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長澤まさみ『エルピス』を「放送」で観るべき理由 TVerで変更された“あのシーン”

文=新城優征(しんじょう・ゆうせい)

長澤まさみ『エルピス』を「放送」で観るべき理由 TVerで変更された“あのシーン”の画像
ドラマ公式サイトより

 長澤まさみ主演のフジテレビ系月曜ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』が話題となっている。出演者の鈴木亮平が「テレビを知り尽くした人たちがつくるテレビの裏側の話」と語っていたが、まさにこのテレビ局とそこで働く人間たちが置かれている環境、そしてテレビの報道に対する反省・自戒ものぞく、これまでにない真摯な姿勢で語られる物語が反響を呼んでいるのだ。

 舞台となるのは2018年、「大洋テレビ」という架空のテレビ局。かつて報道番組『ニュース8』でサブキャスターを務めていた人気アナウンサーだったが、2年前にエースの座から転落し、今は万年低視聴率の深夜バラエティ『フライデーボンボン』で当たり障りのない情報を届けている浅川恵那(長澤まさみ)が主人公だ。

 物語の軸となるのは、『フライデーボンボン』を担当する若手ディレクター・岸本拓郎(眞栄田郷敦)が突然持ちかけてきた八頭尾山連続殺人事件。若い女性ばかりを狙ったこの連続殺人事件で2006年に逮捕された松本(片岡正二郎)が冤罪なのではないかと岸本は訴える。2年前の2016年に最高裁で死刑判決が下されており、浅川はキャスター時代の苦い経験もあって冤罪事件には関わりたくないと一蹴するが、必死に食い下がる岸本の姿に、徐々に報道に対する熱意を取り戻していく。

 第2話では、浅川が事件を再検証していく中で、このドラマが描こうとしているものがより鮮明になった。

 浅川は、当時交際していた報道部のエース記者・斎藤正一(鈴木亮平)との路上キス写真を週刊誌に撮られるというスキャンダルを起こし、それをきっかけに『ニュース8』を降板したと思われていたが、浅川からすれば「ずっと前からだめになってた」。浅川は、寝られない、食べられないという悩みを抱えていることが第1話で明かされ、それはエースの座から転落して精神を病んだのかと思われたが、実際は『ニュース8』で上から言われるままに「あたかも真実のように」ニュースを無責任に伝えている自分自身に嫌気が差し、キャスター時代から精神的に追い詰められていた。自らの責任で、自らの言葉で伝えたいという思いを無意識に封じ込めていた浅川は、冤罪疑惑を追っていく中で、少しずつ自分を取り戻していく。浅川が急に吐き気を催すのは、自律神経のバランスが崩れているというのではなく、無責任に“アナウンス”の仕事を続けることに対する拒否反応だったのだ。ゆえに浅川が、事件検証のためにつくったカレーを口にするシーンは印象的だった。納得できないことは「もう飲み込めない」浅川は、しかし結果的に共に事件を追うことになった岸本と一緒だと、まずい出来のカレーをもどすことなく食べることができた。

 松本が犯人として逮捕されたのは、メディアが疑わしい人物として盛大に報じた影響が大きかった。テレビの報道加害について踏み込むこのドラマにおいて、中でも反響を呼んだのが、浅川がキャスター時代の自分について反省する、番組終盤だ。

 「信頼されるキャスターになりたい」という夢を抱いていた浅川だが、入社3年目で『ニュース8』のサブキャスターに抜擢されたものの、「そんな夢は一生かなえられない」現実を目の当たりにしたと語る。そして、「自分があたかも真実のように伝えたことの中に、本当の真実がどれほどあったのか」と振り返る中で、サブキャスター時代の浅川のシーンが挟まれる。そこには福島第一原子力発電所事故の発生時、政府関係者らしき男性に意見を聞き、「問題ありません」と断言されるシーンや、オリンピック・パラリンピック招致活動で安倍総理大臣(当時)が汚染水問題について「状況はコントロールされており、東京に決してダメージは与えない」と発言したと報じるシーン、東京五輪開催決定に「被災地でも喜びの声」が上がっていると伝えるシーンなどが映し出されるのだ。

 現実のニュースが登場し、しかもそれらに「本当の真実がどれほどあったのか」と問いかけるこのシーンは、視聴者に大きな衝撃を与えたと共に、SNSでは「拍手」「これを覚悟があるとか硬派とかって言うのがほんとうはおかしい」「観れば観るほどテレビ局がこのドラマを断り続けてきた理由がよくわかる」などと、その姿勢を評価する言葉が相次いで上がっている。

 一方で、この場面についてはTVerでの配信では一部変更があった。テレビ放送では、五輪招致の最終プレゼンについてのニュースで、安倍元総理が「The situation is under control」と語る実際の映像が肉声付きで流れたのだが、TVer版では安倍元総理の静止画のみとなっていたのだ。ささやかな変更にように思われるが、実在のニュース映像がこの文脈で流れたのを目の当たりにするインパクトは大きい。

 佐野亜裕美プロデューサーは、第2話について、「様々な事情でオンエアでしか出せないものがあります」「もし可能でしたら、リアタイは無理でも録画して観ていただけたら嬉しいです」「もちろん配信等でも楽しんでいただけるように精一杯作っています。録画予約をしていただけたら幸いです。いつかこんなこと言わなくてもよくなることを願って…」とツイートしていた。第2話放送後には「無事放送できた」ともツイートしている。我々はなるべくリアルタイム視聴、もしくは録画で、テレビ放送を目撃する必要がありそうだ。

 「実在の複数の事件から着想を得たフィクション」と謳う『エルピス』には、業界関係者からも応援の声が続々と届いている。2020年度のギャラクシー賞テレビ部門奨励賞に輝いた『ペペロンチーノ』(NHK BSプレミアム、NHK BS4K)などの脚本家・一色伸幸氏は、「テレビの報道加害を描いた企画を数年前に書いた。脚本の準備に入ったところで中止命令が出た。僕の至らなさもあったろうけど、『ドラマも報道も同じ局。仲間の背中を撃つわけにはいかない』と。 だから……まだ展開が読めないけど……『エルピス』、応援している。本気で険しい道だったと思うぞ」とツイートしていた。物語が最後までちゃんと制作側の望む形で放送されることを期待したい。

新城優征(しんじょう・ゆうせい)

新城優征(しんじょう・ゆうせい)

ドラマ・映画好きの男性ライター。俳優インタビュー、Netflix配信の海外ドラマの取材経験などもあり。

最終更新:2022/11/02 09:00

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