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『東日本大震災 石巻災害医療の全記録』著者インタビュー

「係になっただけです」石巻の英雄が語る“ドラマがない”災害現場の実像

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 東日本大震災の中心被災地であり、3,000人以上が犠牲となった宮城県石巻市。この石巻の災害医療をリーダーとして支えた医師・石井正の活躍は広く報道された。一刻の猶予も許されないが、満足な医療設備も的確な情報も入らない。そんな中、石井医師の肩には石巻地域に住む20万人以上の人々の命がのしかかっていた。そのような過酷な状況をものともせず、石井医師は冷静な判断と迅速な行動によって多くの人々を救う――。

 まさに英雄として活躍した彼が、この度『東日本大震災 石巻災害医療の全記録』(ブルーバックス)を上梓した。震災直後からの動きが生々しく記録されており、いつ起こるかわからない次の震災に対する備えともなる本書。はたして被災地の英雄は、どのようにしてこの未曾有の危機を乗り切ったのか?

――石井先生は東日本大震災発生直後から災害救護本部のリーダーとして、石巻を救う大活躍をされていました。いったい、震災の発生後どれくらい働き詰めだったのでしょうか?

石井正医師(以下、石井) 3月11日に震災が起こり、最初に家に帰ったのは4月下旬。1カ月半は泊まり込みの状態が続きました。

――1カ月半も……。体力的には大丈夫だったんでしょうか? 本書の中には、過労で倒れてしまった医師のエピソードも紹介されていました。

石井 結構サボっていましたからね。

――?

石井 普段なら外科医としての業務がありますが、震災時は当直や診察などの業務は行っていません。きっちりと災害対応の仕事をする時間を与えてもらえました。

――いちばん過酷だった時期はいつ頃でしょうか?

石井 特にないですね……。僕自身、「どうにかしてやる!」と息巻くような熱血タイプではないんです。「係になった以上はベストを尽くそう」という感じですか。たまたま自分が立場にあったのでやっただけなんです。

――“お仕事”として淡々とこなしている印象ですね。一般にイメージされるようなパニックに見舞われた災害医療の現場とは、とても大きな開きがあるように思います。

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石井 まず、外科医の業務と災害対応に求められることはとても似ているんです。外科医も手術中の不意の出血など予期しない事態に直面しながら、次々と判断を下していかなければいけません。それに、外科の経験から死体を見ても感情を支配されることもないんです。だから、運ばれてくる患者に対してパニックになることもない。僕じゃなくても、外科医ならば誰でもできるんじゃないでしょうか。

――震災前からかなり周到な準備をされていたことも、冷静に対応できた一因だったのでしょうか?

石井 そうですね。石巻市は1978年の宮城県沖地震(M7.4、死者28人、負傷者1万人あまり)を経験しています。東日本大震災の前から、30年以内に99%の確率で大地震が起こると言われていたんです。また、私の勤務する石巻日赤病院は、石巻医療圏で唯一の災害拠点病院です。もし何かあったら僕らでどうにかしないといけない。だから、震災に対して準備をしなければならない、というメンタルが保てたのではないかと思います。

――ただ、平時からそういった準備を周到に行うことはとても難しいことだと思います。周囲から反対されたり、「面倒くさい」と言われるようなことはなかったのでしょうか?

石井 誰も文句を言うような人はいませんでした。震災前に行っていたのは、5、6人の有志が集って週1回程度のマニュアル改訂会議です。そもそも、日赤病院は災害救護に対してとても熱心な病院。そういう下地もあって準備に支障はありませんでした。また、これは立川にある国立病院機構 災害医療センターの「全国災害拠点病院災害医療従事者研修会」で学んだことなんですが、担当者の名前を入れることでマニュアルを読む側の本気度が上がり、リアルなイメージが浮かびやすい。災害に備えてマニュアルを読もうという気持ちにもなるんです。

――それらの結果、冷静に淡々と対応ができたということですね。

石井 東日本大震災発生直後の石巻日赤病院の初動は、実に淡々としていました。怒号を飛ばしたりするような現場ではなく、みんな落ち着いて何かを書いていたり運んでいた。まるで訓練のようでしたね。

――そのような万全な状況があれば、冷静な対応も頷けます。ただ、未曾有の状況にさらされて、石井先生自身は感情的になったり、絶望することはなかったのでしょうか?

