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「バトルは音楽を飛び越え政治まで!」テイラー・スウィフトとカニエ・ウエストの仁義なき戦い

 トランプが大統領に就任してから、アメリカ国民の政治、移民問題、性的価値観に対する見解が二極化し、溝が深まったことは言うまでもない。最近はアメリカの職場でも、政治の話になると口論が起こりやすいため、勤務中はなるべく政治の会話をしないように指示している会社も増えているくらいだ。そんな緊張感が漂うアメリカ情勢の中で、ポップスターが政治や選挙について言及することは、キャリアを終わらせる結果になりかねないので、具体的な発言を避けるアーティストが多い。だからこそ、これまで政治について語ることが皆無だった世界的ポップスターのテイラー・スウィフトが、去る10月7日にインスタグラムを通じ、11月の中間選挙で投票する政治家について明言したことは、アメリカ全土を震撼させた。

 テイラーといえば、もともと保守的な価値観が強いカントリーミュージックの世界からポップスターへとのし上がったシンガー。恋愛をテーマにした胸キュン・ソングが多いため、ファン層の大半は白人のティーンエイジャーだ。また、彼女の金髪と青い目、スレンダーでキュートなルックスは、アメリカの王道的な美の象徴でもあり、これもまた保守派層からのウケが抜群。そんなイメージを持たれている彼女の長文の投稿は、保守派層を憤慨させるものだった。

「11月6日に行われる中間選挙について投稿します。まず、私はテネシー州で投票します。私はこれまで公の場で政治的発言を避けてきましたが、ここ2年間の私の人生と世界でのさまざまな出来事によって、考え方が変わりました。私は今も昔も、アメリカ全国民が享受するべきである人権のために戦う候補に投票してきました。私はLGBTQの権利のために戦うことが大切だと信じていますし、性的指向やジェンダーによるあらゆる差別が間違っていると信じています。私はアメリカにおける有色人種に対する組織的な人種差別に恐怖を覚えており、この病的な傾向はまだアメリカで蔓延しています」

 さらに彼女は、「テネシー州から上院選挙に出るのは、マーシャ・ブラックバーンという女性です。私はこれまでなるべく女性の候補者に投票してきましたが、マーシャ・ブラックバーンは支持できません。これまでの彼女の議会での投票履歴を知って、恐ろしくなりました。彼女は男女の同一賃金に反対しました。DVやストーカー、デートレイプから女性を守ろうとする法案の改正にも反対しました。彼女は、ゲイカップルへのサービス提供を拒否する権利がビジネス側にあり、ゲイカップルには結婚する権利がないと考えています。そういう考えは、私のテネシー的価値観とまったく反対です。私は今回、上院はフェル・ブレデセン、下院はジム・クーパーに投票します」と記し、最後に「100%賛同できる候補者や党はなくても、選挙に行くべき」と書き、選挙登録をファンに呼びかけた。

テイラーがインスタに投稿した意思表明。この投稿が中間選挙への投票をどう変えるか注目されている。(画像はテイラー・スウィフトのインスタグラムより)

 この投稿には、200万人以上の「いいね」が集まっており、1億4,000万人以上のフォロワーがいる彼女の影響力が、いかに甚大かを物語っている。テイラーが投票するテネシー州は接戦になっており、彼女のインスタの投稿によって民主党候補が勝ち、与野党逆転になる可能性もあると言われているほど。一方、トランプ大統領はこの彼女の投稿について、「テイラーに対する好感度が25%くらい下がった」と発言し、当然ながら共和党の政治家や、保守派の人間はメディアやSNSを通じて彼女を痛烈に批判した。この投稿後も、彼女は選挙に行ったファンの投稿をリポストし、保守派のファンを失うことを恐れていないスタンスを見せつけた。

 これまで政治に対してニュートラルなスタンスを貫いてきた彼女は、「私はまだ政治の知識があまりないので、人々に誰に投票するべきか言える立場ではありません」と過去にタイム・マガジンのインタビューで語っていたが、そのニュートラルなスタンスがゆえに、勝手に白人至上主義のファンが、彼女を理想の白人女性像として掲げられるようになった。しかし、そのイメージを払拭するべく、彼女は2017年のウィメンズマーチを支持する投稿を書いたり、大統領選でヒラリー・クリントンに投票することをほのめかすような投稿をインスタで書いたり、性的暴行を受けた女性を守る活動に積極的に参加し、リベラル的傾向を徐々に見せるようになった。

 もうひとつ忘れてはいけないのは、テイラー・スウィフトとラッパーのカニエ・ウエストとの抗争だ。2009年、MTVビデオ・ミュージック・アワードでテイラーは「You Belong With Me」で最優秀女性ビデオ賞を受賞したが、そのスピーチの最中にカニエがステージに飛び上がり、彼女からマイクを奪って「ビヨンセのビデオが一番最高だったんだ!」と言い放ち、バトルの口火を切った(当時、オバマ大統領もこの騒動について「カニエはアホだ」と発言している)。しかもこの抗争は音楽の分野にとどまらず、今や政治的分野にまでバトルが波及している。

 思い起こせば05年、アメリカ南部を襲ったハリケーン・カトリーナに対する政府の対応に関して、カニエ・ウエストはジョージ・ブッシュ大統領(当時)を「ブッシュは黒人のことをどうでもいいと思ってる」と批判し、黒人たちから熱い支持を受けた。しかし、オバマに「アホ」と呼ばれて傷ついたカニエは、今やトランプ支持者になったとも言われており、トランプ大統領のスローガンでもある「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大にしよう)が印刷された野球帽を身に着け、10月にホワイトハウスを訪れてトランプと会談したことが報じられると、一気に黒人層から非難される存在になった。カニエはこの会談時、自身がデザインした人気スニーカーである、白い〈Yeezy Boost 350 V2〉をトランプ大統領にプレゼントしたことも話題になった。この行動からYeezyスニーカーの人気が下がることが予想されたが、不思議なことにYeezyのスニーカーの人気は衰えず、むしろセールスが上がったという報告もある。この現象は、ポップカルチャーと政治が必ずしも直接的にリンクしていないことを物語っている。

トランプ大統領と会談するカニエ・ウエスト。この光景を全米はどう見たのだろうか。(写真:DPA/共同通信イメージズ)

 オバマと同じシカゴ出身の黒人アーティストであるカニエ・ウエストが、人種差別的発言を平気でするトランプ大統領と共和党を支持し、保守的な州として知られるテネシー出身のテイラーが民主党を支持するという逆転現象は、誰も予想だにしなかったはず。こんな奇天烈なSF映画のような状況が現実にアメリカで起きており、今後もポップカルチャーと政治のいびつな関係性から目が離せなさそうだ。
(文=バルーチャ・ハシム廣太郎)

最終更新:2018/10/31 19:30

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