渋沢栄一と岩崎弥太郎の対立――「料亭事件」の真相と、五代友厚の“仲介”

文=堀江宏樹(ほりえ・ひろき)

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

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吉沢亮演じる渋沢栄一(左)と中村芝翫演じる岩崎弥太郎(右)|ドラマ公式Twitterより

 『青天を衝け』第36回は「栄一と千代」というタイトルどおり、コレラで亡くなった千代の話がドラマの中心でした。貫禄がついてきた渋沢栄一が、愛妻の死には子どものように声を上げて泣くシーンにグッときた筆者です。不幸は重なるものなのか、千代の死の前には、渋沢たちが共同資本で立ち上げた海運会社「東京風帆船会社」が岩崎弥太郎率いる「三菱商会」にすぐに圧倒されてしまったことも描かれました。

 史実でも三菱からの攻撃はすさまじかったことが知られています。「渋沢が米を買い占めて値段を釣り上げようとしている」とか、「渋沢の第一銀行が潰れそうなので、彼は首をくくって自殺したらしい」などの悪辣なデマを、岩崎が新聞に金を払ってまで書かせたりしていたのです。

 渋沢家の面々は、三菱から相当な嫌がらせを受けたことを後々まで鮮明に記憶しており、渋沢秀雄の回想録『父 渋沢栄一』(実業之日本社)によると「阪谷の姉(=渋沢の次女・琴子)」が「あんなにくやしい、腹の立ったことはありませんでした。ウソばかり書く人間を面詰(めんきつ)してやりたくって……」と、「事件から三、四十年もたってから」も、昨日のことのように当時の屈辱を思い出して怒っていた様子が紹介されています。

 『父 渋沢栄一』で引用された『岩崎弥太郎』(民友社、明治32年刊)という資料によると、三菱は、東京風帆船会社などライバル会社の船の後を「附船」して追いかけ回していたそうです。ライバル会社の顧客に格段に低い金額を提示し、商売を横取りするためです。もちろんそんな低い値段では三菱側も赤字なのですが、すべては嫌がらせのためです。商売敵を壊滅させるためなら、そこまでやるか……と思わせるような三菱の徹底的な攻撃に、渋沢らの東京風帆船会社は耐えられませんでした。

 しかし、渋沢と岩崎の確執の歴史は、“岩崎から料亭に招かれたのに、渋沢が厠に行くふりをして帰ってしまった無礼がきっかけで始まった”というふうに『父 渋沢栄一』の中でもドラマの中でも描かれていましたが、実際はそう単純なものではありえなかったようですね。

 渋沢は岩崎同様に、島国・日本における海運業の重要性を当初から把握しており、海運業に従事しようとしていました。しかし、海がない現在の埼玉県に生まれた渋沢と海運ビジネスの相性は良くなく、失敗したのは東京風帆船会社で2回目なのです。遡ること8年ほど前、明治5年(1872年)には、渋沢が携わって「日本郵便蒸気船会社」という半官半民の海運会社が立ち上げられますが、これはわずか3年で解散してしまいました。 

 一方、土佐藩出身の岩崎弥太郎は、明治維新後、藩が所有していた船などを安価で譲り受けるなどして、商売に使える船舶を着々と集めていきました。設備投資費を抑えられたことによる手ごろな料金を強みに、民間の海運業者「三菱商会」を急成長させることができたのです。速さ、正確さ、安さといった、価格とサービスの点で、日本郵便蒸気船会社は三菱商会に全くかないませんでした。

 さらに三菱商会は、日本郵便蒸気船会社が断った明治7年(1874年)の台湾への派兵を請け負い、政府からの強い信頼を得ました。こうして、日本郵便蒸気船会社が虚しく解散した後も、三菱商会は発展を続けていったのです。なお、日本郵便蒸気船会社の解散後、同社が所有していた船のうち12隻が三菱商会に払い下げられることになりました。渋沢にしてみれば面白くもなんともありませんが、岩崎は渋沢に船を譲ってもらった恩があったのです。

 渋沢は明治12年(1879年)に「東京海上保険会社」を設立していますが、これを全面的にバックアップしてくれたのが岩崎で、この頃はまだ両者の関係は良好でした。少なくとも、表向きには。つまり、「渋沢と岩崎の関係は出会ってすぐに料亭で決裂してしまった」のではなく、それ以前からトラブルをはらみながらも、表面的には大きな波風を立てずにいたのが、「例の料亭事件の後、両者の関係は急激に悪化した」というのが真実のようです。

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