。

 都内では初となる『311』の上映が、2月8日に「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」のプログラムとして行われた。上映後に4人の監督たちが揃って観客との質疑応答の場を開いたが、『A2』以降は劇場作品から遠ざかり、作家活動をメーンにしていた森達也のコメントが際立っていた。彼の言葉を中心に伝えよう。

311mori.jpg『A2』(02)以降は作家活動を中心にして
いた森達也。著書『A3』(集英社インター
ナショナル)が2011年講談社ノンフィクション
賞を受賞。

 「映画の中でも言っていますが、そもそも映画にするつもりはなかった。東京に戻ってから撮ってきた素材を繋ぐとは聞いたけど、形にならないだろうと思ってました。映画にしようというモチベーションがないままに撮っていましたし、共同監督なんて本来ありえないですよ。ドキュメンタリーは自分を出すものだと思ってますから。今回は安岡の策略に乗せられた感じで、映画を完成させた実感は湧かないです。実感のないものを劇場公開していいのかという葛藤はあるんですが、試しに幾つかの映画祭で上映したところ、反響がすごい。いい意味でも悪い意味でも。これはもう作品がひとり歩きしてるなと。作品を観たみなさんから意見、感想、質問を投げ掛けてほしい。それを含めた作品だと思う。まだ作品は終わってない気がします」

 伝説のドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』(87)の助監督をつとめ、平野勝之監督の『由美香』(97)ほか数多くのインディペンデント作品をプロデュースしてきた安岡卓治にとっても本作は特殊な作品であるようだ。

311yasuoka.jpg数多くのインディペンデント映画をプロデュ
ースしてきた安岡卓治。日本映画学校ではドキュ
メンタリーのゼミを担当し、若手作家を育てた。

安岡 「4人で被災地を6日間一緒に回り、それぞれの視点で撮ったものです。編集はボクがやったんですが、4人がそれぞれどのような視点で被災地を見ていたのか自分が知りたくなったからです。6日間、ボクらは常軌を逸していた。精神状態はまともじゃなかった。必死になって撮っていたけど、それが何を伝えられるかというと、そこまでには達していない。ボク自身がカメラを回していて感じたのは、ある種の無力感、喪失感でした。『自分に何ができるのか』と自問自答した6日間でした。それで他の3人と6日間どんな話をしていたのか整理するつもりで編集したんです。これまで自分が参加してきたドキュメンタリー作品とは異なる組み方でした。いつものドキュメンタリーとは違うものができている手応えは感じたんです。『被災地に行って何ができたのか?』と問われれば、何もできませんでした。でも、自分たちが現実と向き合ったことで生じた変化や、カメラを持つ人間が背負う狂気や原罪みたいなものが映っているんじゃないか。それが、編集作業を一段落させたときの実感でした。取材する側の問題提起になるかという気持ちで映画祭に出品したんです」

 森達也は3.11以降に感じる”後ろめたさ”が本作のキーワードだと言う。肝になる部分なので、少し長くなるが彼の言葉に着目したい。

311wataya.jpgビデオジャーナリストの綿井健陽。戦時下の
イラクを撮影取材した『Little Birds イラク
戦火の家族たち』(05)が劇場公開されて
いる。

 「去年の3月11日、ボクは六本木にいたんです。地方のディレクターやプロデューサーたちと一緒にいて、携帯電話も繋がらないし交通機関も動いていないので、居酒屋でさんざん飲んでベロンベロンになってました。深夜になってようやくテレビを見て、初めて津波の被害のスゴさを知り、驚きました。大勢の方たちが亡くなったとき、自分は数100kmしか離れていないのに酔っぱらっていたんです。翌朝以降もテレビを見ては落ち込んでいました。鬱病みたいな状態でした。現地に行った取材者は遺族の方たちに『今のお気持ちは?』と尋ねるわけです。バカですよ。でも聞かないことには何も始まらない。普段からメディアの仕事をしていて、事件や事故が起きれば現場へ行く。不幸を撮りに行くわけです。それが仕事なのに、そのことをごまかしてきた。でも、今回は規模が大きすぎるんです。見渡す限りガレキの山で、遺体があり、被災者がいる。ボクだけでなく、ほとんどのメディア関係者が呆然と立ち尽くしていました。一体、何を聞けばいいのか? そもそも何をしに来たのか? その”後ろめたさ”は震災以降、多くの日本人が感じていること。ボクらは生きて、毎日息を吸って、美味しいものを食べて暮らしている。でも、彼らは流されてしまった。何が違ったのか? 何も違いません。今回だけじゃないんです。世界では戦争もあるし飢饉もある。毎日大勢の人たちが泣きながら亡くなっている。そのことを大変だなと思いつつも、しようがないと思ってきた。だが3.11以降、自分の冷酷さに気づいた。後ろめたいんです。つまり、後ろめたさがキーワードです。後ろめたさが辛いので、ごまかしたくなる。で、どうするかというと、『日本はひとつ』『がんばれニッポン』『絆』とかに行っちゃう。そっちに行っちゃダメなんです。この後ろめたい想いを今しっかり見つめないと。テーマは語るものではありません。今言ったことは忘れてください。映画から感じてください」

■隠された遺体と取材という名の暴力

 今回、自宅に引きこもっていた森達也を被災地へと誘ったビデオジャーナリストの綿井健陽は、”後ろめたさ”についてこう語る。

311syorin.jpg最年少(1979年生まれ)の松林要樹。原発
事故による被災者たちの生活を密着取材した
『相馬看花 第1部奪われた土地の記憶』が
初夏に公開予定。

