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連載

お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第1回


有吉弘行が手にした「毒舌の免罪符」



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『我々は有吉を訴える』/ポニーキャニオン
 悪口を言って笑いを取る「毒舌キャラ」を貫くのは難しい。ブラックジョークの伝統が根付いていない日本では、人を悪く言うことは基本的にタブーとされているからだ。


 しかも最近のテレビ界は、昔よりもはるかに規制が厳しい。バラエティ番組でのちょっとしたイタズラや口論が「いじめにつながる」などと批判されてしまうご時世だ。日本の風土にも馴染まない「毒舌キャラ」のポジションは、お笑い界でも長いあいだ空席であった。

 そんな中で、意外なところから毒舌界のニューヒーローが登場し、世間を騒がせている。言わずと知れた元・猿岩石の有吉弘行だ。有吉は『アメトーーク』(テレビ朝日)にて、品川庄司の品川祐を「おしゃべりクソ野郎」と命名。品川という芸人の本質を突いたこのフレーズが話題を呼び、いまやテレビで彼の姿を見ない日はないというほどの人気を誇っている。

 今の有吉は、毒舌キャラに必要な2つの条件を備えている。

 1つは、鋭い批評精神があること。的外れな悪口をいくら繰り返しても、人を笑わせることはできない。今まで誰も言っていなかったけれど、実はみんなそう思っていた、というようなことを悪口の形で提示できれば、それがブラックな笑いを生む。頭の回転が速く、的確な批判を瞬時に繰り出すことができる有吉には、毒舌の才能があった。

 もう1つは、悪口を言っても許される人間であること。知っての通り有吉は、デビュー当時に『進め!電波少年』(日本テレビ)のヒッチハイクの旅で大ブレイク、一時は日本中で知らない人はいないというほどの人気者となっていた。しかし、ブームが過ぎ去るとみるみるうちに落ちぶれて、明日の生活にも困るほどの絵に描いたような転落人生を送ることになった。

 雑誌『m9』(晋遊舎)のインタビューで有吉はこう語っている。

「売れない時期が続いてやさぐれたっていうことで、『やさぐれて当然だ』っていうバックボーンは作れたんじゃないですかね」

 頂点からどん底への転落、という経歴を持っているからこそ、有吉の放つ毒には捨て身の力強さがある。そして、その経歴を視聴者の多くが知っているからこそ、どぎつい発言がぎりぎりのところで中和され、大きな笑いにつながっているのである。

 そんな有吉が今年2月に発売したDVD『我々は有吉を訴える』は、彼の負の側面に焦点を絞ったフェイクドキュメンタリー。『電波少年』の企画を髣髴とさせる東北横断のヒッチハイクの旅の中で、心優しい田舎の人々を相手に食い逃げ、押し売り、番組詐称と悪の限りを尽くす。どこまでがリアルなのかわからない有吉の悪行とそれをとがめるスタッフとの緊迫したやりとりまで、一部始終が収録されている。

 今のテレビ界には、有吉ほどの精度で他人を傷付ける毒のある笑いを量産できる人材はほかにいないだろう。また、一時は頂点を極めながら最底辺まで落ちぶれた、という点で、有吉ほど強力な「毒舌の免罪符」を持っている芸人もなかなかいない。

 2つの条件を満たしたからこそ実現できた渾身の毒舌芸。底辺からはい上がった男がやっとの思いで獲得した地位は、しばらく揺るぎそうにない。
(お笑い評論家/ラリー遠田)


●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

我々は有吉を訴える ~謎のヒッチハイク全記録~


ディレクターは我らがマッコイ先生です。


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2008.10.01 水  



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