石井 3月17日の夜に見た光景は忘れられません。石巻市内は全域で停電状態。信号も泊まり、瓦礫とへどろで覆われた街並みが広がっていました。他に車や人もいなくて、物音ひとつしないとても静かな夜でした。この暗闇の中で何万人もの人々が、息をひそめながらじっと我慢している。そう考えると涙が出そうになりました。「なんとしてもこの人たちを助けなければ」と強く思ったんです。

――石井先生の中で最も印象に残っている言葉は何かありますか?

石井 石巻圏合同救護チームとして、医療者をまとめ上げるために県庁と東北大学に直訴に行ったんです。そこでダメと言われたら、石巻医療圏の救護がばらばらになるという危機でした。難航すると思われていたその交渉がOKになったんです。とてもうれしくて、僕は「勝った!」と喜んでいました。その時に、ブレーンとして本部に入っていた浜松医科大学の吉野篤人先生に呼ばれ、こう言われたんです。「災害救護の現場では“勝った”ではなく、“よかった”と言いなさい」。頭から冷水を浴びせられた気持ちになりました。

――確かに、災害医療に勝ち負けはありません。

石井 正直、その時は調子に乗っていたんですね。常に災害医療は被災者のためであり、勝ち負けや「俺がやった」といった功績の話ではありません。「勝った」という態度、「俺らはすごい」という態度は必ず足元を救われます。それ以降は、どんなにうまくいっても淡々と「ありがとうございます」と言うだけにとどめました。

――本書には、市や県の対応が、ポジティブに描かれていました。災害医療というと、役所の壁のようなものを想像していたのですが、そういった事態には直面しなかったのでしょうか?

石井 もちろん、行政に対して頭に来ることもありました。セクショナリズム、要望主義、縦割り……“壁”に対してしょっちゅうケンカをしていたんです。ただ、彼らもサボっているわけではない。平時をスムーズに運営するためにそういうシステムの中でやってきただけなんですね。だから妥協点を見いだして連携をすることができました。むしろ、現場を知らない外部の人が「行政がけしからん」と言う方がまずいのではないかと思います。ある地方から来た医師が、行政の担当者の目の前で「行政がダメ」と言ったんです。そうしたら僕らは「そんな事言うならお前がやってみろ」と大ゲンカになった。「この人をバカにするような言い方は許さない」とみんなでかばったんです。

――震災という大きな問題を目の前にして、行政か救護かということでいがみ合っていても仕方がありません。

石井 僕らも行政も、人々のためにどうにかしたいというマインドは共通なんです。彼らは決して敵ではないし、協働できる存在です。

――今回の震災で、石井先生が得た最も大きな教訓はなんでしょうか?

石井 1つは大規模な救護活動をするなら本部機能がしっかりしていないとどうしようもないということ。司令部がないと組織的な動きができず、好き勝手に救護班が入って効率的な活動ができない状態になります。また、災害現場の客観性を担保するためにはデータも必須ですし、通信機能も大切。この3つはどのような災害でも重要になると思います。

――もし次に震災が起こった場合、石井先生がリーダーであれば、被害者の数は減らせますか?

石井 被害者についてはなんとも言えませんが、今回の震災を踏まえて災害対応のバージョンは上がるはず。通信、本部、データを必須のものとし、具体的な対応については、状況によって判断するでしょうね。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])

●いしい・ただし
1963年、東京生まれ。89年東北大学医学部卒業。公立気仙沼総合病院研修医を経て、92年東北大学第二外科入局。2002年石巻赤十字病院第一外科部長。07年医療社会事業部長となり、外科勤務の傍ら災害医療の世界に足を踏み入れる。11年2月、宮城県より災害医療コーディネーターを委嘱された直後に東日本大震災を迎えた。

東日本大震災 石巻災害医療の全記録

これが真実。

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最終更新:2013/09/24 17:57
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