綿井 「ボクはこの4人の中でいちばん後ろめたさが薄いように思います。つまり、イラクやアフガンで戦場取材をしています。遺体とか、いっぱい撮ってきました。これまでは、それが普通だったんです。それが今回の震災で日本のメディア状況を見ていると、完全に遺体が消えていた。消えたというより、消されていた。テレビもそうだし、新聞もそう。フライデーみたいな写真誌ですらそうでした。ブルーシートを掛けられた遺体や棺の写真はありましたが、生の遺体はありませんでした。一律に消えていたことが気持ち悪く、何なんだろうと現地でずっと考えていました。後ろめたさで言えば、自分があまりにも原発のことを知らなすぎることに、今回初めて福島へ行ったことで気づきました。放射能の怖さを知った。ボクは映像ジャーナリストなので、何か起きるとパッとカメラを回す。ある種の放射能ハイになっている部分に後から気づきましたね」

 目的意識のないまま被災地に向かったはずの4人だが、ジャーナリストとしての習性からカメラを回しているうちに、次第に被災地の状況を自分たちなりのカメラ目線で記録しようという気持ちが芽生え始める。観客からの「どの時点から、作品にしようと考え始めたのか?」と質問され、森達也の「4人で意見が異なると思う」という言葉を継いで、綿井健陽と4人の中で最年少の松林要樹がこう答えた。

綿井 「森さんと安岡さんといえば、『A』『A2』のコンビ。2人の新作が見たいという気持ちが客観的にあった。最初はやる気がなく、ビデオカメラを脇に置いていた森さんが、途中からスイッチが入ってカメラを回し始めた。その様子をボクが後ろから撮ったんです」

311talk.jpg「座・高円寺」で行われた上映会の模様。『A』
『A2』のコンビである森達也、安岡卓治の2人の
やりとりがふるっていた。

松林 「大川小に入るくらいから、遺体捜索をしている遺族に同行取材している森さんが絵になるのが分かった。というか今回の映像を作品にするなら、森さんを撮らないことには形にならないと思いました。それで森さんをメーンにして撮ろうと考え、森さんにピンマイクをボクから付けさせてもらったんです」

 『311』の終盤、見つかった遺体を運ぶ様子をカメラで追っていた一行は、被災者のひとりから不快感、不信感から角材を投げつけられる。森達也はその男性と向き合い「申し訳ないと思う。でも撮影はやめない」と押し問答になる。ここで、安岡卓治は今回の映像はドキュメンタリー作品にするつもりであること、撮った映像は後日見せることを口にし、連絡先を交換する。4人の中に明確に目的意識が植え付けられた瞬間だ。被災者であり自身の家族も失っていたこの男性に、『311』の完成後に安岡卓治は約束通り連絡を取り、他の3人も同行する形で映像を見せ、了解を得ている。森達也はこのことについて、最後まで反対だったと語った。

 「カメラで撮ることには加害性があります。ボクは、あの人にもコンセンサスを取る必要はなかったと思っています。ドキュメンタリーを撮るんだったら、コンセンサスを取れないことはいくらでもあるんです。そういうものをボクは映像素材にしてきた。暴力行為ですよ。そもそも、そうやってきた。今回、あの人にだけコンセンサスを取るのはフェアじゃない。やるんだったら、すべて傷つけるんだという気持ちがあった。加害性があるのは当たり前だし、常々それは思ってきました」

 『311』を見終えると、どんよりとした気分に襲われる。映画にしなくてはいけないという義務感、本当に映画になるのだろうかという自分たちへの猜疑心、この6日間はなんだったんだろうかという虚脱感……、混沌とした感情を抱えたまま、男たちが引き揚げていく姿で作品は終わりを告げる。『311』には被災地に今後どのように対応すべきかといった答えは明示されない。だが、映画にはソフィスティケートされたエンターテインメント作品がある一方で、テレビでは放映されない毒薬的なまがまがしさがあることを認識させる。そして、そのまがまがしさとは人間自身から生まれたものでもある。最後も森達也のコメントで締めよう。

 「ネットを見たら、遺体を探してる映画という評判が広まっているみたいですね。『遺体を使って、金儲けする。こいつら鬼畜だ』と。待ってましたね、こういう反応を(笑)。この作品は賛否両論あるから公開しようと思ったんです。賛だけなら公開しないし、否だけでもイヤです。遺体を使ってお金儲けしようとしているということですが、ドキュメンタリー映画はヒットしても儲けはないですよ。儲けたいなら、他のことをやります。ただ、みんなに観てほしいんです。観終わった後は、称賛でも罵倒でもいいんです。ひとりでも多くの人に観てほしい。それ以上でも以下でもないんです」

 『311』は3月3日(土)からオーディトリウム渋谷、ユーロスペースの2館で一般公開が始まる。全国での順次公開が予定されているが、東北エリアの映画館からの上映オファーは現在届いていない。
(取材・文=長野辰次)

31107.jpg
『311』
監督/森達也、綿井健陽、松林要樹、安岡卓治 配給/東風 3月3日(土)よりオーディトリウム渋谷、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開 <http://docs311.jp>

311を撮る

壮絶な現実の記録。

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最終更新:2013/09/09 13:04

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