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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.426

恐怖の向こう岸で待っているのは一体何なのか? シャマラン監督が導き出した回答『スプリット』

恐怖の向こう岸で待っているのは一体何なのか? シャマラン監督が導き出した回答『スプリット』の画像2女子高生3人は多重人格者を相手に戦うことに。温厚な人格かどうかを冷静に見極めなくてはいけない。

 どうすれば、この密室から脱出できるか。ドアの向こうからは3人を拉致したケビン(ジェームズ・マカヴォイ)の他に、女性の声や子どもの声も聞こえてくる。観察眼の鋭いケイシーは、ケビンが複数の人格を持つ多重人格者であることに気づく。見るからにヤバそうなケビンが相手では、女子高生3人がかりでも勝てそうにない。そこでケイシーは攻撃的な人格ではないタイミングを見計らい、友好的な人格を手なづけ、出口を見つけようとする。だが、いつ凶暴なケビンに人格交替するか予測できない。ケイシーたち女子高生3人は、23人もの人格を持つ犯罪者を相手に心理戦を繰り広げることになる。

 デヴィッド・フィンチャー監督の『ファイトクラブ』(99)をはじめ、90年代~00年代には多重人格をネタにしたサイコサスペンスが量産された。多くの作品は、凶悪犯罪を起こした真犯人は自分の中にいるもうひとりの自分でしたというオチとして多重人格という設定を利用したものだった。その点、本作では早い段階でケビンは多重人格であることが明かされ、ジェームズ・マカヴォイが凶暴な男ケビン、人当たりのよい好青年バリー、優雅な女性パトリシア、9歳児のヘドウィグ……と演じ分けるシーンが見どころとなっている。ケイシーたちが閉じ込められている密室のドアが開く度に、別人格が現われる。人懐っこい少年ヘドウィグによれば、現在は23人格だが、もうすぐ最後の人格となる24番目の人格が現われ、そいつはとてつもなく恐ろしいモンスターだという。ケイシーたちは、モンスターの生贄となってしまうのか?

 人格障害と考えられてきた多重人格(解離性同一性障害)だが、シャマラン監督は従来の映画とは異なる形で解釈している。ダニエル・キイスのノンフィクション小説『24人のビリー・ミリガン』(早川書房)では多重人格者は人格交替によって性格が変わるだけでなく、顔つきや口調も変わり、学んだことのない言語を操り、驚異的な腕力や芸術的な才能を発揮することにも触れていた。シャマラン監督はこの点をクローズアップし、多重人格を生きづらい社会に適応するために生じた人間の未知なる能力として捉えようとしている。多重人格は精神病ではなく、隠された能力への目覚めではないのかと。

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