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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.214

閉塞化した世界を笑い飛ばす、常識破りの怪作! メタメタおかしい底抜け脱線ホラー『キャビン』

cabin2.jpgよせばいいのに、謎の呪文を唱えてしまうデイナ(クリステン・コノリー)。
ホラー映画のお約束パターンに従って物語が進んでいきます。

 ホラー映画のお約束とばかりに、酔っぱらって調子に乗った若者たちは地下室に残してあった謎の呪文をわざわざ読み上げてしまう。その途端、山小屋の裏にあった墓場から、気持ち悪~いアンデッドたちがモコモコと登場。もちろん、真っ先に殺られるのはビッチな金髪女。「ビンゴ!」と手を叩いて喜んでいるのは、客席にいた我々だけではなかった。山小屋の様子を隠しカメラで眺めていた研究員風の男(リチャード・ジェンキンス)たちも一緒に大喜び。なんだ、このオッサンたちは? これは新しいドッキリカメラか殺人リアリティーショーなのか? どうやらこの盗撮集団は入念なシナリオを準備して、5人の若者たちをまんまと山小屋へと誘導したらしい。呪文を読んでしまったのも、ビッチな金髪女が最初に死んだのも、すべて脚本通り。『死霊のはらわた』&『13日の金曜日』的なホラーテイストが、いきなりSF映画『トゥルーマン・ショー』(98)を彷彿させるブラックな世界に大変貌!

 カートたちはどうやら自分らが巧妙な罠にハメられたことに気づくが、『シャッターアイランド』(10)のごとく山小屋と湖の周辺は陸の孤島化しており、脱出できない。地下からはモンスターたちが続々と甦ってくる。焦れば焦るほど、正体不明な相手の思う壺。若者たちが次々と血祭りに遭う様子を、金魚鉢で蟻と蟻地獄を一緒に飼育するかのように冷酷に観察を続ける研究員風の男たち。しかも、この実験は米国だけでなく世界各地で行なわれているらしく、日本ではいたいげな小学生の女の子たちが貞子みたいなお化けと大バトルを繰り広げている真っ最中。一体、これらは何のための実験なのか?

 『キャビン』はパターン化されたありふれた風景をひっくり返して見せる。80年代~90年代にアイデアが出尽くして閉塞状態となっていたホラー映画というジャンルを、丸ごと箱庭化してみせる。近年ブームとなっていた主観映像による疑似ドキュメンタリーとは真逆の、超客観的視点に立ったメタフィクションの世界だ。「新しいタイプのホラー映画はもう出てこないでしょ」とタカを括っていた自分の先入観が、ガラガラと音を立てて壊れていく心地よさがある。『キャビン』に登場するモンスターたちが攻撃しているのは、実は山小屋に閉じ込められた若者たちではない。モンスターたちが揺さぶりを掛けているのは、我々が当たり前のように身に付けている“常識”という名のメガネなのだ。常識という名のメガネは社会生活を送る上ではとても大切で便利なものだが、社会基盤が変動してしまうと度の合わないその常識メガネは逆に大きな負担となってしまう。

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