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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.377

これはホラー? それとも極上のファンタジー? 男の潜在的欲望の扉を叩く『ノック・ノック』

knockknock02金髪の甘えっ子キャラのベル(アナ・デ・アルマス)とセクシー系のジェネシス(ロレンツァ・イッツォ)。お嬢さん、ブラが透けてるよ!

「たまには思いっきりハメを外してみたい」「若い女の子とエッチしてみたい」「一度くらい3Pを経験してみたい」。性欲過多な男ではなく、一般男性が隠し持つ潜在的欲望を、本作を撮ったイーライ・ロス監督は映画の中で代わりに叶えてみせる。だが、一般男性がそれらの願望を潜在意識の中に閉じ込めているのには理由がある。欲望を解き放った後に、何が待っているかが分かっているからだ。イーライ・ロス作品といえば、世間知らずのバックパッカーたちが旅先で甘い罠に掛かり、拷問責めに遭う『ホステル』(05)、環境保護を訴える大学生たちが密林に迷い込み、食人族に生け捕りにされてしまう『グリーン・インフェルノ』(15)と捕食者と被食者の関係を度々テーマにしてきた。本作はクリント・イーストウッドの元愛人として有名なソンドラ・ロック(今回、製作者としてクレジットされている!)が主演したB級サスペンス『メイクアップ 狂気の3P』(79)を現代的にリメイクしたもの。若い女性の誘惑から逃れられない男の悲喜劇を、ロス監督はとても楽しげに描いている。ちなみにジェネシス役を演じたロレンツァ・イッツォは『グリーン・インフェルノ』では清純な女子大生役で主演しており、ロス監督の新妻でもある。自分の愛妻を使って、男の哀しい性をあぶり出すあたり、ロス監督特有の倒錯ぶりを感じさせる。

 美女たちとのめくるめく3P体験を済ませた翌朝、エヴァンはかつてなくすっきりと目覚め……とはいかない。ベルとジェネシスはキッチンで勝手に朝食を貪っていた。いつまで経っても家を出ようとせず、あろうことか妻カレンの芸術品にイタズラ描きまでしてしまう。天使のコスプレをしていた悪魔たちがその本性を見せ始めたのだ。エヴァンが「早く出ていけ!」と命じても、まるで動じない。しかも、「あんた、未成年者に手を出したんだよ。警察を呼んだら、あんたが刑務所行きになるよ」と脅す。エヴァンはなす術もなく、我が家を身も知らぬ赤の他人である女2人に乗っ取られてしまう。

 かわいい顔をした悪魔、ジェネシスとベルとは一体何者なのだろうか。偶然、エヴァンの家を訪ねたのではなく、過去に何件もこの手の“セルフ美人局”を重ねているらしく、周到にリサーチした上でエヴァン宅を狙ったことが後に分かってくる。2人の過去が語られることはないが、幼い頃から家庭内で虐待され、大人の男や家庭そのものに対して憎しみを抱いていることがうかがえる。似たような境遇同士のジェネシスとベルは幸せそうな家庭を見つけては一軒一軒潰して回り、自分たちのトラウマを晴らそうとしている。家族に恵まれ、何ひとつ不満のない生活を送っていたエヴァンは、彼女たちの標的リストの中でとっておきの候補だったに違いない。

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