日刊サイゾー トップ > その他 > PR情報  > 町山智浩“最前線の映画”後編

映画評論家・町山智浩が“最前線の映画”を語る! 「淀川長治さんのような映画人生は難しい」後編

■大きく変わろうとしているハリウッド

──米国西海岸在住の町山さんに、最新のハリウッドの動向についてもお聞きできればと思います。「♯Me Too」運動で、映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン、俳優のケヴィン・スペイシーらが告発されましたが、今後ハリウッドはどう変わると町山さんは見ていますか?

町山 ハリウッドはずっとセクハラ問題を隠蔽してきましたが、今後は無理です。日本ではあまり報道されていませんが、『ラッシュアワー』(98)などを監督したブレッド・ラトナーはセクハラで女優たちから訴えられ、永久追放になっています。『ユージュアル・サスペクツ』(95)の監督ブライアン・シンガーも恐らく、もう表には出てこられないでしょう。

──『X-MEN』シリーズはもう作られない?

町山 ブライアン・シンガーの手からは、完全に離れることになると思います。ディズニーのアニメ部門のトップであるジョン・ラセターでさえ、セクハラを治す研修を受けるという名目で半年間休業させられています。ラセターはワインスタインよりも大物です。ウディ・アレンも厳しいでしょう。グレタ・ガーウィックやティモシー・シャメラらが、「彼の作品に出たことを恥じている」と出演料を返したり、女性運動に寄付したりしています。ウディ・アレンの監督作は新作『A Rainy Day in NewYork』(18)が恐らく最後の作品になりそうです。

──ハリウッドは新しい時代への節目を迎えているようですね。

町山 リドリー・スコット監督を先日インタビューしたんですが、「芸術と人間性はまったく関係ないんだ」と話していました。昔からクズな人間がすごい芸術を生み出すことは多々あったと。でも、その作品に出ないことも、また自由なんだと。難しい問題です。もうひとつ、今回ハリウッドでいちばん問題になっているのは男女の賃金格差についてです。リドリー監督の『ゲティ家の身代金』(公開中)はミシェル・ウィリアムズ主演なんですが、脇役のマーク・ウォールバーグのほうが遥かに高いギャラをもらっていたため、このことが大問題になった。主演のミシェルのほうが拘束期間は長いし、物語の主人公なのに、ウォールバーグのほうが何百倍もの高額ギャラを受け取っているのはおかしいと。男優と女優とのギャラがあまりにも違いすぎ、その理由も明確に示されていないわけです。ウォールバーグは今回のギャラは「♯Me Too」運動に寄付せざるをえなくなった。これからは男優と女優のギャラの均等化が進んで、女性を主人公にした作品が多くなるでしょう。パティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン』(17)が大ヒットしたことで、それまでハリウッドではほぼ0%だった女性監督もかなり増えるはずです。ハリウッドが大きく変わることは間違いありません。

『ワンダーウーマン』 WONDER WOMAN and all related characters and elementsc) & ™ DC Comics and Warner Bros. Entertainment Inc.

──最後の質問です。淀川長治さんのようなメジャーな映画伝道師の存在を求めている日本の映画ファンは少なくないと思います。町山さんは淀川さんの後継者になろうという考えはありますか?

町山 娘が大学に入ったので、これからは仕事をスローダウンしてもいいかなと思っているところなんですよ(笑)。スキューバダイビングもやりたいですし、ロシアやアフリカなど海外も回ってみたい。淀川さんは映画にすべてを捧げた人生を送った方。六本木のホテルで暮らし、テレビ朝日と映画試写室を回ってずっと映画を観続けるという生活。淀川さんのノートには、小さな字でびっしりと映画についてのメモが書かれていたそうです。淀川さんと同じような人生を歩むことは無理です。映画以外にも好きなことが多い僕は、そんな偉大な人にはなれません(笑)。

──ハリソン・フォードを取材した際、「君は映画を見過ぎだ」と町山さんは言われたと聞いていますが。

町山 いやいや、正確には「映画以外にもやるべきことがあるだろう」と言われたんです(笑)。人生は映画以外にもやるべきことがいっぱいあるんじゃないのかと。確かにハリソン・フォードは自家用飛行機を操縦して、人命救助などもしていますしね。映画スターのハリソン・フォードから、すごいこと言われちゃったなと(笑)。淀川さんにはなれませんが、面白い映画をいろいろと紹介していくつもりです。これから米国に戻って、また映画を観る生活を送ります。

(取材・文=長野辰次)

●町山智浩(まちやま・ともひろ)
1962年東京都生まれ。「宝島」「別冊宝島」などの編集を経て、95年に「映画秘宝」(洋泉社)を創刊。97年より米国に移住し、現在はカリフォルニア州バークレイ在住。「週刊文春」「月刊サイゾー」ほか連載多数。著書も『「最前線の映画」を読む』(インターナショナル新書)、『今のアメリカがわかる映画100本』(サイゾー社)ほか多数あり。

【特別番組】町山智浩スペシャルトーク「町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号」
6月下旬~7月中旬、BS10スターチャンネル「映画をもっと。」(毎日20時放送ほか)枠内、および7月1日(日)夕方5:40ほかインターバルにて無料放映。

【特集企画】町山智浩が暴く『最前線の映画』の暗号
7月3日(火)~16日(月)夜9時ほか、BS10スターチャンネルにて連日放送(全12作品)【※各映画の本編前と本編後に、町山氏による解説を合わせて放送します】

http://www.star-ch.jp/saizensen/

『ブレードランナー2049』~Kが追い求めた「噴水」~
『エイリアン:コヴェナント』~アンドロイドはオジマンディアスの夢を見る~
『ラ・ラ・ランド』~狂気が開ける扉~
『ドント・ブリーズ』~「8マイル」の真実~
『沈黙-サイレンス-』~三百六十年後の「ゆるし」~
『LOGAN/ローガン』~世界の終わりの西部劇~
『ベイビー・ドライバー』~なぜ彼はベイビーと名乗るのか~
『ダンケルク』~偽りのタイムリミット~
『ムーンライト』~「男らしさ」からの解放~
『ワンダーウーマン』~戦う『ローマの休日』~
『メッセージ』~宇宙からのライプニッツ~
『アイ・イン・ザ・スカイ』~ドローンという「レッサー・イーヴル」~

最終更新:2018/06/20 14:20
12
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

水原解雇に間に合わなかった週刊誌スクープ

今週の注目記事・1「水原一平“賭博解雇”『疑...…
写真
イチオシ記事

さや香、今年の『M-1』への出場を示唆

 21日、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「賞レース2本目やっちまった芸人」の完結編が放送された。この企画は、『M-1グランプリ』(同)、『キ...…
写真